第二章一節"空と海の境界線"─10(終)


街の運営から1年。

街を作り、反逆にあった。

なるほど、運営に穴があったのか。

今後の参考とさせてもらおう。


「────などと、余裕をこいている場合じゃないな。」


運が悪く、反逆者はまさに破綻者だった。

闇が抜け落ちた、光の亡者。

追い詰めても、何度追い詰めても。


まだだ


まだだ


まだだ


そんな風に立ち上がる。

勘弁してくれ。

ちゃんと生命に素直であってくれ。


喉元に何度も刃を突き立てられる展開が多くてはかなわん。

今回は退けたが、次は分からん。




二年目。

犯罪が多発した。

貧しい環境が広がっていたのだろう。

不満も確かだ。

犯罪は犯罪だが、ああ確かに原因はこちらにある。

今後の参考にさせてもらおう。


裁くべきは裁くのだろうが、キツくしても反発は強まる。

ほどよく甘やかすべきなのだろうが、やはり調子に乗られても困るのだ。






三年目。

横領が発生した。

収入に不満があった訳では無いが、金に眼が眩んだとか。

儘成らんな。どう対策を詰めるべきなのか。


まあいい、今後の参考にさせてもらおう。






四年目。

俺に夜這いする市民が現れた。

既成事実を作り、権力を得たかったのだろうが対策くらいしているとも。

古今東西、権力と金に人が一定数溺れるのは最早社会における習性だからな。


とはいえ多発するとうんざりする。

俺は■■■一筋だと言うのに。

しかし、それを公表するわけにもいかないジレンマがある。

俺たちの子孫と関係があるとなれば困るのだ。

向こうを巻き込んでしまう。

巻き込むタイミングはとうの昔に決めているのだから。


五年目

優しい副官がついた。

その副官のお陰か、街の人々は活気づいた。

その手腕は今後のために参考にさせてもらおう。

彼の一生もまた、俺と比べ遥かに短い。

彼は本当にいい人間だった。


だからこそ、彼のような人をまだ新天地アースガルドには連れて行けない。

早すぎたのだ、俺の無能と責めてもいい。

彼だけでなく、これまで亡くなった仲間や民は連れて行けないという罪悪感は、紛れもなく本物なのだ。


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五百年目


新天地アースガルドの魔法開発は順調だ。

望み通りの燃料摂取、望み通りの精密性、望み通りの耐久性。

だがまだ足りない、まだ粗がある。

更に詰めなければ。


さて、またしても光の亡者が反乱か。

ああウンザリだ。

アレに感化されて目ん玉を焼かれたものが増えてなければいいが。


凶悪殺人犯までいる。

原因はあるのだろうが、それはそれだ。

丁度いい、実験に付き合ってもらおう。

安心するといい。新天地アースガルドに連れていくべく、死なせはしない。

死なせてしまったら、誠意をもって謝ろう。





反乱




犯罪




災害




横領





死別









「ああ、またか。」



思わず、口に出てきてしまう。

修正しても修正しても、必ず現れるマイナス。

それは仕方ない。

最悪、マイナスが現れる理由すらないのだ。


問題は、感動を覚えなくなったこと。

或いは、感じても直ぐに過ぎ去ること。

それは仕方ない。

覚悟してきたことだ。


、そういうのは。

燦然と輝く軌跡も、汚泥のような不条理も、称えられるべき雄姿さえ、としか思えないな。


選択肢に行き詰まりそうになったとしても、、となるだけだ。」


ああ、そうだとしても。

かつての想いだけは変わらない。

傷つくのが運命さだめだとしても、いろを放つ。

冷えきった硝子の心にも、熱が灯る。


彼女に誓った悲願を果たす為ならば、年月を重ねた副作用くらい受け入れる。

忘れていない、本当だとも。

ただ、先へと歩む足を止めないようにしただけだから。









千年目。


末裔に出会った。

ああまったく、何代目かすら分からないが。

確かに■■■と似ている。


決して楽な人生ではないのは容易に想像がつく。

ああ、ならば。

彼女も、その仲間も、伴侶も。

今は出来ずとも、いつか連れていこう。


俺は決して目を逸らさない。


何度でも、そう何度でも、涙を拭って歩き出そう。


深い希望も絶望も、重ねた全部が俺の力だ。


スカイライト=ヴェラチュールは止まらない。


あの空と海の境界線を、全てを果たしたその時にもう一度見るために────。

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