第二章三節"聖都アークリュミール"─7

宣戦布告と同時に、衝突する刀と剣。

此処にを斬殺すべく、序章となる死闘が始まった。


「ふっ──はっ」

「ぬぅっ───オオオオッ!」


死闘が始まって数秒。

嵐のような剣劇によって、すぐに拮抗状態となる。

衝突を繰り返し、鋭い金属音を地下で響かせて、俺とゴスペルの刃はぶつかり続ける。


お互い譲らず、予想以上にあるいは、一歩も譲らない状態から進まない。

なるほど、技は大したことないのに、人間とは思えない総合値ステータスを感じられる。

そして無論のことながら、その力を以ってこちらを圧倒しようとする。


「無駄だ!貴様がだれか知らないが、現人神の祈りには通じない!」


ああ、確かにこれは。

冗談のような光景だ、確かに一般的な兵士や戦士と比べればはるかに優秀ではあるし、それでいて現人神からの加護もあると聞く。

その辺の悪党が束になってかかろうにも、この聖都は崩れない理由がよくわかる。

奴の鎧の裏にはおびただしいほどの護符があるのか、剣劇を繰り返し数秒ごとに奴の体が輝いていく。

奴はこの聖都の人気取りアイドルなのだから、現人神からだけでなく、民衆や仲間からの護符の数もすさまじい。

その護符の一つは、治癒。そしてもう一つは消費した体力スタミナの復元。これによって奴は何一つ疲れを見せていない。

装備もロクに揃えられない浮浪者にとって、間違いなく絶望的な状況だ。

なるほどなるほど、笑えてくるじゃないか───


「強く、早く、そしてしぶとい。

とてもわかりやすい恩恵だ。よく出来すぎている、実験でも繰り返さなきゃこうもならないぞ。」


こちらはなんの恩恵もないが、そんな程度でこちらの血肉は削られない。

仮面越しに、奴の目に視線を向ければ───。


「・・・貴様、何を知っている。」

「さてね、だがこういう手合いは多くてね。

いい顔して裏では汚いことやってます、という輩には慣れっこさ。」

「───それ、はっ」


そこまで言うと、おやおや。

眼の色が変わってきたじゃないか。いけないな、この話はまだ完全に法外アウトな実験とは決まったわけでもないのに。

現役の使徒もまた、そう簡単に上司カミを疑い始める、だなんて。

これはタイミングが良かったか?自分たちを治めていた現人神がまさかまさか、と?

正直者なんだな、


「・・・貴様は危険だ。あの場にいたテロリストどもみなすべて、この聖都から逃がさないと知れ!

一つ残らず吐いてもらうぞ、我らが現人神ヴェラチュールの御許でな!」

「演技派だねえ、だれそれじゃ無理だ。」


だいたい分かった、なればさっさと終わらせて本人に問いただすとしよう。

クロならよし、シロならまあ、仕方ない。


「お前じゃ俺には勝てない。」


仮面を勢いよく外し、前へ。

様子見は終わった。

四肢に魔力を流し、たった二人にしか受け継げなかった身体強化によって疾走して───


「───は、ァ?」


呆然とした奴の体から、鮮血が勢いよく溢れてくる。

袈裟斬りによって二等分されかねないほどに、奴の身体は俺の一刀で無様をさらす。

本来ならそれで決着だ───だが、まだあるんだろう?


