第二章二節"開花"─6
「この程度では、そうか。」
「ええ、子供だましも鬱陶しいで次の手でも打ってくだサイ。」
開幕早々、可能な限り高出力の稲妻の砲撃を放つ。
必滅の雷光。だがしかし、それをオブザーバーは青い炎の障壁で防御する。
間違いなく、一般的に言えば驚異的な力の衝突だった。
それでも、この場にいる二人には児戯のソレだ。
「ではお言葉に甘えるとしよう。」
属性複合。努力すれば、そして才能があれば再現は可能な技法。
スカイライトは、その努力の果てに千年前からソレを可能とした。
しかして、それに満足する男ではなく。
何度も何度も、幾度も幾度も、研鑽を重ねた技法は光速で演算は完了する。
現人神が持つ剣の切っ先を、根源悪に向ければ───
「超合金弾道を創造、並びに高電圧を駆動。」
大地属性による錬金術により、規格外の耐久性を誇る弾丸を創造し。
雷属性による高電圧により、その弾丸に圧縮されていき。
「穿て────
貫通能力と弾速を極限まで突き詰めた弾丸を解き放つ。
それを感知してから回避するなど到底できるはずもなく。
「・・・面倒デスね。」
改めて理解する。
その青い障壁を、難なく突破してその肉体を貫いていた。
その程度で動じるわけではないが、ああやはり面倒だ。
この身体では突破される。それは想定済みだった。
だがこの技法をさらに突き詰めてしまえば、そう。
本気を出したとしても傷がついてしまうかもしれない。
要するに、この男の起こしている現象は魔法による科学の先取りである。
聖都という、白辰からは考えられない楽園を創造し、そして千年の管理をしておきながら、その研鑽は誰よりも白辰らしい。
それをモノにするには、信じられない挫折があったはず。
だができてしまえばこんなモノ。
実力の上限は聖剣使いや魔神には及ばないものの、その研鑽と結果は誰よりも先を征く。
ああだから、こうもこの男は滅びない。
「ああそうだ、あまり動いてくれるなよ。」
魔神はうまく動けない。
ピンポイントに、根源悪の動きを重力魔法で封じていた。
それも高重力。
スカイライトをもってしても、重力で押しつぶすことは不可能であるものの妨害は可能。
それは戦闘開始からすでに起きていたこと。
つまりいくつもの最上級魔法を同時に行使していたことに他ならない。
「これならどうデス?」
付き合えば付き合うほど面倒になっていく、億劫になっていく。
指から放たれる死と破壊の光。
だがどうせ────
「物騒なモノを向けてくれるな、身が震えるだろう。」
「ほざいてくれマスね。欠片も思ってもいないコトを。」
「冗談が通じないな、だが間違っていない。俺が油断するものか、ましておまえが相手だ。」
咄嗟の転移魔法で背後に回り、雷光を纏った剣で切りかかる。
それを鋭い爪で軽く応戦する。
接近戦では間違いなくオブザーバーに軍配が上がる。
同時に海属性による精神汚染をかけようとも、それが通じることはなく、では混乱のために幻覚を見せようとも的確にオブザーバーは応戦できる。
この重力下でありながら、接近戦でのオブザーバーの優位性は保てるが、そう。現人神がそれを甘んじるわけもなく。
「無傷じゃ済まないか。流石だよ。」
転移から転移を繰り返し、絶え間なく激しい雷光が降り注ぐ。
そのスカイライトの姿は、先ほどの何合もしていた接近戦にて傷がいくつもできていた。
しかして、それに怯む様子がない。
「・・・だから面白くないんデスよ。」
曰く、傷つけば本当に痛いのだ。
曰く、誰かの死は本当に悲しいのだ。
曰く、強い相手と対峙するのは怖いのだ。
曰く、失敗とリカバリーは面倒なのだ。
────ほざけ、怪物め。
白々しく聞こえるのは、その精神的な部分の対処を作業のようにこなせるようになったから。
そんなもの誰が理解できるという。
