第二章一節"空と海の境界線"─9


「早くも三代目、或いは四代目か。」


俺の体格が大きく変わって150年が経った。

大戦争から合計して850年だ。


この150年で、俺は近接戦を鍛えた。

俺の仲間が、二代に渡って剣、槍、斧・・・様々な武を身につけた。


魔法の研鑽はかなり積んだが、魔術師としての弱点である近接戦を埋めるべく、一級品になるまで身につけた。


基礎体力からつける辺りでもう地獄だった。

更に、感覚と理屈のどちらも合わせて技を身につけることがどれだけ苦痛だったか、分かる者には分かるだろう。


「今では見上げる程になりましたよ。」

「俺はほぼ無限に生きていける故のアドバンテージがあるからだよ。これだけ時間がかかったのだから凡人もいいところさ。」


あらゆる武が一級品になるまで150年。

更なる高みとなれば、果たしてどこまでかかるのか、想像もしたくない。

したくない、が。

万全を期する為には必要なのだ。


だがその万全を目指し、いずれ悲願が叶う日まで死んだもの達は戻らない。

俺の無能だ、それは責められるに値する。

それまで、せめて世界が生きてさえいれば、俺として頭が下がる思いだ。


現人神ヴェラチュール様。」

「・・・どうした。」

「・・・父が、亡くなりました。」

「・・・そうか。」


ああ、何度目だろうか。

またしても、仲間が一人逝く。

いつの間にか年老いて、一人、また一人と別離を繰り返す。

そして同じだけ、仲間と出会うのだ。


別離、ああ確かに悲しいさ。

悲しくて涙が出そうなのに、一瞬でその心は過ぎ去っていく。


「通夜と葬式の日を教えてくれ。必ず向かおう。」

「はい・・・」


泣いている仲間の肩を叩き、そう告げる。

ああそうだよな、それが普通だよな、と。

もう別離の悲しさに慣れてしまった俺は、せめてそのフリをして優しげに対応するのみだ。


老衰による死、ばかりではない。

実験による死も、また別離だ。

失敗により亡くした命ですら、罪悪感もまた同じく一瞬で過ぎ去る。


だが、誤解はしてほしくない。

何も感じないわけではない。

ただ本心からの気持ちが、一瞬で終わるほどに俺の心は慣れきってしまったんだ。


とはいえ、もう。

それを理解してくれる誰かなど、もう何処にもいないのだが。



それでもなお、■■■との記憶と心だけは鮮明に残るのは・・・運命だったからだろうか。








更に、150年。

大戦争から、1000年。


「・・・500年か、随分長い間世話になったな。」


研究施設から出る日が来た。

武を習得して、次に心理学と政策、そして教育について学んだ。

長い時間をかけて学びきったのだ。


では、それを活かす時が来た。


俺は街を作る。

新天地アースガルドの舞台にすべく、1000年をかけて大きな街にしようと考えた。


実験用の仮想世界発生機関と、その管理者は置いていこう。

管理者とは四つ目の眷星魔、その完成体である七号機。

仮想世界の核は俺の思想だが、管理はこいつに任せる。


もう新天地アースガルドの魔力問題は解決済みだ。

自分で賄いきれないなら、他者から貰えればいい。

新天地アースガルドの入場料と思えば悪くないだろう。

だが、上手くいくかは不明だ。

つまり、この置いていくこいつは実験体だ。


その時が来るまで研鑽を続けよう。

失敗に終わって研鑽した長い時間が無駄に終わっても構わない。

また歩き出せばいい、解決策は必ずあるはずだ。


「さて、行こう。」


この施設は、廃墟となっていくだろう。

仮想世界発生機関と眷星魔には魔法に対するプロテクトを多重に掛けた。

ならばもう、思い残すことはない。


「・・・さて、街はなんて名付けよう。」


外へ歩き出し、ふと思い出した。

名前はそうだな、後で考えよう。

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