第二章三節"聖都アークリュミール"─6


白辰某所


「ひぃいいいっ、人斬りだぁああ!」

「人斬り?ああそうかもな。」


丑三つ時、下水道付近のアジトらしき場所にて悲鳴が響く。

和服を着て無精髭を生やした男は、血のような赤い刀を揺らして、標的たちを追い詰める。

人斬りの名は烈黎。

ナオタカ流の現当主にあたる。


「悪いなぁ、血狂魔剣サンブレイドの配下諸君。お前らがテロリストなら俺は斬らにゃならん。かの現人神ヴェラチュールから直々に頼まれ事でな。」


それを聞いた残党たちは血の色を変える。


「く、くそっ、あの悪魔めっ!ボスを捨て駒にしといて・・・!」


そう言って慌てふためくが、人斬りはどこ吹く風だ。

悪党に貸す耳はどこにもないし、それは何度も聞いた捨てセリフだ。

権力者にテロリストが玩具にされることだって珍しくない。

まぁだから、今回も例に漏れずそういうことだろうと思った。


「んん?」


追い詰める最中、あるものを発見する。

机にある置き手紙が、乱雑に置かれていた。


「なんだこりゃ。」

「それは・・・!」


それを烈黎が拾う。

更に慌てふためくテロリストたち。

構わず読み進めると、目を見開いた。


「─────へぇ、説明してくれよ。」


運命は、流転する。








─────────



現人神との謁見から1ヶ月後の夜

聖都にて、爆破音が鳴り響いた。


「馬鹿なっ・・・!」


呆然としてから数秒後。

現実を把握した俺は窓へと張り付き、そして愕然とする。

第七階位の部屋に宛てがわれた場所で、妻と二人きりの時に起きた出来事だった。


視界には街から昇る大きな火の手と煙。

悪意にまみれた黒煙が、聖都を汚す。


ありえないと思いたいのに、騒ぎ始めた住人の悲鳴を聞いて見て見ぬ振りはできない。

ふざけるな、ありえるのか────!


「ここは聖都アークリュミールなんだぞ!」


それなのに何故、侵略行為テロが起きている・・・!


「誰が、いやどうやって入り込んだ!守衛は何をやってやがる。責任問題どころじゃないぞ!

こんな・・・聖都の、聖騎士の栄光が・・・!」

「落ち着いて。」


妻の声に振り向いて、そして抱き寄せられた。

口付けをし、背を撫でられ。

触れた感覚と匂いにて落ち着きを取り戻す。


忘れるな、俺はゴスペル=シャインブレイブ。

聖都アークリュミールの第七階位聖騎士だ。

焦った姿など似合わない、俺はもう冷静だ。


今はタイミング悪く、ほとんど聖騎士は出払っている。

そして現人神の手を煩わせるわけにはいかない。

ならばやはり、俺が行くしかない。


「行ってくる。」


さあ、ならば。

現人神の操り人形として責務を全うしようか。


俺が外に躍り出ると、部下が待っていた。


「シャインブレイブ様!これはいったいどうなって・・・!?」

「狼狽えるな。冷静にだ。」


どの口で言うのやらと思うが、それはそれ。

今は堂々とするべきだ。


「奴らが何であれ、テロであることは変わらない。ならば必然、騎士として役目を果たすまでだ。

お前たちは市民の避難誘導を頼む。いいか、敵の殲滅が第一じゃない。犠牲者を出さないことも、我々の勝利だ。」

「拝命しました!我々で守り抜きましょう!」


そして俺たちは散り散りに。

役目を全うすべく走り出した。








そして、役者が揃う頃────。


舞台となる聖都アークリュミールの一角は戦乱の火に焼かれていた。

巻き上がる黒い狼煙、轟く炸裂音。

侵入したテロリストを討伐すべく、逃げ惑う市民を守り────


「来るがいい、テロリスト共!

俺が相手になる!」


高速の踏み込みから一閃。

進行する敵の一人を切り伏せる。

ゴスペルはいま正に、獅子の如き勇猛さて希望の光として君臨していた。


それは無論、短期間で急激な成長を遂げたからでも、覚醒に繋がる想いと起爆剤フラグがあったわけでもない。

つまり、この力はに他ならない。

身体能力に現人神の洗礼として底上げの処理が成されている。


テロリストに苦戦しかねない?

それはいけない、君は我らの人気取りアイドルだから。

こうしてなんの対価もなく、ゴスペル=シャインブレイブの総合値パラメーターは一段階成長させられてしまった。


構えて、駆け抜け、振り下ろす。

たったそれだけで蹂躙出来る。

格の差が出たならば、些細な技など関係なしだろう。


だが、妙だ────


「やけに消極的じゃないか・・・!」


守りきる為にこちらは消極的にならざるを得ないが、テロリストの攻めも消極的だ。

何か狙いがあるのか、そう頭を巡らせた時・・・





「────さあ、始めるか?」




「なっ・・・・・!!」




その直後、から繰り出された飛び蹴り。

それを受けたゴスペルは、広めの路地裏に押し込まれた


更に。



「そらよっ、来てもらうぜ。お坊ちゃんベビーフェイス。」



襟首を掴んだ何者かは、マンホール下へ連れれて、下水道の通路に引きずり込まれた。



「────がっ、ぐっ、はぁっ!」



落とされた聖騎士は、自動で発動した治癒の護符で傷を癒す。

人気取りアイドルは死んではならない。

故に、治癒の護符は欠かせなかった。


結果としてはノーダメージ。


やはりこれだけじゃダメか、と。

目の前の誰かはため息をつくだけ。

お面をつけた和装の男は、また手に持った獲物・・・刀を握りしめ、歩き出す。


ゴスペルは周りを見る。

違う、ここはただ下水道ってだけじゃない。

壁を這って、天井を這って

そしてそれは、一箇所に集い人の身体を余裕で超える大きな蕾になっている。



現人神ヴェラチュールサマの裏の庭って奴だろうさ。

なるほど、お前は知らなかったのか。

まぁいいさ、やることは変わらない。」



和装は黒染め、赤い血のような刀の切っ先をゴスペルに向ける。



「今からおまえの死に場所だ。

さ、斬りあおうか。」

「き、さまァ!」


飄々とした殺人予告と共に、衝突する刀と剣。

出始めの戦いの火蓋は、今まさに切って落とされた。

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