終章"そして世界に蒼空を"

終章"そして世界に蒼空を"


聖都アークリュミールは、現人神の死によって無くなった。

同時に、スカイライト=ヴェラチュールの魔術研究は完全に失われた。

特に、新天地アースガルドに関わる痕跡は何一つ残されておらず、派生しようとしても、または模倣しようとしても、二度と完成は出来ないだろう。


確かに事件を起こした現人神。

だがしかし、その治世により残したものは大きい。

残された優秀な人材が、第二の聖都を再び作ろうとしていた。

だが、それは残された彼らの物語である。

いまは、それを語るべき時では無い。






「・・・おいおい、こいつは。」

「大変な置き土産を遺しましたね。」


ピースにより届いた、スカイライトの遺産の一部が帝国軍のある部隊に届く。

その内容を見た、黒騎士"ジャイロ"と赤騎士"ミコト"は呆れるやら驚くやら。

無論、それだけではない。

優秀な騎士や技師等、様々な分野の専門家エキスパートも一部帝国軍に入ることになった。


無論、恩恵は帝国軍だけではない。

聖剣使いネザーのいる小国や、滄劉の防衛軍等など、信頼できる各国の一部にばら蒔いて、国力と戦力の補強を成し遂げてしまった。


スカイライト=ヴェラチュールの起こした事件は間違いなく、世界を震撼させたものに違いないが無責任なものではなく、その後のバックアップを行っていたのだから感心するばかりである。


とはいえ、だ。

せっかく補強されたとなれば、それを活かす環境にしなければ効果はない。

だからやるべきことも当然決まっていた。


「今すぐ集められるだけ集めるぞ。」

了解ヤヴォール。」







「・・・イグニス。」

「なんだ。」

「お墓、作ろうよ。

あの二人の、さ。」


コメット達の家も、元通り。

みんな無事だし、お腹の赤ん坊も影響はない。

そんな折、ピースから届けられた手紙。

手紙の送り主は、スカイライト=ヴェラチュール─────否、蒼空光実。

あの空と海の境界線で出会った彼は、聖都で新天地アースガルドに放り込んだ彼と同一人物だと、ようやく理解出来た。

彼は彼なりに、彼女を想ってそうしたのだろうと思うと、文句も言いようがない。


手紙の内容は至って単純だった。


蒼空光実は、コメットの遠い先祖であること。

今まで連絡できず、そしてあの事件では済まなかった、と。

先祖の名はホープであること。

最後に・・・


"生まれる子を大切になさい。家族はとても素敵なものだ。"


かつて家庭を築いた、遠い先達として。

簡潔に、ただ幸福を願う一言が最後に記されていた。


ああ、どこまでも親なのだなと。

最早納得するしかなく、コメットは彼らの墓を作ることを提案した。

イグニスも、それに反対はしなかった。

確かに自分たちの生涯に干渉した恨むべき対象だが、それでも魂の区切りとして墓を立てるのだという理屈には賛同する。


場所は当然、あの空の海の境界線が見える大地。

蒼空が広がるあの地が、最も彼らに相応しいと思ったから。







「俺たちもまだまだだな。」

「うん。すっかり押されちゃった。」

「そんなに強かったんだ、ぼくも手合わせしてみたいな。」


レイジとソラリスとタフィーは中庭で出くわして、事件について語り耽っていた。

あの遂行絶剣ブルンツヴィークは、間違いなく強かった。

結果は多少寒々しいものだったとしても、やはり勿体ないのもまた本心なのだ。


「多分、無理じゃないか?」

「なんで?」



デイビッド=ウィリアムズは、群の医務室でただ虚空を見つめていた。

運悪く、レイジとソラリスに倒されてから直ぐに聖都から出された後に、ピースの手配で直ぐに群の医務室まで運ばれたことにより光実による最期の治癒が受けられなかった。


故に、失った左腕はそのまま。

主なき砕けた刀剣だけが、そこにいる。

彼の運命は、聖都には無かった。

勝ちも負けも、蓋を開けてみればただ当たり前の結果を出す歯車でしなかった。


それが終わればこの通り、この世でもっとも無価値な生き物に早変わりする。

そう、彼の運命が訪れる時までは────。










「・・・運命、か。」


ふと、ソラリスは思い出したように呟いてレイジの方に顔を向けた。


運命、そっか運命か・・・と。

考えれば考えるほど甘酸っぱく、小っ恥ずかしいことに繋がりながらもじっとレイジを見つめる。


「・・・ん?」

「あ・・・なんでもない。」

「んー、そうか・・・?」


レイジが気づいて視線がソラリスと交差するものの、恥ずかしくなったソラリスはそっぽ向く。

しかし鈍感な男の子はやはり、何が何だかわかって居らず、頭にはてなマークを浮かべるばかりで・・・。


「・・・ねむくなったから、またね。」

「「あ、うん。」」


果たしてそれは気遣ったからなのか、或いは本気で眠いのか。

どちらにせよ、これ以上ここにいたら砂糖が口から出てしまいそう。

よし、部屋でシュディールにいっぱい甘えてやろう。

そんな事を思いながら彼女はこの場から離れていった。


とても気まずく、しかし甘酸っぱい空間がそこに漂っていた。







「マサト、よく頑張ったんです。これ以上は、もう無いですよ。」

「それでも、僕は・・・アレが一番だと分かっていても、生きて話したいことがあったんです。」


もう一通、手紙があった。

送り主は無論、蒼空光実。

送り先は、詠金優人。


全ての真実を知る、唯一の少年に。


彼女と再会させてくれて、ありがとう。

そしてどうか、お前たちも幸せに。

好きな女の子には、なるべくアタックした方がいいぞ。


なんて、当たり前の、あまりに只人らしい内容に優人は泣き崩れた。

そう、もう彼は死ぬことでしか救われないほど成り果てていた。

分かってもなお、やはり生きて幸せになって欲しいという願いだけは・・・。


ネネカも、そんな優しい少年を抱きしめて慰める。

あの最後に見せた慈愛が真実であることに疑いはなく、しかしどうすればいいのか分からない。

それは自分たちで決めるのだと、そう告げられたような気もしたから。


「・・・ネネカさん、お願いがあるんです。」

「なんですか?」


涙を拭った少年の願いを、ネネカは確かに聞こうと見つめる。


「今週末にあの人の故郷を、空と海の境界線を一緒に探したいんです。」

「・・・わかりました。」


色々、あのどうしようもない男には言いたいこともあるけれど、優人の提案は供養だと理解出来た。

そう、区切りをつけるべく必要だと・・・。











「あ、ここだ・・・。」

「綺麗な、安心できる所ですね。」


週末、約束通り優人とネネカは滄劉にて、光実の故郷を探す小さな旅をした。

その果てに、ちょうど優人が見た景色とほとんど一致する場所に来た。


思わずじっと眺めたいほど、綺麗な空と海の境界線。

そこには・・・


「あ・・・。」


大きくない、しかし出来たばかりの墓がそこにあった。

そう、"ホープ"と"蒼空光実"の名前が刻まれた墓。

誰が、などと考える必要は無い。

あの真実の一端に触れる資格をもった人なんて、あの人しかいない。


「お、群の人だよなー。」


ほら、想像してみたら早速・・・。


「ええっと、コメットさん。」

「おー、確かマサトだっけ。」


コメット、そして傍にイグニスもいた。

彼女は光実達の子孫で、そしてこれを立てたのは彼女たちなのは確信出来た。


簡単に挨拶を済ませ、少しの雑談をした。

最後に、四人は墓の方を見てしゃがむ。

弔う仕草は、それぞれ違うけれど、しかし思いは一つだ。


────どうか、安らかに。



その先にある空と海の境界線は、やはり綺麗なままだった。
















この世ではない、死者が行き着くミズガルド。


一組の男女が向かいあう。

何も特別なことはない。

ただ、抱き合って、唇を重ねて再会を喜んだ。


現実の理に関係なく、彼らはミズガルドでの時間の許す限り共に存在し続けるだろう。

運命の終着点に、二人はようやくたどり着いた。








「・・・お疲れ様、ミツザネ。」

「ありがとう、ホープ。」












シナリオ:星を導く者スフィアブレイバー

〜 そして世界に蒼空を 〜 END

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