第四章"STARDUST"─7
悲しみの物語は続いていく。
僕はただ、この物語を見るのみ。
スカイライト=ヴェラチュールを知りたいと願ったから、いますべてを見ている。
滄劉から離れて200年、そのころには彼の肉体は大きく変化していた。
成長したわけではない、ただ自分の身体をいじってもらい長身の成人男性の姿にしてもらっていたのだ。
もう、蒼空光実の面影はない。
スカイライトという革命者として、これから長い月日をかけて完成していくのだろう。
魔法の成長以外でも、あらゆる分野に手を染めて成長していく。
永遠の寿命を最大限に活かして、己が経験値を暇さえあれば積み重ねていく。
滄劉から離れたころには、ちょっとずつ子孫の人たちから手紙が届くものの、時間が経つにつれてその手紙すら届くなくなってきた。
そう、蒼空光実という存在もまた、この世界から忘れ去られていった。
あらゆる痕跡が、砂浜のように少しずつ削れてゆく。
あんなに幸せだった日々が、誰からも・・・こうして僕が見なければ、どうあっても知ることはできなかったのだろうと思うと、目頭の熱さは決して冷めることはない。
そして、研究の仲間たちもとっくに寿命を迎えて、本当の彼が薄れていく前のことを知るものはいなくなっていく。
本当の意味で、彼に寄り添える誰かは消えていく。
それでもなお、彼は折れずに進み続けた。
挫折もまた、心の動き・・・だからその気持ちの整理すら、ちょっとした作業に早変わりする。
まるで理解できない、けれどそれは気づかぬうちに大切なことを置き去りにしているように見えてしまう。
それでも、ああそれでも。
ホープさん・・・蒼空光実として生きていたころからずっと愛していたことに一切の曇りはなく、そして誰一人として恨むこともなく。
人の心、在り方を理解したうえで、彼は独りこう叫ぶ。
「不幸とは、共に生きる誰かが、愛しい誰かに出逢えないこと。
出逢いだけでは生きられぬ世界ならば、それを含めて解決するのであれば何も問題は無い。
忘れるな、人々よ――おまえ達は一人じゃない! 決して、一人なんかじゃないんだよ!」
こうして、スカイライトは現人神として、新たな世界の旗となる。
彼の真実を、生きている誰かは永遠に知らぬままに。
時が経ち。
さらに時が経ち。
さらにさらに、時が経って・・・。
ようやく、彼の現在に至るまで半分の時が過ぎた。
そう、こうしてようやく半分なのだ。
残り、千年・・・つまり聖都の完成の歴史になる。
「見飽きているんだ、そういうのは。
燦然と輝く軌跡も、汚泥のような不条理も、称えられるべき雄姿さえ、ああまたかとしか思えないな。
選択肢に行き詰まりそうになったとしても、じゃあこうするか、となるだけだ。」
当然、楽な道のりではなかった。
反逆者は当たり前のように現れる。
理由も様々で、どうしようもないものだってある。
例えば、ただ気に食わないとか。
それでもしっかり反逆なのだから、彼は対応しなければならない。
さらにさらに、灰のように心は枯れてゆく。
困難もまた、選択肢を選ぶ作業と化していく。
問題が起きて、改善へ。
問題が起きて、改善へ。
問題が起きて、改善へ。
そんなことを繰り返して千年目。
無敵の現人神として君臨する。
気が狂いそうになる、それでも涙は止まらない。
こんな事件を起こす前に、彼は一度・・・群にいるコメットさんに会っている。
これもまた一つの真実、コメットさんはスカイライトさんとホープさんの子孫の末裔。
あの人もまた、幸せになってもらうためにこうして様子を見に行ったのだろう。
そして、蒼空光実と名乗っておきながら何一つ真実を残さなかった。
そう、もし・・・もし
ようやく、終わりの時が来た。
スカイライトさんと、ネネカさんと戦う様子が見られる。
ネネカさんも強いのに、スカイライトさんは動じない。
傷つき、しかしすぐに治っていくネネカさん。
声すら上げられない、けれど無念だけが積み重なっていく。
ごめんなさい、巻き込んで。
そんな無理を、僕はさせたくなかったのに。
「ここまで弄んで、誰がお前の理想を認められると言うんですか。
何が新天地アースガルドですか・・・お前のような現人神あくまが統治する夢なんて、恐ろしくて仕方がない・・・!」
