第27話「さりげなくにぎにぎ」

「別に白雪先輩に謝ってもらうような事では……春野先輩の気持ちを蔑ろにしている事には変わりないですし……」


 態度を一変されて戸惑いつつも、俺は自分に非がある事を告げる。

 誰がどう見ても彼女の事を蔑ろにしている俺が悪いのに、こんなふうに謝られると罪悪感が増すだけだった。


「他の女の子と遊ぶとか……あの女の子の気持ちを弄ぶ男と遊ぶからって理由だったら軽蔑してたけど、施設に顔を出すっていう理由なら納得できるわ。それに、ただ顔を出してるわけじゃないでしょ?」


 女の子の気持ちを弄ぶ男と言う際に声が数段低くなったんだけど、それは翔太の事かな?

 というか翔太の事しかないよね?


 別に翔太が本当に女の子の気持ちを弄んでいるかというと、そうじゃない。

 ただ女の子の好意に疎いのと、イケメンなのに誰にでも親切にしてしまうせいで女の子に勝手に惚れられてしまうだけであり、翔太自身が相手の子を自分に惚れさせようと行動しているわけではない。


 でも結果的には女の子の好意を無下にしてしまっているため、白雪先輩には女の子の気持ちを弄んでいるように見えるのかもしれないね。

 だから翔太が一緒にいると機嫌が悪くなるのかもしれない。

 ただ男だからって理由だったら俺に対してもこんな優しい笑みは向けてこないだろうからね。


 まぁそれはそれとして、いい加減ちょっとツッコんだほうが良さそうだ。


「あの、さっきから気になってたんですけど……妙に俺の事に詳しすぎませんか?」

「「…………」」


 俺がここまで気になっていた事を質問すると、二人は仲良く揃ってそっぽを向く。

 その表情はどちらも気まずそうであり、完全に後ろめたい感情がある事が見てとれる。


「いや、あの、顔を背けられると怖くなるんですけど……? もしかして俺の事を調べたり後をつけたりしてたんですか……?」

「……黙秘権を行使するわ」

「春野先輩?」

「えっと……ごめんね?」


 白雪先輩が話すつもりはないようなので春野先輩に話を振ってみると、かわいらしく小首を傾げられながら謝られてしまった。

 ここはなかった事にしよう――一瞬そう誤魔化されてしまいそうになるかわいさだ。

 でも、こんなふうにされると逆に聞かずにはいられない。


「あの、誤魔化されると逆に怖いんで話してください。今なら怒ったりしませんので」

「それ、絶対に怒る奴よね」

「理不尽な先生方と一緒にしないでください」


 先生という生き物は怒らないから正直に言ってこいと言っておきながらも、自首をしたら容赦なく怒る生き物だ。

 子供を指導する立場の大人が平気で嘘をついて約束を破るのはどうかと思う。


 ……まぁ、もちろんそんな先生ばかりというわけではないし、そもそも悪いのは怒られるような事をする生徒なのだけど。


「春野先輩、教えてくれないのですか?」


 とりあえず白雪先輩は落とせない事は最初からわかっているため、簡単に落とせそうな春野先輩を標的にしてみる。

 先輩は困ったように逃げ場を探すけど、俺は逃がさないように一歩詰めて手を握った。

 すると先輩は『あわわ……!』とテンパり始めるのだけど、俺は手を放す事はせずにジッと先輩の目を見つめる。


 すると恥ずかしくなったのか、先輩は俺の視線から逃れるために俯いてしまう。


 ――だけど、すぐにチラチラと俺の顔を見上げてきた。


 なんだろ、かわいい。


「話してくれませんか?」

「えっと……」

「本当に怒ったりしませんよ。むしろ隠されるほうが悲しいです」

「あっ……」


 俺の思いを伝えると、やっと春野先輩がちゃんと俺と目を合わせてくれた。

 このまま逃げるほうがよくないとわかってくれたんだと思う。

 少し離れたところで『惚れた弱みに付け入るなんてずるい』と白雪先輩がジト目を向けてきていたけど、今回ばかりは俺は悪くないので気にしないでおく。

 まぁそれはそうと、多分気を紛らわせようとしているんだろうけど、さりげなくにぎにぎと俺の手を握り始めた春野先輩がかわいい。


 どうしよう、なんだかもう春野先輩の事をかわいいとしか思えなくなってきた。


「えっとね、事の始まりは一年生の時に冬月君が留年しかけた事が理由なの」


 春野先輩は話す気になってくれてたようで、ゆっくりと思い出すように上目遣いになりながら説明を始めてくれる。

 しかし――。


「それで、さすがに留年をしそうな生徒をほっとくわけにはいかな――」

「――はっきり言えばいいのに。問題児が許せなくて目を付けたって」


 わざとなのか――というか百パーセントわざとなのだけど、白雪先輩が春野先輩の言葉を悪意的に訂正をする。

 まぁ、言わんとする事はわかるのだけど。


「なんでそう誤解を招く方向に持っていきたがるの!?」


 多分春野先輩は俺に気を遣ってくれていたんだろうけど、その厚意を無下にする白雪先輩の発言にすっとんきょうな声を出してしまう。

 ポカポカと白雪先輩の頭をまた叩き始めるのだけど、休み時間も残り少ないしさっきから話が止まるのでいい加減にしてくれないかなっと思った。

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