第23話「見栄」
目の前には顔を真っ赤にしてモジモジと体を揺らし、恥ずかしそうにしながらも期待するような目で見上げてくる春野先輩。
斜め前には射抜くような視線を向けてくる白雪先輩。
そして、親友である翔太はいつの間にか逃走している。
なんだろ、これ……?
春野先輩はそういう事好きそうだからしたがるのはわかるし、白雪先輩は自分が大好きな春野先輩が嫌いな男子と仲良くするのが面白くないというのもわかる。
将太に関しては後で追及するからいいとして、今現在俺はどうしたらいいのだろう?
もっと言えば、どうすれば何事もなく事を収められるのかな?
このまま春野先輩の行為を受け入れると白雪先輩を敵に回す可能性が高い。
なんせこの人は、学校で有名なくらいに春野先輩が大好きだからだ。
その春野先輩がカップルがする『あ~ん』を俺にするのは面白くないだろう。
だけど断ってしまえば春野先輩が悲しんでしまいそうだ。
それどころか多分拗ねてしまうと思う。
両者に角を立てずこの場を収める方法がない限り、これは今後の学校生活がやばくなる気がする。
――とはいえ、彼女と怖い先輩。
どちらかを取らないといけない場合、もう取るほうなんて決まってる。
さすがにそこを間違えるほど俺も駄目人間ではない。
「そ、それじゃあ、あ~ん……」
俺は意を決して、少し大きめに口を開ける。
すると、春野先輩が嬉しそうに笑みを浮かべながら俺の口の中に卵焼きを入れてきた。
先輩が箸を引いたのを確かめてから口を動かすと、想像していたのとは違う味が口の中に広がる。
色が普通の卵焼きに比べて白っぽいなと思っていたのだけど、どうやら醤油ではなく砂糖で味付けしているらしい。
だからほんのりと甘い味が口の中には広がっていた。
卵自体もフワフワしていてとてもおいしい。
ほとんど馴染みがないのだけど、家庭的な味とはこういうのを言うんだと思う。
「おいしいですね」
「ほ、本当……!?」
「もしかして先輩の手料理ですか?」
おいしいと言うと春野先輩が目を輝かせたため、彼女が作った物なんじゃないかと思った。
しかし――。
「あっ、あ~う、うん。ま、まぁ、私が作ったと言えば作ったかなぁ?」
なんだかよくわからないけど、かなり怪しい言葉が返ってきた。
というかこれは作ってないんじゃないだろうか。
「どうして見栄を張るのよ」
そしてこういうふうに白雪先輩からも横やりを入れられる。
やっぱり先輩が作った物ではなさそうだ。
「だ、だって、お弁当に詰めるのは私がしたし!? これはもう作る事に関わったと言えるよね!?」
ツッコみを入れられたからか、あせあせと目を彷徨わせながら言い訳を始める春野先輩。
すみません、先輩。
確かに関わっているのかもしれないですけど、それは作ったとは言わないです。
ただ詰める作業をしただけですね。
とツッコみたくなるけど、あまりにも慌ててるのでツッコむのがかわいそうに思えた。
だから俺はグッと言いたい事を我慢したのだけど、逆に白雪先輩は我慢をするつもりはないようだ。
「料理できないんだから素直に言ったらいいのに」
「なんでそういう事言っちゃうの!? 違うよ!? 今はお勉強しないといけないからって事でお母さんに料理をさせてもらえないだけで、やろうと思えばできるんだよ!? ……たぶん」
別に女の子だからって料理ができないと駄目だという考えは持っていないのだけど、春野先輩は料理ができないと知られたくないのか白雪先輩に怒りながら俺に言い訳をしてきた。
最後の自信がない呟きも不思議としっかり聞き取れてしまったのだけど、聞かなかったふりをしたほうがいいのかな?
まぁとりあえず、この人は料理ができないという事だけはわかった。
「見栄張ると後がしんどいのに」
「もうふぶきは黙っててよ……!」
抗議のつもりなのか、春野先輩は白雪先輩の後ろに回り込むとポカポカと叩き始める。
もうただじゃれているようにしか見えない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます