第二章二節"開花"─3
『派手に、そして一方的にやられやしたね。』
医務室で、僕は起きた。
何があったか、今でも覚えている。
体の震えは、決して雷の痺れではないことが、誰より自分でわかっている。
「・・・。」
トルエノさんと立ち会い、何も出来なかった。
情けない、そして怖かった。
一方的に押され、そして死ぬ。
アレが現実なら、そういう戦いだったんだ。
『治癒術師は本来、戦う者ではないのは常識でやんす。だからあの結果は、当たり前の話。
誰もが言うでありやしょう。
"君は幼く、そして治癒術師。相手は竜族。よく立ち向かった"と。』
なのに、なんの慰めにもならない。
極まれば多少の抵抗位出来るだろうに、それが遥か先だと思い知らされる。
それどころか、それは例外か、長い間生きて弱点を埋めたような人にしかできない芸当なのだと知る。
つまりは諦めろ、と。
現実から、そう告げられた気がする。
『確かにあっしは、治癒術師でありながら刀一つで首謀者のみを除いて不殺を貫き、そして仇討ちを果たしやした。
でも、正直言って運も絡みやした。
後世がどう言い伝えたにせよ、
だから、帯刀は許しても、無闇に抜くことをあっしの子孫は禁じた。
賢い選択でやんすよ。実に正しい。
異論はないし、むしろよく判断したとあっしは思いやす。』
それは、僕の選択が間違っていたということになるのだろうか。
・・・そうなのかもしれない。
いくら何でも無理がある。
イバラの道だなんて、そんな生易しいものですらなかった。
それでも─────
『それを踏まえてのテメェだ。』
ご先祖さまと眼があった。
逸らさない。逸らしたら負けだ。
これくらいの恐ろしさで、目を逸らしちゃダメなんだ。
『まだやるか?今のテメェがこのままならどうなるか、理解できないほど馬鹿じゃねぇだろ。』
「それでもっ・・・!」
『千尽刃に言われた事を気にしてるから続ける、じゃ話にならねぇ。
いいか、奴は勝手に煽って、勝手に期待したんだ。
お前がソレに応え続ける義理は何処にもねえはずだ。』
そうかもしれない、そうかもしれないけれど。
僕にも、言い分位はある。
「確かに僕は、煽られたから刀をとった。
そしてあの人は良い人じゃない、分かってます!
でも刀を握ることに関しては、間違ったことは言わなかった!
僕はそれに乗ったんだ!」
その上で、自分の身を自分で守る以外にも、誰かを守り抜くご先祖さまのような剣士を目指して、僕だけの道を選びたい。
まだ弱いけれど、運命くらいは自分で選びたい。
ちっぽけな理由でも、構わない。
それでも譲れないくらい、今は大切だって思ってるから。
「僕はまだ生きてる!弱いなら鍛える!
優しいあの人が、僕を気にかけてくれたように。
ああそうだ、僕は
あの人は知らないかもしれないけど、僕に恋を、優しさを教えてくれたあの人は、僕にとってはかけがえのないものなんだ。
それをまた──────ただ甘えているだけの僕に戻りたくはない。
「諦めない、何度負けても立ち上がってやる!
僕は言い切って、息を必死に整える。
言っている間も怖かった。
脚が、手が、震えて止まらない。
だけど、言いたいことは言い切った。
『・・・ビビりながら言うセリフじゃねぇ。そんなセリフを吐きたかったら、もう少し一丁前になりな。』
ふぅ、とため息をつくご先祖さまは頭を掻く。
やっぱり、震えているのはご先祖さまにはお見通しだった。
『・・・身体の調子が戻ったら、またやるぞ。がむしゃらにやるだけが稽古じゃねえ。
もっと効率的にやってやる。』
ご先祖さまは観念したように言って、姿を消した。
"ビビらせたのは逆効果だったな"なんて呟きを残して。
この日の間に、僕は医務室を出られた。
そしてまた、次の稽古が始まる。
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