第24話「絶対零度並み」

「もう! もう! ふぶきはいつもいじわる言うんだから!」

「普段から美琴が背伸びをするからでしょ。無理したって自分がしんどいだけだってわからないと」

「生徒会長なんだからみんなのお手本にならないといけないじゃん……! だから頑張ってるのに……!」

「美琴は素のままで魅力的なんだからそんな必要はないわ」

「でも……!」


 頬を膨らませながらポカポカと白雪先輩を叩く春野先輩と、男子には見せない優しい笑みを浮かべてまるで幼子に言い聞かせているような白雪先輩。

 完全に子供と大人のやりとりだ。


 やっぱり素の春野先輩は子供っぽいと思う。

 話を聞く限り普段大人っぽく見えていた春野先輩はそういうふうに見せようと頑張っていた姿で、今の子供っぽい春野先輩が本当の先輩というわけか。


 ……どうしよう、そういうの凄く好きだ。

 でも、白雪先輩の言うように周りに取り繕うのは後々自分がしんどくなるため、できればやめてほしいとも思ってしまう。


 だけど春野先輩はみんなに慕われたいから頑張っているわけであって、迂闊に彼女の頑張りを否定するような事はしたくない。

 彼女の体と彼女がやりたい事――どちらを優先しないといけないのか、これは俺には難しい問題だ。


 多分本当にしっかりと分別できる人は彼女の体の事を考えて無理はさせないように止めるんだろう。

 逆にお気楽な人は彼女の好きにさせてあげればいいと後押しをする気がする。


 でも、俺は彼女がしたい事ならさせてあげたいし、かといって負担を気にせずにいられるほど神経も太くない。

 どちらをとるべきか、そう簡単に答えを出す事はできなかった。


 だから俺みたいな人間がとるべき行動は、そのどちらでもないと思う。

 彼女がやりたい事ならやらせてあげて、負担になる部分は俺が代わりにやってあげるなどの補いをしてあげればいいんだ。

 そしたら彼女の気持ちを尊重しつつ、負担をあまりかける事もない。


 実際白雪先輩はその役割をしているのだろう。

 いつも春野先輩が行くところに白雪先輩は付いて行き、何かあれば春野先輩のためにせっせと働く。


 みんなが白雪先輩の事を春野先輩大好き人間と呼んでいるのはそういう引っ付き虫みたいにいつもいる事と、何かと世話を焼きたがる素振りがあるからなのだけど、それにも理由があったというわけだ。


 ……まぁ、あくまで俺の予想だけど。

 春野先輩の事が好きだからそういうふうに動いているというのは前提だろうしね。


 怖い先輩だと思ってたけど、本当は優しい人なんだと俺は思い直した。


「――にまにまと女の子たちのやりとりを見つめてるなんて、美琴の彼氏は随分と素敵な趣味をお持ちのようね」


 ………………うん、やっぱり男子の俺にとってはこの人は怖い先輩かもしれない。


 二人のやりとりを見つめていると絶対零度並みの冷たい目を向けられたので、再度俺は考えを改める事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る