04

「すいませえん」


 声が聞こえる。


「はい。ただいま」


 小さなファミレスの店内。声はすぐ届くけど、ファミレス感を出すために呼び出しボタンを配置していた。もしかしたら、壊れたかも。


「おまたせしました」


「ごめんなさい。何回もボタン押したんですけど」


 いつものカップル。延々とここにいるひとたち。


「あ、これ」


 呼び出しボタンではなかった。


「あ、呼び出しボタンこっちのほうか」


「ほら。だから言ったじゃん。違うって」


「これは回収しますね」


 何のボタンだろうか。忘れ物でもなさそうだった。


「ご注文は?」


「しちゅーください」


「おれもシチューお願いします」


「シチューふたつですね。かしこまりました」


 奥に戻って、シチューをよそう。特製のシチューだった。人気も高い。


 シチューをいつものカップルにお出しして。


 厨房に戻る。


「それはなんですか?」


 女性店員。訊いてくる。


「わからない。席に置かれてたって」


 ボタン。


「なんか、いまどき珍しいですね。そんな、あからさまに押してくださいみたいな、ボタン」


 なんとなく。押してみる。何も起こらない。


 押したら、死んだ彼が生き返ったり。しないだろうか。


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