第四章"STARDUST"─6
「・・・どういうことですか。」
現人神は、今のネネカの在り方は勘違いしていないか、と突きつけてくる。
そして、更に無慈悲な現実を突きつける。
「自己犠牲は確かに尊い行為かもしれないな。
誰が見たって、そこを切り取ってしまえば胸を打つ。
人の生き死にの狭間は、言ってしまえば一般的には
だがな、現実ではそうはいかない。
自己犠牲は、その後は干渉は出来ないものだ。そして大抵、近しい者に残すのは呪いと涙なのさ。
詠金優人がいい例だったろう。」
息がつまる。
その言葉が、重く伸し掛る感覚がする。
同時に、怒りもまた湧き上がる。
その少年を捕らえたのも、またお前だろうと。
「そら、その苦々しい顔と怒りが証拠だ。
罪悪感を残して、近しい誰かに無理をさせるのさ。
全部が全部ではないが、まぁおまえの場合は該当したと見ていいだろう。
出来れば、自己犠牲の手は打たないように勧めよう。
俺なりの忠告だ。」
「─────黙ってください。」
我慢ならない。
訳知り顔で説教し、こうなる場面を作ったのはお前だろうに。
「ここまで弄んで、誰がお前の理想を認められると言うんですか。
何が
まるで人の心を掴むような存在。
たとえ正しくても、そして
死んでもごめんだと、ネネカは糾弾する。
その言葉を、現人神は聞いていた。
一言一句、脳に刻みつける。
「ありがとう。そちらから見た問題点は把握した。
ならば大事な局面での態度も、いつか考えなければならんな。
貴重な意見として、今後の参考にさせてもらうよ。」
その言動に、脇腹を貫くような違和感を感じて、理由のわからない悪寒を感じて一度距離を取る。
「じっとしてろと、素直に言えばどうですか。
まさか、説き伏せられるとでも、それで黙っていられると思ったんですか?」
やれるだけの虚勢で言い返す。
身震いを、怒りと士気で抑える。
当然、現人神はそれを見抜く。
だが肝心の理由がわからず、首を傾げる。
少しばかりの思考に時間を費やし、そして。
「そうじゃないさ。というより、ああどうも認識がズレているな。訂正しよう。
別に俺は、おまえたちに逆らうなと言った覚えはないぞ。
むしろこちらの理想を一方的に押し付けている時点で、否定されて当然だろう。
人には心があるのだから、否定する者は無数に出てくる。当たり前の話じゃないか。」
互いのズレを直すべく、全ての前提をひっくり返す。
対策は完全だとしても、それではまだ足りぬと暗につげる現人神の言葉にシャーリアは絶句する。
そんなネネカを諭すように、現人神は言葉を選ぶ。
「たとえば、神という肩書きが嫌いだとか、何となく気に入らないとか、周りが賛同するからとにかく自分は反対だとか・・・。
いま抗っているおまえたちのような、矜恃や見解の相違といった上等な理由さえ必要ないさ。
そういった無数の意見があればあるほど、
後々になれば、矛盾なく完成するさ。
だからじっといていろ?いやいやまさか、冗談じゃない。
この運命に彩られた瞬間こそ、打てる手をもって戦うべきだろう。
二千年の悲願なだけに、俺はちゃんとやりたいんだよ。
おまえのすべてをぶつけて来い、余さず受け止めさせてくれ。」
「・・・何を、言っているんですか」
知らず、後ずさりしそうになった身体を地面に縫い付けるように堪える。
ひりつく声帯が精一杯の反抗に、疑念の音を絞り出す。
この男の底知れなさが、また見えてしまったから震えてくる。
まさか、これだけのことを起こしておいて・・・馬鹿げている。
「どうしてもう、
完全無欠な新たな世界と、思っていない。
「自分なりにしっかりやろうとしているだけさ。
悲願は成就するものだが、そこで盲信はいかんだろう。
何度も配下に言い聞かせてきたことだが、これさえあればという考えは思考停止の象徴だよ。
正しさを問い続ける者だけが善行の資格を得るように、これが最善と断じた時点で大抵そいつは誤りなのさ。
なので、俺も常に厳しくそう努めているだけのこと。
理想の改善と更なる革命を、果てなく願い続けているのさ。」
これこそが、果てない二千年の旅路にて偉業を成し遂げた理由に他ならなかった。
大抵は野望の成就を
まだ、何が起こるかわからない。
まだ、人類は新たな可能性を見せてくるかもしれない。
そしてもし、王手をかけた悲願さえ不可避の運命に粉砕されても────
「立ち上がるさ、歩み続ける。
深い希望も絶望も、重ねた全部が俺の力だ。」
それがどうした。
二千年かけて頑張ったのに、失敗したから諦めろ?違うだろう。
改善点が見えたじゃないか。
「駄目なら続けて千年、それでもダメなら二千年、いいや万年挑んで見せよう。
それでも駄目なら億年だろう、そうあの日に誓っているんだよ。
────
だからこそ、
永遠を司る不滅の旅人。
区切りがない、終わりがない。
永遠を体現すべき歩き続けた人類の成れの果ては、どんな苦難が訪れようとも涙を拭って歩き出す。
対峙するネネカは、その果てしなさに恐れ、しかし何処かで憐れみを感じた。
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