05

「ふざけてんなあ。何発発射すれば気が済むんだよ」


 ボタンが連打されている。空母の搭載ミサイルが、全て発射されそうな勢いだった。


「ファミレスの呼び出しボタンだぜ、まじで。間違いないよ」


「ファミレスの呼び出しボタンはもっと違う装飾だから、押し間違えたりはしないと思うけどなあ」


「あ、そうか。お前の恋人、レストランのシェフだっけか」


「そうだよ」


 空母の甲板が爆発した時点で、もう死亡通知が行っているだろうか。


「あ」


 彼女のシチューを思い出して。


「こういうのは、どうだ?」


 なんとなく、解決策を思いついた。


 指で、空母の管制画面をなぞる。


「ここを、こう組み換えてさ」


「そうか」


 ミサイルの発射先を、この空母に指定する。ミサイルそのものは高高度に飛んでから落ちてくるので、逃げる時間もある。

 美味しいシチューは、できあがるまで時間がかかるから、前の日に下ごしらえする。ミサイルも、下ごしらえしてしまえばいい。


「これなら俺たちも逃げる時間あるな」


「空母と一緒に自爆するよりは、ましじゃねえかこれ」


「ああ。これで行こう」


「よし」


「それで、俺たちはどうやってここから逃げんの?」


「泳ぐしかないだろ」


「ふざけんなお前。沖まで何キロあると思ってんだよ」


「浮き輪あるし、飯もあるし。行けるだろ」


「一週間ぐらい泳ぎそう」


 なんとなく悪態をつきながら。


 管制画面の回路をいじりはじめる。

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