第6話「突然告げられる想い」
……あれ?
なんだか思っていた反応と違うぞ?
少しでも先輩の気持ちが明るくなってくれればいいと思って言ったのだけど、今の春野先輩は目を輝かせて何かを期待したように俺の顔を見ている。
思っていた以上に明るくなっているし、何より春野先輩が発した言葉は俺が先輩に興味を持っている事を望んでいるような言葉だ。
あれかな?
やはり生徒会長だから同じ学校の生徒には好かれていたい、興味を持たれていたいという事なのだろうか?
上品でおしとやかな人だと思っていたのだけど、意外と人気とかを気にする人なのかもしれない。
「興味、というか……普通に凄いなぁって」
「そ、それは、あなたになんて興味ないです、って意味なのかな……?」
俺の言葉を聞いてまたシュンっと落ち込み始める春野先輩。
先程とは打って変わって元気がなくなってしまっており、悲しげな瞳で俺の顔を見つめてきていた。
その表情を見て俺は、美少女は悲しそうな表情でも絵になるんだな、と失礼な事を思ってしまう。
それだけ春野先輩の悲しげな表情は綺麗だったのだ。
「えっと……その、なんでこんな話になっているのかがわからないのですけど、先輩にとってそれはどうでもいいのではないでしょうか?」
春野先輩にとって俺は一般生徒の一人。
正直歯牙にもかけられないような立場にいる人間だ。
いくら春野先輩が優しい人だとはいえ、ただの生徒相手に興味を持たれているかどうかなんて気にしないだろう。
先程人気を気にする人なのかと思ったけど、やっぱりそんな人には見えない。
だから俺にどう思われていようと気にしないと思った。
だけど、春野先輩は俺の言葉を聞いてゆっくりと首を横に振る。
そして大きく息を吸った後、意を決したように口を開いた。
「うぅん、私にとってはどうでもいい事じゃないよ。むしろとても大切な事なの」
鈴の音のように聞き心地がいい声と共に発せられた言葉は、俺にとってとても意外な物だった。
こんなの先輩の気持ちを勘違いしてもおかしくないような言葉だ。
もしかしたら先輩は俺の事が――何も知らなければ、俺は本当にそう勘違いしていたかもしれない。
だけど、俺は知っている。
春野先輩は翔太の事が好きなんだという事を。
だからここで勘違いをするような間抜けな真似はしない。
先輩がどういうつもりで言ってきたのかはまだわからないけど、それは彼女がこれから教えてくれるのだろう。
見た感じ、どうやらまだ話を続けてくれるようだからね。
先輩は右手を胸の前で握り、気持ちを整えるような仕草を見せている。
どこか恥ずかしそうで、そして怯えているようにも見えた。
春野先輩の顔は更に赤みを帯びていき、うっすらと涙までもが目の端に溜まり始めている。
まだ日が暮れるには早いから、これが夕日の影響を受けてというわけではない。
現にまだ空は青く綺麗に澄んでいるのだから。
「あ、あのね、冬月君に聞いてほしい話があるの」
先輩は何度か口を開けては閉じてを繰り返した後、顔色を窺うような目で俺の顔を見上げながら口を開いた。
何度も躊躇していた事から余程覚悟を決める必要がある話なのだろう。
どうして話した事もない俺にそんな大事な話をしようとしているのか――正直心当たりが俺にはあった。
春野先輩は翔太に想いを寄せている。
そして俺は傍目から見ても翔太の親友と呼べる立場にいる人間だと思う。
この二つの事から導き出される事、それは春野先輩が翔太の事で何か俺に相談をしたいという事だ。
極めつけは、今の先輩の雰囲気にある。
春野先輩は恥ずかしさが上限に達しているかのように顔を真っ赤にしていた。
告白が関わる事なら覚悟を決めるような仕草をしていたのもわかる。
誰だって告白をするのには勇気がいるし、例え相手が友達であろうと気軽に話せる事ではないからね。
おそらく、春野先輩は告白をされる事には慣れていても告白をする事には慣れていないのだろう。
だから翔太をよく知る俺に協力を求めてきたってところかな。
春野先輩の雰囲気と流れからこの後の事を察した俺は、不思議と胸の内が温かくなっていた。
こんなふうに頑張ろうとする春野先輩の事は素敵だと思ったのと、親友に初めて彼女が出来るかもしれないと思ったからかもしれない。
ただ、問題は翔太があまり春野先輩に気がなさそうという事。
長い付き合いだけに翔太の反応からそれだけはどうしてもわかってしまう。
だけど春野先輩は全校生徒が憧れる高嶺の花だ。
男女問わずみんなが憧れるという事は、春野先輩の魅力がただ見た目の綺麗さだけではない事を示していると俺は思っている。
人徳があるからこそみんなは憧れるのだ。
俺は正直春野先輩については噂話しかほとんど知らないのだけど、それでも周りの様子からとてもいい人だとはわかる。
だから翔太が彼女と結ばれれば幸せになれるだろう。
春野先輩が本気なら、俺はそのために精一杯力を貸そうと思った。
「はい、わかりました。なんでもお聞きしますよ」
これだけ春野先輩は緊張してしまっているんだ。
少しでも彼女が話しやすくなるよう、俺は優しい笑顔を意識して微笑みながら彼女の言葉に頷いた。
すると春野先輩はジッと――いや、ボーっとしているのかな?
心ここにあらずといったような表情で俺の顔を見つめてきた。
「えっと、先輩……?」
「えっ……? あっ……!」
急にボーっとしてしまった春野先輩を心配して顔を近付けると、我に返ったらしき春野先輩がバッと顔を逸らしてしまった。
心配したのにこの対応はさすがにショックだ。
一応頼られようとしているのだとは思うんだけど、やっぱり俺は嫌われているのかな……?
今日一日何度も取られた反応をまた取られてしまい、俺は再びショックを受けてしまった。
そんな俺の様子に気付いているのかいないのか、春野先輩は『が、頑張る……!』と小さくガッツポーズをしている。
意外とお茶目な部分もあるんだなと思ったけど、いくら高嶺の花扱いされているとはいえ彼女も女子高校生。
これが普通なのだと俺は思い直した。
――そうしていると、意を決した様子の春野先輩が俺のほうを振り返る。
どうやらやっと本題に入ってくれるようだ。
さて、告白の仕方を相談されるのか、それとも翔太の事を呼び出してほしいと頼まれるのか――どう相談されるかはわからないけど、どんな内容だろうと対応してみせようと俺は思う。
告白はさすがに専門外だけど、今までの経験から結構な無茶ぶりにも慣れているのだ。
親友の事くらいはどんな無茶ぶりだろうとやり切れる自信があった。
「あ、あのね――」
春野先輩は自身の豊満な胸の前で祈るように両手を握りしめ、グッと俺との距離を縮めてきた。
彼女から近付いてきた事には驚いたけど、俺は何も言わず彼女の続きの言葉を待つ。
そして彼女は口を開いて――
「私、冬月君の事が大好きなの! だから、私とお付き合いしてください!」
――
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