勇者、はじめました②
辿り着いた街はまるでヨーロッパのようで、物珍しく眺めているとエミリアが小さく笑った。
「地域ごとに特色があって、ここはオーソドックスですが綺麗ですよね」
「うん。 こんなところへ来たことがなかったから、田舎者みたいだったかな?」
「いえいえ、私も最初はそんな感じでしたから」
かなり人も多く賑わっている。 大きな市場の横を通り、目的地である武防具屋へと辿り着いた。
「うわー、どれもカッコ良いー・・・。 でも高ぇ・・・」
店内を見て回るも、考えてみればお金を持っていないことに気付く。 ポケットを探れば硬貨が3枚だけ入っていた。 全て違う種類で大きさと色が違う。
エミリアに聞いてみれば、それは1000円にも満たない価値だ。
「ガーン! 初心者の状態から軽めのクエストを受けて、少ない報酬をもらって地味な装備を自分で買えと言うのか・・・! 初心者に全然優しくないヤツ・・・」
目に見えて落ち込んでいると、それを見かねたのかエミリアが手を差し伸べてきた。
「あ、あの。 よかったら、私のいらなくなった装備を差し上げましょうか?」
「え? いいの!?」
「はい!」
「助かる! ありがとう! 稼いだらすぐに返すから!」
「別に気にしなくていいですよ。 では取りに行ってくるので、少しここで待っていてください」
しばらく待っていると、装備と武器を両手で抱え戻ってきた。 彼女から受け取り早速試着してみる。
「あの、どうでしょうか・・・?」
「うわ、俺にピッタリじゃん!」
「よかったです」
「本当にこれ、全てエミリアのものなの? サイズが大きかったんじゃない?」
男女の差もあるが、アルバートとエミリアでは身長が頭一つ分程も違う。 それに女性が使うにはかなり厳つい。 もしかしたら、手に入れたが使えずとっておいたのかもしれない。
「あ、は、はい。 大きくて着れなかったので」
「そっか、ナイスだエミリア! お、この剣も超強いじゃん! 俺が本当にもらっちゃってもいいの?」
「どうぞ。 そのために持ってきたんですから」
新しい装備に着替え、街を歩くと派手な装備だからか注目を集めた。 まさかレベル1の初心者とは思わないだろう。
「レベル1から、こんなに立派な装備を身に付けることができるなんて! まるで課金したような気分だな。 でも実際はタダ、俺ってカッコ良い! ツイてる!」
はしゃぐアルバートの横でエミリアは楽しそうに笑っていた。
「ねぇ、エミリアは本当に勇者なんだよね? NPCとかじゃなくて」
「NPC?」
「あぁ、いや何でもない。 エミリアは作られた人間じゃないもんな」
―――つい口にしたけどNPCはなかったな。
―――みんな同じ人間、しかも彼女も英雄の一人。
―――ということは、これはもしかして・・・。
「運命・・・!?」
「ッ・・・」
その言葉にエミリアは反応し顔を赤くする。 うっかり口にしていたようだ。
「あぁ、ごめん何でもない!」
「も、もう行きましょう!」
「行くってどこへ・・・?」
「決まっているでしょう。 狩場ですよ、狩場」
「え、何それ、ゲーム的・・・」
彼女が何かを唱えると現れた光の輪が二人を包み込んだ。 眩い光に目が眩み、再び目を開けると異様な光景が広がっている。 先程までのメルヘンな雰囲気は欠片程もない、言うならば地獄だ。
「え、ここって、俺が来ても大丈夫なところ・・・?」
「レベル1だと即死でしょうね」
奇怪な鳥が喚き声を上げ、全体に暗く陰鬱なオーラが漂っている。 そして振り返ってみてギョッとした。 巨大な城、それもいわゆる魔王城といった様相の建物がそびえていたからだ。
「これって・・・」
「吸血城です。 いわゆるヴァンパイアのお城ですね」
「どうしてこんな場所に俺を!? 不快な思いをさせていたなら謝る、ごめん!」
または“最初からそのつもりだったのか”とは思ったが、アルバートを獲物にしても得はないはずだ。 金も持ってなければ装備もない。
―――まさか、吸血鬼の手先なんじゃ・・・。
こんな可愛い顔をして――――そう思えば、エミリアが吸血鬼であるのも有りなのではないかと思う。 もちろん、黙って殺されるわけにはいかないが。
「不快な思い・・・? そのような思いはしていませんよ。 私がモンスターに99%のダメージを与えます。 倒さないので、トドメはアルバートさんがやってください」
「え、俺が?」
「ここはいい狩り場なんです。 すぐに経験値が上がるので、たくさんレベルアップしますよ」
「こんな俺に、そこまでしてくれるのか・・・。 ありがとう! 俺、頑張るから!」
どうやら本当に親切で連れてきてくれたようでホッとした。 こうして“レベル上げ”という名の狩りが始まった。 エミリアが弱らせアルバートがトドメをもらう。
自分の身体を動かしてはいるが、ゲームで似たようなことをしたことがあるため要領は分かっていた。
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