こんな、こんなネネカさんは初めてだった。
自分の身体を顧みないその様は、とても胸に突き刺さる。
お願いだから、もう傷つかないで、傷つけないで。
そんな願いは決して届かない。
今の僕には、どうにもできない。
そう、僕はネネカさんのことを何一つ知りえていないのだから。
ああ、本当に・・・守れただけでよかったなんて、とんでもない思い上がりだったのだと、こうして
そして────
「立ち上がるさ、歩み続ける。
深い希望も絶望も、重ねた全部が俺の力だ。」
そんな中、聞こえるスカイライトさんの荘厳な決意。
記憶の奔流の中で、何度も何度も聞いてきた決意の証。
「駄目なら続けて千年、それでもダメなら二千年、いいや万年挑んで見せよう。
それでも駄目なら億年だろう、そうあの日に誓っているんだよ。
────
区切りがない、終わりがない。
永遠を体現すべき歩き続けた人類の成れの果ては、どんな苦難が訪れようとも涙を拭って歩き出す。
完成していた完全無欠、それがいまのスカイライトさんのすべてだ
だから・・・
「もういい、お願い、もう黙って・・・!」
だからああ、どうか・・・どうか。
お願いします。
「どうかこれ以上、悲しい言葉を喋らないでください。あなたの姿を見るだけで、胸を痛ませないでほしいから。
限りある命として生まれて来たということを、どうか思い出してください。
お願いします、
切なさのあまり、僕はついに声を出すことが許された瞬間。
すべてを見た不屈の神を心の底から悲しいと思って、吐き出すように泣きながら言った。
勇壮なはずの決意をとても聞いてはいられない。
むご過ぎる。こんな悲劇はないじゃないか。
「全部わかったよ、はっきりすべてを理解できた。
あなたは駄目なんじゃない。
ただどこまでも、可哀想な人なんだ。」
希望も絶望も何一つ、誰かに託すことができなくなってしまった人。
死なず朽ちず劣化しないから、ずっと成長し続けるから、おのれの足で歩み続けた誓いと絆の成れの果て。
「だからそれが、こんなにも・・・っ!」
こんなにも、涙があふれるほど悲しい。
積み重ねてきた出会いも別れも、総じて無価値じゃないからこそ、止まることが許されない。
ただの人間だった人が、妻を失い、覚悟を抱き、成功と失敗を繰り返してきたという経験値がこのような人型の無限という怪物を生み出した。
生きている限り存在する当たり前の喜びも悲しみも、決して間違いなどではない思い出の結晶がこれならば。
僕にだってわかる。
ただの人は、何百年何千年も生きては駄目なのだ。
区切りを得て、後継者に数多の願いや祝福を託すこと。
人にとって最も大切なその道を、本人が立派にやろうとすればするほど全く違う怪物になってしまう。
自己犠牲として、身も心も削りながら立ち向かうネネカさんにも。
成れの果てで神様のような何かになってしまったスカイライトさんにも。
もうこれ以上進んでほしくないと、しかしどうしようもないと泣き叫ぶしかできない。
「・・・やれやれ、こんな優しい子もいるもんだな。」
・・・ふと、この夢を見る前に聞こえた声が、また聞こえてきた。
今度は脳に響くようなものじゃない、ちゃんと・・・僕の耳に届いた。
「あ・・・れ・・・?」
そう、声が出る。
白い大地が見えるし触れるし、そして座り込んでいる。
僕は身体を得た、それも健康そのものの。
周りを見渡す、何もない。
そして、声がしたほうにゆっくりと視線を向ける。
「・・・俺も、会いたいと望んでしまったのかな。
まさか、中枢に来れるとは思わなかったよ。
これはとんだ
それは暗に、これば僕の夢ではなく。
目の前にいるのは本物だと理解する。
「ようこそ、詠金優人。
ようこそ、
・・・俺は君のすべてを知っているよ。」
訳が分からない、何が起こったのかまだ整理がついていない。
それでも、いまこの出会いは決して無駄にはできないと咄嗟に判断して。
「・・・僕もあなたのすべてを見ました。
初めまして、蒼空光実さん。」
目の前のいたのは、彼が愛した妻がいたころの蒼空光実。
これは奇跡の邂逅で、そして運命だった。
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