第二章一節"空と海の境界線"─6


彼女は、子供っぽくて、時々バカで、ワガママで。

そして、残酷なほど優しい。

そんな彼女は、少しだけ大人になった。

俺の■■は続いている。



俺たちの間に、娘が産まれた。

■■■とは違い、ちゃんと2つ脚がある。

俺の影響なのだろう。

大部分は■■■とそっくりなのだが、一部だけは俺と似ているのが微笑ましい。



「そういえば、増築したんだがどうだ?」

「いいね、あの小屋じゃ狭かったからなー・・・。」



子を授かったあたりで、俺と友人数名により俺が作ったかつての小屋は、小さな一軒家程度のモノになった。

これなら将来、娘が大きくなっても多少暴れても許される。


・・・もう多少暴れるというのは、■■■からの談である。

なんでも"私の娘だったら絶対手がつけられないってー!"とのこと。

全く冗談とは思えなかった。


さて、娘は人魚の脚ではなくなったが、今は■■■に抱かれてぷかぷかと海に浮く。

かなりはしゃいで喜んでいるのを見ると、やはり人魚の血なのか、或いは■■■が海が好きなのがうつったのか。


俺は家事をしながらそれを眺めていた。

畑の様子もよし。

最初は自給自足が為に畑を始めたが苦労して、こうしてちゃんとほぼ自給自足が叶う程度にはなったので、やってて良かったと心底思う。


魔法の研鑽に割く時間の割合は減りはしたが、ちゃんと進んではいる。

ペースが落ちたことに対しては、やはり子育てが落ち着くまでは仕方がないだろう。

時間が割けないからと言って、■■■一人に全部任せるなどというのは論外だ。


彼女からは"自分のしたいことしてもいいんだよ?"と言われはしたが、俺は断固としてNOを突きつけた。

彼女のことなんだから、そりゃ自分の身を犠牲にすることになる提案だってする。

マシになったとしても、やはり根っこから彼女はそんな感じなのだから。


無理に人の性質は変えなくてもいいが、現実に生きるならばやはり、割り切りというか妥協点は必須なのだと理解する。

仕方ないのだ、どんなに理解できないマイナスがあったとしても、そんな彼女を好きになったのだから。


まぁつまりは、惚気というやつだ。

惚れた弱みってやつだ。



「どうしたの?」



ぼー、としていたのだろう。

俺の顔を、彼女は覗き込む。

そんな顔がやっぱり愛おしいものだから。

つい、俺は短くキスをした。


ずるい、と彼女は照れ笑いを浮かべる。

俺からしたら、おまえの方がずるいというのに。








更に、数年が経過した。

娘が5歳の頃だ。


色々あった、特に娘は。

立ったり

歩いたり

走ったり

喋ったり

自分で食事が出来たり

自分から手伝いしたり

歌が上手になったり

楽器が弾けるようになったり

勉強が少しづつできるようになったり



ああ、子育ては大変だが少しの成長が愛おしいな、と理解する。

進む歩幅が小さくても、ちゃんと前に歩けている事実に涙すら溢れそうだった。

何か大きな事を成さなくても、そんな確実な小さな歩みでも、ちゃんとした■■だから。


俺も■■■も、手を取り合って喜んだ。

幸せで幸せで、仕方なかった。



「こんなに幸せでいいのかな」



彼女は言った。



「おまえも俺も、幸せになっていいんだよ。」



俺はそう返した。

なってくれなきゃ、俺は悲しいから。

もし、もし。

何かの間違いでおまえが死んだら。

俺はどうなるか分からないから。







「・・・阿呆な事を考えるのは一旦、中断だな。」


地下室、目の前には大量の書類。

研鑽の証がそこにある。

確かに愛や恋を知って、ペースは落としたが研鑽を欠かしたことは無い。


転移魔法の移動範囲は数十メートルで、対処は自分のみ。

クールタイムは長いが、これでも膨大だ。


無属性、雷属性、海属性、大地属性。

その4種は中級程度になっている。

参考資料がない中、俺はようやくここまで来た。

自分で繋いで、自分で得たものだ。


そして─────。



仮称・新天地アースガルド



今は水晶玉に封じた、俺が独自で研鑽した魔法だ。

所謂、仮想世界。

使用者の過去を参照に、何かしらの理想の夢を魔法の作用で創造出来るようになった。


友人の同意で実験したので立証済みだ。

だが準備段階の、しかもまだ1歩目だ。

始まってすらいない。

俺が目指す理想には届かない。


さあ、始めよう。

そうやって俺は水晶玉に手を出した。









──────この日、俺は運命の分岐点に遭遇する。

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