05 final & prologue.

 朝。

 無人空母の爆発事故をうるさくまくてているテレビを消して。部屋を出た。

 いつものように、ポストを確認して。

 仕事のために外へ出る。

 海岸線のマンション。景色がきれいと彼が言ったから、この部屋に住むことにしたのに。

 彼は、もういない。

 マンションの外。

 海が、広がっている。ばかみたいに、青い。


「ん」


 その、青さのなかで。

 何か、点のようなものが見える。

 目をこらして、見てみたら。

 人が泳いでいた。


「冬なのに」


 物好きなのかな。青い海に、ぽつんと黒い点。けっこう速く泳いでいる。溺れた感じもしないので、通報する必要はなさそうだった。


 仕事先に電話をする。女性店員が出た。


「あ、もしもし。いま忙しい?」


『いえ。ぜんぜんです。いつものカップル以外はお客さん来てませんし、予約もなしです』


「ちょっと、遅れてもいいかな?」


『いいですよ。混んできたら電話しますね』


「うん」


 電話を切って。

 泳いでいる点を、なんとなく見つめていた。


 彼が、泳いでこないかな。

 泳いで、よろよろと陸に上がろうとしてるところを。わたしが引き揚げて、抱き留めるの。そして、信じてた、生きてるって信じてたよって、語りかける。彼は安心して、わたしに抱かれながら、シチューが食べたいって言う。


 どこまでも、妄想でしかなかった。


 泳いでいる点。だんだん、こちらに近付いてくる。

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