勇者、はじめました③
常に薄暗かったため気付かなかったが、夢中になっているうちに6時間程経っていたようだ。 その間にレベルは40まで上がっている。
これはエミリアが最初に出会った時のレベルに近いためかなりの成果と言えた。 それは結果だけを見るならば。
「そろそろ切り上げないか? 今日はもう十分だ、ありがとう」
「はい。 初めての勇者はいかがでしたか?」
「めっちゃ楽しかった! まだ初心者なのに、こんなに立派な装備と武器に出会えることができたし! レベルも楽々上がって全然苦もない。 これならボスも楽勝ー! ・・・って、ちッがーう!!」
トドメだけをもらっているとはいえ、最初こそ緊張感もあり楽しかったが後半は完全な作業になってしまっていた。 集まってくる敵の強さはほとんど変わらず、上がり方もかなり鈍重。
冷静に考えてみて、これでいいのかと思ったのだ。
「ど、どうしました!?」
「これは俺が求めていた勇者ではない!」
「え・・・」
「まずは初心者用の布でできた古びた装備を身に着け、滅茶苦茶簡単なクエストを淡々とこなし、地道にお金を稼いで自分で装備や武器を揃える・・・。 俺は、これを夢見ていたのに!!」
「う、うぅ、ごめんなさい・・・」
強く言ってしまったせいか、エミリアは泣き出してしまった。 もちろん責めるつもりはない。 彼女は一生懸命で、本気でアルバートのためを思ってやってくれていたと分かっていたからだ。
「え、あ、違ッ! ごめん、怒るつもりじゃ・・・」
「いえ、私が悪いんです。 アルバートさんの気持ちも聞かず、自分勝手に物事を進めていったから・・・」
涙する彼女を見て慌てたアルバートは、咄嗟に彼女の手を取った。 その目は潤み肩は小刻みに震えていた。
「エ、エミリア。 聞いてくれ。 エミリアのおかげで、俺はこの短時間でこんなにも強くなれた。 これは紛れもない事実だ。 エミリアにもレベルが追い付けたし、感謝している。
初心者だった俺に、一から全部教えてくれたんだから」
「はい・・・」
こうして二人は街へと戻ることになった。 テレポートは少々特別な魔法でエミリアにしか使えない。 トボトボと歩く彼女の背中はとても寂しそうに思えた。
アルバートはああ言ったが、エミリアはまだ元気が戻っていないようだ。 そこで勇気を出して尋ねかける。
「あ、あのさ。 この世界って、ギルドとかあったりする?」
その言葉にエミリアはゆっくりと顔を上げた。
「・・・はい、ありますよ。 私は入っていませんが」
「え、どうして? エミリアは可愛いから、たくさんの人に誘われるんじゃない?」
「かわッ・・・!」
エミリアの顔は真っ赤だ。 確かに褒めはしたが、そこまで照れる程のことを言ったわけではない。
「ん?」
「あ、いえ・・・。 確かによく誘われるんですが、全て断っています。 特に理由はないんですが・・・」
―――エミリアと同じギルドに入ろうかと思ったけど、無理そうか。
―――難しい事情もありそうだし・・・。
―――折角仲よくなれたんだけどなぁ。
考え込むアルバートにエミリアはとんでもないことを言い出した。
「あ、他に、結婚・・・とかもできますよ」
「け、結婚!?」
「は、はい・・・」
「・・・エミリアは、結婚したいって思っているの?」
「・・・いつか、は」
ますますエミリアの顔が赤くなる。 もっとも考えてみれば分かることだ。 女の子に結婚願望があることはおかしいことでも何でもない。 それはこの場所でも同じなのだろう。
「そ、そっか。 流石に結婚はぶっ飛び過ぎてキツいけど・・・。 俺もエミリアにギルドに誘ったら、断られるかな」
「え?」
「あぁ、いや、何でもない。 独り言だ」
「・・・入ります」
「え?」
「アルバートさんと、ギルドを一緒に作り上げたいです」
「・・・えぇ!? 本当に!? 普段は断っているのに、どうして俺の誘いは受け入れてくれるの?」
エミリアは何故か目を泳がしている。
「あ、えっと・・・。 アルバートさんと、これからも一緒にいたいから・・・」
「え、何て?」
「な、何でもありません! お先に失礼します!」
照れたのか深くお辞儀をして走っていってしまった。
「あ、ちょっと待ってよエミリア!」
アルバートにはエミリアの声は確かに届いていた。 あまりにも突然過ぎて聞き返してしまったのだ。
―――・・・もしかして、脈ありだったりする?
そう思ったアルバートはスキップでギルド本部へと向かった。 浮かれた気分で向かっていたのだが、場所が分からずかなり迷う。
すっかり日が落ちた頃ようやく辿り着き、入り口ではエミリアが待っててくれていた。
「ごめんなさい、急に走り出しちゃって・・・」
「あぁ、いいんだ。 でも流石に疲れたな・・・。 ギルド申請をする前に、少し休憩しない?」
「はい、分かりました。 では先に休んでいてください。 私はいらないものを商店に売ってから、休憩に入りますね。 ではまた」
ギルド結成の前に二人はここで一度別れることとなった。
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