第22話「事案ね」

「冬月君、私のこれ分けてあげるね」


 やっぱり春野先輩は優しいようで、自分のお弁当箱の蓋をひっくり返しておかずやご飯を乗せ始める。

 女の子らしく小さなお弁当箱でおかずも少ないのに、俺がもらってしまったら彼女も足りなくなってしまう。

 だけど、優しい笑みを浮かべているだけで自分の食べる分が減る事に対して何も思っていないようだった。


「いえ、もらえませんよ。春野先輩が足りなくなるじゃないですか」


 当然彼女が足りなくなるのに貰うわけにいかないため、俺はすぐに断りを入れる。

 しかし、それはそれで春野先輩が納得いかないようだ。


「だめだよ、成長期なんだからちゃんと食べないと」

「いえ、十分足りてますので」

「…………」


 お弁当が足りていると言うと、物言いたげな目でジッと見つめられた。

 昨日の帰りぐらいから俺の目に慣れていたようだけど、かわいい女の子にジッと見つめられるのは照れる。

 何より物言いたげな目をしている春野先輩がとてもかわいかった。

 でも、当然先輩がこんな目を向けてくるのは抗議を意味しているため見惚れているわけにもいかない。

 意外と頑固そうだしね、春野先輩は。


「――あげるのはいいけど、彼箸を持っていないわよ? どうやって食べてもらうつもり?」


 どう春野先輩を言いくるめようか――そんな事を考えていると、白雪先輩が重要な部分を指摘する。

 というか、僕も気が付いていなかった。

 確かにおかずや白ご飯を分けてもらったとしても、肝心な箸がない。

 さすがに手で掴んで食べるなんていう行儀が悪い事をするのは無理だ。

 だから春野先輩を言いくるめるまでもなくこの話は終わりだろう。


 ――しかし、春野先輩に対する俺の認識は甘かった。


 なぜか春野先輩はジッと自分の箸を見つめており、その頬はほとんど真っ赤なものになっている。

 そして何かを決心したように頷くと、潤んだ瞳でジッと俺の顔を上目遣いに見つめてきた。


「その、私が食べさせてあげる……」

「えっ……」

「あ、あ~んをしてあげるって事……」


 いえ、先輩。

 言い直してくれたのはありがたいのですけど、別に聞き取れなかったわけではないのですが。

 いきなりとんでもない事を言われたから戸惑っただけで……。


「生徒会長が生徒会室でいちゃいちゃ――場合によっては事案ね」


 そうボソッと呟いた白雪先輩は、俺と春野先輩、いったいどちらに言っているのだろうか……。

 後、翔太の姿がいつの間にか見えないのだけど、あいつ何処に行った……!?

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