第三章"星を導く者(スフィアブレイバー)"ー2
「祭り!?」
「だそうだ。」
コメット達がいる家にて、届いていた広告を見てコメットは叫んだ。
イグニスが持ってきた広告だが、それを聞いたアルとマリアとウィレスはリビングに寄ってきた。
「楽しそうです!」
「でも人混みはな・・・」
「俺も、お腹に子どもいるから・・・。」
マリアは乗り気だが、ウィレスとコメットはそれぞれ懸念があって手放しで喜べない。
「船や馬車走らせてくれるらしいから、体の負担は大丈夫そうだし、宿が必要なら用意してくれてるってさ。」
「奪いながら言うな。」
イグニスの持っていた広告を、アルが奪って読む。
イグニスの抗議は誰も聞かず、アルの口から出た情報にコメットは目を輝かせる。
イベントの類には目がないのだ。
「行くか?」
「勿論だ!」
イグニスの質問に、食い気味にコメットは答えた。
イグニスとコメット、その他三名も付き添いで行くことが決まったのだった。
「おおおおっ!」
聖都アークリュミール。
イベントにより、より賑やかになったその街を見たコメットは叫んだ。
道に並んだ大量の屋台、広場では歌や演劇の公演準備。
お土産も事欠かず、現在の聖都を現すかのような豊かな祭りとなっていた。
「聖都限定のお菓子を買うぞ!それもなるべく保存状態の良い奴は確保だー!」
「落ち着け、あまり暴れられる状態じゃねぇだろ。」
「そうですよっ。ゴリラさんはちゃんとますたを捕まえててくださいね。」
「ゴリラ言うな。」
コメットが行く先はやはりお菓子絡みの屋台やお土産。
そうなるのは分かっていたため、苦笑しながらイグニスはついて行く。
手を繋ぎ、はぐれないように。
それにマリアやウィレスもついて行っていた。
アルはブランやスノウのお土産を探しに別行動である。もしかしたら群から来た他の誰かと一緒かもしれない。
それぞれが、何時間もこのイベントを楽しんでいた。
夕方─────広場にて。
現人神と呼ばれた男、スカイライト=ヴェラチュールがステージに立っていた。
「この度は、この聖都千年を祝う祭事に訪れた皆に感謝しよう。」
ステージで使われている風属性の魔道具による振動で、音は聖都内に響いた。
殆どの人物は、ステージの方を見る。
「この世界では様々な闇があった。
特に帝国では小国を一つ喪い、そして巨大な怪物により被害を齎したことは記憶に新しいだろう。
そんな恐怖を、痛みを、忘れるべく訪れた者もいるだろう。
或いは、ただ楽しみで来た者もいるだろう。
何でもいい、それは誰にも冒せない領域だ。」
その言葉を発するスカイライトを見て、コメットは呟いた。
「─────あれ、なんか会ったことあるような。」
滄劉の、あの空と海の境界線が綺麗なあの地で会った、フードを被った青年。
それと似ているような気がした。
だが、確証は出来ない。
違和感と・・・そして何故か懐かしさを感じながら眺めるしかない。
「俺はこれまで、みんなの欲望や希望を叶えるべく聖都を治めていた。
今でもそれは変わらない。
その誓いを、果たす時が来た。」
「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」」」」
現人神の言葉に、人々の叫びが轟く。
それは歓喜────それも聖都に住まう人々の大半から。
「な、なんだ・・・?」
困惑と不安でコメットは周りを見渡す。
「んだよ、これは。」
イグニスもまた、嫌な予感がして顔をしかめる。
突然切り替わった雰囲気に、困惑と不安を隠せない。
その誓いを果たす時が来た、それはまさに今すぐに叶えてやると言わんばかりに。
「───
その異変は、確信的なものに変わった。
「揺れ・・・っ!?」
「コメット!」
突如、大地震のように揺れた聖都。
よろけるコメットを、咄嗟にイグニスが支える。
「な、なんだよ・・・あれ・・・!?」
訳が分からない。
スカイライトの背後から、大地を突き破って何かが生えてくる。
巨大な茎、巨大な葉。
何メートルも、何十メートルも突き出てくるその頂点には────。
「─────花、だと?」
大きな、花が咲いていた。
その花から、輝く白い渦が─────。
「─────逃げるぞ!」
「で、でもみんなは!?」
イグニスは瞬時にこの場を離れるべく動き出そうとし、コメットは連れてきたみんなを探すべく見回す。
行動は早かった。
文句など付けようが無かった。
「そうはいかないな。
特におまえは、特別に待遇する義務があるのさ。」
「な──────!?」
しかし──────その上を行くのが
既にイグニスとコメットの背後に立ち、もう既にスカイライトはコメットに触れている。
この場を作ったこと、この場に彼らが来たこと。
それだけで、チェックメイトだった。
そして──────
「イグニ──────」
何の抵抗も許すこともなく、コメットはスカイライトの手によって転移された。
「コメット!くそっ、何処に・・・っ!?」
イグニスは突如消えたコメットを探すべく見回す。
・・・見えた。
「な、に・・・?」
・・・見えてしまった。
あの花から出現した白い渦は更に大きくなり、聖都にいた大半の人々が自らそこに吸い込まれていく中に。
・・・転移により、強制的に吸い込まれていくコメットが。
声も届かない、手も無論のこと。
それでも、諦めないのが彼が故に。
「コメットォッ!!」
身体強化・絶を使い、白い渦へと、コメットを助けるべく足を踏み出した。
