第二章二節"開花"─5
時は、群や帝国軍がとある小国に依頼が届く少し前。
「マサト、今週末もどこかへ?」
いつものように資料室で勉強を終えたマサトに、ネネカが話しかける。
また寝落ちてないかのチェックだったが、今回は大丈夫だったようだ。
「あ、はい。白辰に。」
マサトの回答に、ネネカは目を一瞬見開いて聞き間違いか自分を疑う。
今まで1度も白辰に行ったなんて聞いたことがなかった。
何故かなど、もはや言うまでもなく。
行かない理由も、マサト自身も分かっているはず。
「・・・本当に、白辰ですか?」
「えっと、はい。」
何かの間違いだと思って聞き返してみたら、きょとんとした顔で返答が帰ってきたのでやはり間違いじゃないのだと理解してしまう。
「一人では危険です、今すぐ考え直した方が・・・!」
「わっ、わわっ、お、落ち着いてください!ちゃんと護衛の方がいますから!」
流石に冷静では居られなかったが、一旦待ったをかける。
なるほど、と一瞬思ったが、それは果たして誰なのか。
「聖都アークリュミールの第一階位聖騎士さんが護衛についてくれるんです!」
「・・・
白辰におけるオアシス、いやそれをも超えた楽園である聖都。
そして幸福であるとともに最新に最新を重ねた教育と訓練と技術により優秀な人材を量産し続けている精強な都市。
その更なる精鋭である"聖騎士"の中で頂点に立つ男、
確かに心強いがしかし、少々厚遇すぎる。
ホルストやクロヴィスのような重要人物の護衛ならば理解できるが、ただ日課としての旅でそんな人物が護衛につくとは。
「そうです!まさかあの人が護衛についてくれると思わなかったので、僕も驚いちゃったんです!
いろいろお話も聞きたいので楽しみです!」
そんな疑問をよそに目の前の少年は目を輝かせて喜んでいるものだから、つい微笑ましくなって、少々の声を漏らして笑みを浮かべてしまう。
「気を付けてくださいね。」
一抹の不安を抱えつつも、そんな様子の少年の楽しみに水を差す気にもなれず、一応の釘を刺してそれぞれの部屋に帰るのだった。
そして待ちに待った週末───
「今回、護衛を任されたデイビッド=ウィリアムズだ。よろしく頼む。」
「はいっ!お忙しい中、ありがとうございます!」
「気にするな。これも主命だ。」
今日、僕は白辰にいる。
国境地点で合流し、遺跡や町の観光に付き添ってくれるそう。
僕の目的は確かにそれなのだが、今日護衛してくれるのがあの
目的が一つ増えた。
「デイビットさん、観光のあとよければ剣技を見せてほしいんです。」
そういうわけで、早速頼んでみたのだが。
「済まないが、主命に含まれていないのでな。その頼みは聞いてやれない。」
「あぅ・・・はい。」
即答で返されてしまった。
あんまりにも取り付く島もない淡々とした返しに正直ショックも大きく、強請る気分にもなれない。
主といえば、あの
どうやらあの人の命令でなければ聞く気はないようで、残念だけど僕の我儘は抑えるのだった。
こうして護衛してくれるだけでもありがたいことなのだし。
「えっと・・・それじゃよろしくお願いします。」
「ああ、君の行きたいところについていこう。」
数時間、観光を続けている最中だった。
昼食時に、自分から一切しゃべることのなかったデイビットさんから声をかけてきた。
「近々、我々の聖都で催しがある。
1000年続いた聖都を祝う祭り、といえばわかるだろうか。」
「祭り・・・!」
どうもイベントがあることを伝えるように頼まれたのだろうか、それともデイビットさんから伝えたかったのか、唐突な宣伝だったけど僕には魅力的だった。
祭りは好きだ。
故郷である滄劉の祭りも好きだが、他国の祭りも気になっていた。
週末の旅行で気になって行くこともあったが、白辰は初めてだ。
「是非行きたいです!」
「ああ、そう遠くないうちに群にも宣伝が行くだろう。
希望者は聖都まで集団で護衛して連れていくことになる。
主も楽しみにしているそうだ。」
淡々としているが丁寧に教えてくれる。
その時は群からも何人か行く人もいるだろう。
とても賑やかになりそうで待ちきれない。
「その時はデイビットさんの剣技も見たいです。」
「主命があればな。それに催しものだ、そういった類の見せ物もあるかもしれないと愚考しよう。」
期待はできそう、ということでいいのかな。
それなら益々楽しみになってきた。
デイビットさんは楽しみとも面倒そうとも思ってないように見える。
まったく表情の変化はある、だけど大きな変化じゃなく、硬く・・・そうとても硬い思考でまとまっているような。
「あの・・・」
それが気になって、しかしどういえばいいのかわからず言葉に詰まる。
───その時だった。
「・・・・・揺れ?」
遠くで、光景が揺れた。
なので地震ではない。ただとてつもなく大きな力が動いたような・・・。
「デイビットさん・・・!」
「勧めはしないが、行きたいならばついていこう。」
「お願いします・・・!」
何が起きたか、というより嫌な予感がして仕方がなく動かずにはいられなかった。
危険なのはわかっていても・・・前と比べて危険に向かっていく恐れが薄くなっていくのが自分でもわかる。
その変化に、自分に怖気が走ったけれど・・・身体はそれを気にしてくれることはなく何かが起こった地へ走り出した。
「久しぶりデスね。でも・・・正直貴方には会いたくありませんでしたよ。」
「釣れないことを言ってくれるな。帝国で見せしめしておいて、それは通らんだろう。」
だれもいない砂漠で、二つの影は向かい合っていた。
獄炎を纏う異形の頭部を持つ、史上最悪の魔族インタフィア=オブザーバー。
聖都を築き、至高の現人神として君臨しているスカイライト=ヴェラチュール。
どちらも二千年の時を生きた人外が、見物人ひとつないこの舞台で向き合っていた。
こうして向かい合った理由は、何のことはない。
気まぐれで次元の狭間から白辰にたどり着いたオブザーバーを、スカイライトが感知しただけのこと。
オブザーバーは嫌そうに眼を細める。
あの英雄相手ですら見下してあざ笑っていたのにも関わらず、この目の前にいる現人神に対してはそうではない。
英雄のように心も力も強く、そしてそれが瞬間瞬間で増していくような壊れない玩具のような性質もない。
自分を打ち負かす明確な力を持ち合わせるわけでもない。
心を弄んでいい反応があるわけでもない。
そう、面白くない。
それでいて、無視できるほど弱くもない。
あらゆる方面で、的確に全く遊びもなく対処して、こちらが負けることもないがあちらも負けることもなく、柔軟に複雑にこちら側を不都合に貶める。
それがとてもとても、相性が悪い。
「貴方も物好きデスね。わざわざ会いに来るなんて。」
「勘違いしてくれるな。俺も別に、おまえに会いたいがために来たわけではない。
おまえほどの災厄が、感知できる範囲に現れたのだぞ?そんな愉快犯を放置しろと?いやいやまさか、冗談じゃない。」
スカイライト側も、端的にいって面倒だ。
絶対に対処しなければならないような存在など、可能な限り消したいに決まっている。
それに、スカイライトの野望に対しては明確な障害だ。
さっさと対処できれば、すぐにでも
つまりは、お互いが嫌っている。
お互いが面倒だと思っている。
とはいえ、鉢合わせてしまったからには仕方がなく。
「できればさっさと死んでくださいねェ」
「それはお互い様さ。」
此処に魔神と現人神の衝突が発生した。
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