第三章"星を導く者(スフィアブレイバー)"ー3



時は遡る。


「凄い・・・賑やかです・・・!」


マサトはこの祭りに喜んで訪れた。

今すぐにでも駆けて色々見て回りたい欲求をなんとか抑えながら、一緒に来た人物へと振り向く。


「離れちゃだめですよ、マサト。」


微笑ましげに着いてきたのはネネカ。

勇気をもって誘ってみたら来てくれたのだからマサトは大喜びであった。

ネネカからしてみれば、保護者替わりだろうがマサトにとってはデートみたいなもんである。


「早速広場で遂行絶剣ブルンツヴィークの御披露目だそうです!」

「分かってますよ。」


デートだからと照れる余裕すらなく、見たい買ってみたい選り取りみどり。

早速、前回の旅では見られなかった遂行絶剣ブルンツヴィークの剣技。

それが見られるとなれば、こうもテンションが上がろうものだ。


隠しきれない嬉しさを見ているネネカは、やはりというか微笑みながらついて行くのだった。





「わあ・・・凄いですねっ、トルエノさん!」

「そうですね。」


他にも客人はいた。

きらきらと目を輝かせながらトルエノの手を引っ張り歩くシルフィと、それを苦笑いをしながら見守っているトルエノが歩いている。


屋台等で食べ物を買って、シルフィに与えてニコニコ笑いながら食べている。

これから、第一階位聖騎士デイビッドの剣技が披露されることを知る。

トルエノにとっては少し興味があったことだが、今はあまり見たくない気持ちだった。


「トルエノさん、いかないんですか?」


シルフィの問いに、トルエノは苦笑して「行きますよ」と返事をして歩き出す。






「賑やかなところね・・・。」


キリッとした顔で屋台を見て回る、獣人ヴァシリーサ。


「流石お祭り、楽しまなければ。」


なんでもござれな屋台を練り歩き、両手にチョコバナナときゅうりの漬物、口ではいちご飴を噛み砕き、お祭り法被を着て、微妙にダサい謎金属ネックレスに、ひょっとこのお面を頭につけて、これから行われる剣技を見に行く。






広場にて、聖都が誇る遂行絶剣ブルンツヴィーク───第一階位聖騎士、デイビッド=ウィリアムズが剣技の疲労をする。


纏う雰囲気は冷静を通り越して、刀剣そのもの。

静かな空気から一変、四方八方の的を一瞬で斬り捨てる。

囲まれたという絶望的状況を一瞬で祓う、その様子は圧巻の一言だった。


巻き起こる拍手喝采。

しかしながら、デイビッドには喜び一つなく退場した。


「スパシーバ・・・。」


ヴァシリーサは拍手しようと思ったら両手が塞がっていたがために、しょんぼりしながらいちご飴の欠片を舐める。


「凄い・・・!」

「・・・確かにこれは、凄いですね。」


マサトは目を輝かせて喜び、あの領域を目指したいと思った。

シャーリアもまた、感服して素直に賞賛する。


シルフィもまた、声を上げて拍手を送る。

トルエノも同じように拍手する。

だがシルフィのように、純粋に楽しめている様子ではない。


「・・・トルエノさん?」

「・・・え?ああ、いえ、少し人に酔ってしまって。」

「じゃあ、ちょっと休憩しましょ、トルエノさん。」


トルエノとシルフィは、休憩室に向かう。

気を取り直してまた祭りを楽しむのには時間はかからないだろう。








─────夕方、そこではまた別のメインイベントがあった。



「この世界では様々な闇があった。


特に帝国では小国を一つ喪い、そして巨大な怪物により被害を齎したことは記憶に新しいだろう。




そんな恐怖を、痛みを、忘れるべく訪れた者もいるだろう。


或いは、ただ楽しみで来た者もいるだろう。


何でもいい、それは誰にも冒せない領域だ。」


その場に現れた現人神ヴェラチュール

魔法による音の響きは、聖都全域に轟いた。


トルエノとシルフィ、ヴァシリーサは帰るべくその場から離れ始めた。


ネネカも、面白くはないだろうとマサトと帰ろうとしたが。


「・・・待ってください。」


マサトは、目を離さない。

現人神ヴェラチュールとは何なのか、何処までも雲の上と分かっているはずなのに。

兎にも角にも、他人とは思えない。


ネネカは頷くしかなく、その場に留まった。



「俺はこれまで、みんなの欲望や希望を叶えるべく聖都を治めていた。

今でもそれは変わらない。


その誓いを、果たす時が来た。」


「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」




現人神の言葉に、人々の叫びが轟く。


それは歓喜────それも





雰囲気が、変わる。

杞憂であってほしいと願い、嫌な予感しつつシルフィを連れてトルエノは早歩きをする。

何も考えず、ただ帰路につくヴァシリーサ。

嫌な予感が過ぎり、マサトを連れて歩きだそうとするネネカ。


ああ、だが、それでも遅い。

此処に来た時から既に始まっていたが故に──────。


「───拝跪はいきしろ、新天地アースガルドの幕開けだ。」


大きな揺れ、それと同時に現人神の背後から湧き出る巨大な花。

更にいえば、その花から現れたのは大きな白い渦。


同時に、聖都にいる全員の魔力がうばわれる。

聖都に元々いた民は自ら白き渦に飲み込まれていく。


その様を、マサトとネネカは見てしまった。

シルフィは目を閉ざしていたものの、トルエノとヴァシリーサも見えている。


そこからの動きも早かった。

誰も彼もが逃げようとするなか、予め計画していたかのように聖都の騎士たちは逃げ惑う人々を捕まえては、白き渦に────新天地アースガルドの入口へと放り込む。


イグニスも、コメットも、ウィレスも、アルも、真っ向な抵抗すら許されずに新天地アースガルドに叩き込まれた。





「流石は獣人か。

────だがしかし、そこだ。」

「あっ・・・。」


筋肉を膨張させ、逃げるための突破口を広げる為に三次元的な軌道で抗うがしかし。

遂行絶剣ブルンツヴィークには通じない。

先読みとあまりに正しい剣閃がヴァシリーサの動きを封じて、斬り裂いて意識を飛ばした。




「そうか、おまえの意見は把握した。

今後の参考にさせてもらおう。」

「なっ────」


万全な現人神から逃げられるはずもなく、抗えないトルエノはシルフィ共々、新天地アースガルドに放り込まれた。


例外なく、優しく安らぎの夢に堕ちてゆく。

人にも神にもなれる、願えばどんな夢だろうが出会いだろうが叶う理想郷に。

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