第3話「お昼の一時」
先輩が教室に来る度に毎回俺のほうを見るのは、俺が翔太の後ろの席だから翔太に視線を向けた際にこちらにも目が行ってしまう的なものだろう。
俺も先輩が現れる度に反射的に視線がそちらに向いてるのだから、その事については特に言えたものではない。
だけど、目が合う度にすぐに逸らされるのはどうなんだ……!?
いくらなんでも酷いだろ……!
あまりにも目を逸らされるので、さすがに俺もショックを隠せなくなってきた。
翔太は翔太で帰ってくる度に生暖かな目を俺に向けてくるし、いったいなんなんだって思ってしまう。
そんな中向かえた昼休み――俺は相変わらず授業の内容についていけれていない絶望にうちひしがれながら、鞄から一つ菓子パンを取り出した。
さて、これからどうしようかな?
どうせ翔太は春野先輩と一緒にご飯を食べるだろうし、教室で一人で食べていても気まずいだけなのでここでは食べたくない。
となると、少し暑いかもしれないが屋上にでも行って食べるほうがいいか。
そう思って俺が席から立ち上がると、翔太が不思議そうな声を出した。
「パンを持って何処にいくの?」
「何処って、屋上にでも行って食べようかと」
「ここで食べないの?」
「教室でボッチ飯はきつくないかな?」
「…………?」
聞き返すように返すと、翔太は不思議そうに首を傾げる。
正直言って何を不思議がられているのか理解できない。
ここまで翔太と話が食い違うのは始めてだ。
「なんで首を傾げるの?」
「いや、さ。どうしてボッチ飯なのかなって」
「どうせ翔太は春野先輩と食べるんでしょ? だったら俺は一人になると思うんだけど?」
「なんで春野先輩と食べる事になるの?」
……うん、翔太は本気で言ってるのだろうか?
あれだけ春野先輩は毎時間顔を出して翔太にアタックしているというのに、全く気に止めた様子がないんだけど。
いくら女の子の気持ちに対してだけ鈍感男とはいえ、ここまで気付かないのものなのだろうか?
これはさすがに男友達として思うところがあるよ。
「今にでも一緒にご飯を食べようと春野先輩が呼びに来ると思うんだけど? なのに何悠長に机の上に弁当を広げてるの?」
俺と話している間に翔太は鞄から弁当箱を取り出して机の上に広げ始めてしまっていた。
本当に春野先輩が呼びに来るとは思っていないようだ。
「……まぁ、優弥の言いたい事はわかってるけどね。気にしなくても誘いにはこないよ」
「翔太気付いててここで食べようとしてるの? いつからそんな酷い人になったんだ」
「まっ、こうなるよね。……一応ちゃんと忠告はしたのになぁ」
俺とのやりとりがめんどくさくなったのか、翔太は珍しくも軽い口調で流してしまった。
最後にボソッと何か言ったように聞こえたけど、かなり小さい声だったので聞きとれてはいない。
翔太にこんなふうに流されるのは初めてで、親友に適当にあしらわれた事で俺はショックを受ける。
とはいえ、俺も他人の恋愛事情に首を突っ込みすぎたところがあったため、今回のところはお互い様だ。
だからもう何も言わないでおこう。
翔太が春野先輩と食べるつもりがないのならそれはそれでいいと思った俺は、自分の席に座って菓子パンを食べ始める。
すると、ジッと翔太が俺の顔を見つめてきた。
「どうかした?」
「いや、それだけで足りるのかなって」
「うん、まぁ……十分だよ」
正直言うと、育ち盛りには全然足りない量だ。
だけど、生憎お金がないのだから仕方がない。
無いものねだりをするくらいなら現状を受け入れるほうが俺にはあっていた。
しかし、やはり長年の付き合いか、それとも高校二年生の男子ということでバレバレなのかは知らないけど、翔太にはあっさり強がりがばれていたらしい。
俺の返答を聞いて呆れたような顔をしながらも、鞄からもう一つ弁当箱を取り出して俺に渡してきたのだ。
「これは……?」
「姉さんからだよ。今日から優弥が学校に通うのは知ってたし、いつもあまり食べてないのも知ってたから作ってくれたんだ」
「
美優さんとは、翔太の言葉通り翔太の姉に当たる人になる。
年齢は二十五歳と結構離れているのだけど、面倒見のいい優しいお姉さんって感じの人だ。
そして、俺が二つ掛け持ちでやっているバイトのうちの片方側の店長でもある。
若くしてお店を経営しているだけあって、やはり要領がよく優秀な人だ。
見た目も翔太の姉だけあって、とてもかわいいと思う。
ただ、少し特徴的な見た目をしているのだけど、そのおかげかある一定層から莫大な人気を有していた。
まぁ本人にとっては大変不本意な事ではあるみたいだけど。
「弟には作ってくれないのに、本当優弥には甘いよね」
――ちなみに、美優さんと翔太は不思議なほど仲が悪い。
というよりも、美優さんが一方的に翔太を嫌っている節がある。
翔太は見た目どおり優しくて気が利くいい人間なのだけど、少し口うるさいところもあるため仕事以外ずぼらな美優さんとは相性が悪いのかもしれない。
まぁ、傍から見てると全て美優さんが悪いのだけど、俺は美優さんに色々といいようにしてもらっているため口を挟む事はしないのだ。
今回だって、わざわざ俺のために弁当を作ってくれているくらいだし。
「もらってもいいのかな?」
「当たり前だよ。むしろ食べてくれないと僕が後で怒られる」
「そっか……ありがとう」
ここで遠慮しても翔太を困らせてしまうだけなので、俺は有り難く弁当を受け取る。
美優さんは料理をする仕事をしているため、あの人が作る料理はとてもおいしいのだ。
正直今日一日で一番よかったとも言える出来事だと思う。
弁当箱を広げてみると、定番のからあげに、だし巻き卵、それに豚バラ肉のシソ巻きなどどれも美味しそうだった。
ご飯は梅汁と絡ませたサッパリ風味のご飯でとても食べやすい組み合わせになっている。
美優さんの料理はやはりいつ食べてもおいしかった。
「相変わらず、おいしそうに食べるね」
「うん、凄くおいしい。美優さんにありがとうって伝えといてね」
「それは自分で言いなよ。今日だって会うんでしょ?」
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