「な、っ───馬鹿な、こんなッ!」


そら見たことか。

仕込まれた護符が自動で発動し、傷を癒す。

そしてまた、無様をさらす。


さっきまでの拮抗状態から、奴側に傾こうとしていた優位性が、そっくりそのまま、いやそれ以上にこちらに傾く。


奴は何が起こっているのかわかっていない。

疑問と困惑を訴えてくるが、まあ。


「これは当然のことだ、お坊ちゃんベビーフェイス

真面目に貢献してきた広告塔おまえより、殺すことばかり磨いてきた浮浪者おれのほうが、そりゃ強いに決まってるだろ?」


何のことはない、要は研鑽の質と量の差だ。

刀の束で再生した奴の身体の鳩尾に叩き込んで答えを示す。


「百の努力を覆すには、百一の殺人剣どりょくで凌駕する。わかりやすいだろ?」


世にはびこる悪を斬る。

師から技と思想を譲り受け、そして磨き続けた年月。

御覧の通りのロクデナシだが、そうであるが故にこの成果はそう簡単に塗りつぶせない。


「貴様ッ、現人神からテロリストの残党狩りを依頼された、烈黎=ミヌアーノ!」

「なんでテロリストに肩入れする?てな顔だな、安心しな。あいつらも後で殺すさ。今はお前の後ろにいる、現人神カミサマの罪状の確認が最優先したいからな。」


狂っているだって?そりゃあそうだ、俺に仲間はいないのだから。

ちょっと俗っぽいことを知っているとはいえ、俺は史上最悪の殺人剣である、無慚の継承者だ。

向こう側に邪悪があるかもしれないともなれば、その使途を斬殺することくらい躊躇わない。

どうせ明日も明後日も、そして死後だって地獄だろう。

世捨て人に、倫理を説いたって無駄なのだ。


「まあそういうわけで、諦めな。」


斬って、斬って、斬って、斬る。

回復しようがおかまいなし、悲鳴も抵抗を許しはしない。


「一定以上、強さの領域レベルが違ってしまえば、そら御覧の通り自動回復を以てしても無残な実験台サンドバックになるのさ。

だが、ほかの聖騎士ならばどうだ?こうはいかないかもしれない───だから、お前しかいないこの日を狙ったのさ。」

「がっがあああああああああ、アアアアアアア!!!」


血肉が飛ぶにつれ、次から次に護符は発動して回復する。

首でも飛ばすなり、或いは心臓でもつぶせばいいのだろうが、なるほど。

その防御だけは巧いらしい。


「───いい加減に、しやがれェ!!」


ほう、ついに激昂して剣を傷つきながら振り返してきたか。

よほど鶏冠に来たのだろう。なりふり構わぬ全力の刃は、先ほどと比べて段違いに鋭く、強い。

やはり気合は偉大だなとつくづく感じる。

同時に生命の危機とようやく完全に把握したのだろう、つまりは奴の護符も切れてきたというわけだ。


「どうした優男。地が出てるぞ?仮面を被ったらどうだ?

お前は民衆が誇る聖騎士様アイドルだろう?演じると決めたなら、最後まで自分を騙せ。

さっさと格好つけな、お望み通りの逆転のチャンスだ。」

「言われるまでもないんだよォッ!!!

殺してやるッ!俺が授かったこの聖剣で、裁きの稲妻に焼かれて死ね!!」


怒号と同時に、奴の剣に雷が宿る。

なるほどやはり、その剣もただの剣では無かったか。

正確には魔剣だろうが、現人神からの恩恵であるために聖剣と呼んでいるのだろう。


瞬間、奴の剣は雷光となって放射されて乱れ撃ちをする。

戦士単体の弱点は遠距離戦の乏しさ。

それを魔剣でカバー、いやそれ以上に貢献している。

この雷属性の密度も、中級程度はあると見ていいだろう。

ひょっとすれば、上級並みにまで効力を発揮するかもしれない。


「しかし、雷ねえ。やっぱりお前は象徴アイドル向きだな。」


裁きである雷光が、この空間を埋め尽くさんと乱れてこちらに襲い掛かる。

回避しても追ってきて、疾走する俺を焼き払うべく近づくたびに雷光が激しくなる。

単純だが、わかりやすく強い。ああ、だからやはり───お前は悲しいくらい現人神の使徒だ。


「逃げても無駄だ!此処で消し炭と化せ!」

「悪いね、それは無理な相談だ。」


死線を潜り抜けた経験を糧に、刹那の見切りで慌てずに潜り抜けて───


そして、また再び。刃は交わった。

さっきまでとほとんど変わらない剣劇に巻き戻る。

お前の雷撃、見切ったぞ。


「───ッ!!なんで、何故そうなる!!」

「申し訳ないけどな。広範囲攻撃オールレンジなんてこの世界を探し回れば意外といるのさ。

魔道具を使う上に技も十全な弟弟子とか、触手を使って十三刀流なんて芸当をする化け物と比べりゃ、お前の聖剣は鈍剣ナマクラだ。」


雷という明確に、触れてはいけないという明確な対処法がある限り、その程度の放射じゃ簡単に潜り抜けられる。

あの残党どもの首領である。血狂魔剣サンブレイドはもっと恐ろしい。

戦場に大地がある限り、魔力と演算が許す限りどれが凶器になるのかわからないのだから。

もう存在が迷惑極まりないのだから、死んでいてくれて本当に助かっている。


「ふざけるな、どうかしてるぞ!少しは常識を語りやがれッ!

全方位の雷だぞ?見るも躱すもないだろう!反射神経や技と一つや二つで超えられるはずが───」

「放っているのは所詮は人間、それなら打つ手は無限にあるさ。

超高速の攻撃や、広範囲の攻撃なんて、上位の連中と向き合えばそう珍しいことでもない。

まして、攻撃する初動が見えていれば語るに及ばず。回避するのは造作もないさ。

とりわけ、お前の殺意は単純だ。直線的かつ明瞭、素直すぎて読みやすい。」

「冗談じゃない。貴様は本当にわかっているのか!?

んだぞ!間違いなく、たった一撃受けただけで!」


ああ確かに、まともに命中すれば、防御すらできないならそこで俺は絶命するだろう。

致命的に心臓や首がやられさえしなければ、護符で回復できるお前と違って、何も恩恵なんてないんだから。

実に一般的で正しい意見だ、それは認めよう。

故に、恐ろしくないのか?と言いたいのだろうが、笑わせる。


「とっくに恐れはないさ、あるのは執念と殺意。

だったらこの程度は越えて当然だ。

師匠がそうだったように、な。

馬鹿げてるって?ああ確かに、弟子入りしたては俺もそう思ったけどな。

実践できてしまえば御覧の通り────極めて野蛮で強力だ。」


さらなる俺からの斬撃で、血飛沫が奴から飛ぶ。

剣劇でのわずかな放電で少しばかり痺れたが、その程度だ。

奴の顔から怒りは過ぎ去って、困惑と恐れが勝った顔になっていく。


「わからない・・・!何がそこまで貴様を駆り立てるんだ!俺には皆目理解できないッ!」

「さっき言っただろう、裏で非道な行いをしている疑惑があるってな。

今まで行っていたかどうか、そして血狂魔剣サンブレイドという最悪のテロリストに依頼をして実験よって死んだのが真実なのかどうか、それを知るためさ。真実なら───殺す。」





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