数多の命と心を弄んだ男だからこそ、その恐ろしさに納得する。
かの英雄のように、明確に有ってはならないような存在でもない。
だがしかし明確に邪魔である。
それでいて、滅ぼすのにどこまで労力が必要なのか。
思考すればするほどのめりこむ。
起こりうる
「ではもっとつまらなくしてやろう。
おまえならば直ぐにわかるはずだ。」
スカイライトが創造する魔法、それはオブザーバーには直ぐに理解できた。
それは彼の部下の中でも頭も実力も優れていた───
「ジーク=フリーデン───
「その改良だ。ぜひとも感動でむせび泣いてくれると嬉しいのだが。」
「誰ガ?」
宇宙にあるブラックホールの完全再現は叶わない。
物質の質も量も無視した、あらゆる現象を穿つ性質は再現されているとはいえ、魔力同士の衝突は可能だ。
だからオブザーバーの判断は早かった。
目の前の現人神が、
「飲み込め」
「滅びてくだサイ」
複数の極小暗黒天体が魔神を取り囲み。
迫り来るそれを破壊光線で薙ぎ払った。
当然、規格外の者たちの力の衝突は凄まじく。
その場で魔力は大爆発を起こし、周囲を消し飛ばさんとする衝撃はその場の空間を大きく揺らしていた。
巻き上がる砂嵐、しかし二人は動くことなくその結果を静観し、そして嵐は止んだ。
・・・お互いが動かない。
何か手を打つ素振りもなくなった。
そう、つまり─────
「結論は出たようだな。」
「忌々しい限りデスが。」
痛み分けだ。
どちらもが明確に滅ぼすプランがない。
最小限の衝突により、それを実践した。
オブザーバーは本気ではない。
今の姿はもはや児戯のような遊びだが、逆を言えばスカイライトだけで対処出来る範囲だ。
無論、本気を出せばスカイライトを凌駕する。
方程式すら必要ない、明確な力の差がある。
であれば、本気で滅ぼしにかかる?
まさか、冗談ではない。
実力差があるからといって、この男が簡単に負けることは有り得ない。
むしろ粘りに粘って、死なず負けずに手を打って、勝てないにしても数多に犠牲を生み出しながらも、必ず次なる希望を残して生き延びる。
それが続けば続くほど、詰将棋のように追い詰めるだろう。
挫折を幾度も繰り返し、死に等しい体験を幾度も繰り返し二千年を生きた男に、今更1つや2つの大災厄で動じたりしない。
ましてこんな地で本気を出した所で、スカイライトだけでなく万人に対処法を与えるにも等しい。
何より未だ明かさない底知れない野望こそが、厄介だった。
此方が事を動かせば、とんなカウンターがあるのは分かったものじゃない。
対し、スカイライトも手が出せない。
無茶はある程度は効くが、絶対にスカイライトの死は避けねばならないし、野望と手段を明け渡すのも何としても避けなければならない。
何よりオブザーバーは実力は確かに恐ろしいが、現人神にとっては本気とは対処法が確定できるという事となる。
そこから覚醒を繰り返すような光の亡者では無いのだから尚更だ。
つまりはスカイライトにとっては本気ではなく、その辺の人々を弄び混乱させようとしている方が恐ろしい。
児戯で逃げながら弄ぶ方が掴みどころがなくなるのだから、現人神からすれば自明の理だった。
これにて証明は完了。
お互いが苦手とする方程式が更新され、お互いに踵を返す。
「・・・さっさと尻尾を出して滅んでくだサイ。」
「それは聞けない相談だな。
ああだが、仮にそうなったとして何も残さないと思うか?」
「・・・フン。」
オブザーバーは次元の狭間を開いて入り込んで消えた。
それを把握したスカイライトはある方向を見る。
「・・・おやおや、これは観光の邪魔になってしまったかな?」
遠くから近づく二人の気配に、思わず現人神は苦笑を浮かべるのだった。
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