「─────力が、出ないだと。」
身体強化が、出来なかった。
人智を超えた瞬発力が起きず、何が起きたのかわからない。
そして気づいた、力が出なくなったのではなく─────
「魔力が、奪われた・・・?」
身体から、魔力が無くなっている。
次から次に、奪われる。
喪失感を感じながら、時間は数秒過ぎて。
「済まないな、次はおまえだ。」
こちらに伸ばしてくる元凶の手が見えた刹那─────。
「テメェエエエエエッ!!!」
過去最大級の怒号と共に、身体強化は無くとも平均を遥かに超えた暴力にて大剣をぶつけた。
対し、
「可能ならば抵抗させずに送りたかったのだがな。
いやはや、流石は背徳の紅といったところかな?」
「コメットを何処にやった・・・ッ!」
「そう怒るな、今頃幸せな夢でも見てるだろうさ。」
「巫山戯るな、他の誰かにそんな権利を渡した覚えはねぇ!」
身体強化を無くしたイグニスでスカイライトの剣技は絶対に届かない。
だがそれでも、怒りによって力を増したイグニスの連撃を叩きつける。
そうなることも折り込み済みだったスカイライトは動揺することはない。
「それは悪かったな。だが、おまえが望めば必ず彼女に会えるさ。
「だから────それをテメェ如きに決められる筋合いはねぇんだよ!」
さてさて、困った。
案外抵抗が激しいようだ。
だがそうなっても良いように、また一つ手を打つ。
「悪いがこれでも苦渋の決断だ。
決裂は免れないと判断した上でこうしよう。」
「ッ!?」
ほんのコンマ数秒、イグニスに重力の魔法をかけて動きを封じた。
いま、スカイライト以外で魔法を使えるものはいない。
その権限を一切惜しみなく行使して─────
「ではさらばだ。
おまえには本当は、
イグニスに触れたスカイライトはそう言いながら転移を発動させ、既にコメットが吸い込まれていた白い渦にイグニスもまた飛ばされた。
「・・・流石に、俺たちの末裔の運命を引き剥がすマネだけは出来ないのでな。」
そんな
対し、イグニスもまたどうすることもなく。
「くそ、が──────」
あまりに安らぐ感覚のする渦に、イグニスは抵抗する力がなく飲まれるしかなかった。
「ある、じ・・・?」
ウィレスが来た時には、もう遅く────。
そこには、コメットとイグニスはもう居らずスカイライトが立っている。
アレが元凶だと、本能から理解したその瞬間。
「────貴様、主たちを何処にやった!!」
「悪いが時間がないんでな。
詳細は自分の目で確かめるといい。」
涼しげに返答するスカイライトに、更にうぃレスは激昂して、死神を思わせるような大鎌の束を握りしめて。
「ふざけるなぁあッ!!」
そこに冷静さはもうありはしない。
まぁそうなるか、と見向きもしないスカイライトはただ一言。
「────断て、デイビッド。」
「────御意。」
ウィレスの背後から、一瞬であの
「邪魔─────」
ウィレスが振り向き、大鎌を無造作に振りぬこうとした。
「──────あ?」
しかし、その一閃は空を切り。
逆に煌めく剣閃が迫るのが見える。
「ッ────!」
咄嗟の防御を行うが、かすり傷を負う。
怒りに任せてはいたがしかし、侮った行動では無かったはず。
しかし目の前にいる男の雰囲気に冷や汗が出る。
それは冷たい刀剣の如く。
先程の斬撃も、悪寒を感じるほど。
「見事だ、こういった不意打ちを止められる者はそう多くない。」
「思ってもないことを・・・!」
考えうる限り最悪な状況だ。
前方は現人神、後方は
「主を返してもらうッ・・・!」
「悪いが、それは聞けない相談だな。」
大鎌の周囲を薙ぎ払う一閃で、二人まとめて裂こうとするものの。
二人には届かず、しかし距離は出来た。
「まずは貴様から────!」
ウィレスは真っ先にデイビッドに向けて駆け出す。
大鎌を用いた圧倒的なリーチと範囲にて、デイビッドを覆うように斬り裂こうとするものの。
「怒りか、そういうものに応える方法も不得手だ。
だから、せめて敬意をもって応えよう。」
「ふざけるなッ・・・!」
届かず、逆に万象断ち切らんばかりの剣閃に押されてゆく。
ウィレスは対抗しているものの、先読みにて確実に追い込まれてゆく。
「時間が無い、決めさせてもらう。」
そして、一瞬で8つの斬撃に身体中を裂かれ─────
「あ─────」
鮮血を流してウィレスは倒れた。
必殺の剣閃は、ウィレスだろうと関係なく見切れない。
かの英雄すら、初見で見切るのは厳しいだろう。
だがデイビッドは視線をウィレスを見下ろす。
もう意識がない?
いやいやまさか。
「・・・ま、だだ」
震える手で、もう一度大鎌を握りしめて。
「まだ・・・!」
立とうとする。
「許せとは言わん、好きなだけ恨むといい。」
それを見逃すほど、
「まだだ」と立ち上がる瀬戸際の爆発力を、決して侮ってはならないと教わっている。
曰く、人間は可能性の塊だから。
故に、一切の容赦はなく。
峰打ちでウィレスの意識を、完全に刈り取った。
現人神から仕込まれた剣技は、当たり前のように勝利を勝ち取った。
「さて、ようやく始まりだ。
デイビッド、そっちは頼むぞ。」
「無論、見事役目を果たしましょう。」
余韻は何もない。
ウィレスは他の部下の手によって白い渦に飲み込ませた。
次の手を打つべく、
「今こそ、万人に
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