第二章一節"空と海の境界線"─4



■■■が良く出る場所に、小屋を建てることにした。

だが当然ながら、誰も手伝わない。

何やかんやで暴力による解決で、■■■の恩恵を受けるのを控えさせた輩のことなんて、どうせ独占しただの言ってるのだろう。



「・・・だからって、一人でやるのは私と変わらないじゃん。」

「仕方ないだろう、誰もやらないんだ。

自ら奉仕するおまえとは意味合いが違う。」



俺はひたすら木造で切ったりくっつけたりしていた。

彼女との会話も随分変わった。

彼女の喋り方に上品さが消し飛んできたし、俺は二人称が■■■に対して"君"から"おまえ"に変わった。



「私からしたら一人は一人なの!!!」

「いやだって」

「なんか私にもやらせて!!!!!」

「そうは言っても」

「いいもん!!!!!誰か治してくるもん!!!!!!」

「うるせええええええ!!分かったよ!トンカチを印つけた所に打ってろ!!」



名前を与えたからといって、彼女の悪癖がすぐに収まるはずもなく。

機嫌を損ねると直ぐに拗ねてごーいんぐまいうぇいである。

子供か。いやまぁ、世間知らずでたった一人で居たんだから子供みたいたもんか。

世間知らずさで言えば俺もそのはず。


だから俺は甘かった。



「いだあああああ!?」

「あ、馬鹿!」



誤って指を打ったらしい。

幸い腫れただけで済んだものの、子供みたいに泣き出した。


「ぅううう、どうせ私なんて治すことだけしかできないんだああああ。」

「ああもう拗れるな馬鹿!慣れてないだけだから練習したらいいだろ!とにかく今は家建てるところ眺めてバランス見てろ!」


何とも世話のやけるぽんこつっぷりか。

全くもって目が離せないじゃないか。

せめてもの役目を当てて、とりあえず落ち着かせることは出来た。



「・・・よく私をほっとかないよね、なんで?」

「俺にも分からん。もう感情で動いてるし。」

「ほっといていいよ、名前貰えただけで幸せだもん。」

「馬鹿、そういうから尚更ほっとかないんだ。」



こいつは魔性の女みたいな性質をもってる自覚はあるのか。

そんなふうに言われたら、コチラからすれば煽られてる気がして堪らない。

理屈抜きで対抗したくなるのだから、底の浅い500歳だな、と自覚する。



「・・・変なの。ミツザネは変だ。」

「なんだ、喧嘩売られたのか俺は。」

「なんで!変だから変って言っただけだもん!」

「なお悪いわ!」



関わってから一年が経過している。

その間に会話は随分遠慮がなくなった。

結果、彼女は中々の馬鹿であることがわかった。

いやもう、凄いぞ?

たまに左右どちらか、て話ですらバグる。


本来なら見捨てそうな話だが、絶対に俺は離れないし離してやるものか。

そんなこんなで一年の付き合いだ。

誰か褒めてくれ。

別に褒められたくてやったわけじゃないが。








数時間後、まだまだ完成には遠いがそれなりに進んだ。

とはいえ、そろそろ暗くなっていくいま作業は危険である。

よって、今日の作業はここで終わりである。



「・・・おつかれ、ミツザネ。」

「どうも。見張り、ありがと。」

「どういたしまして。」



ありがとう、という言葉に反応して嬉しそうに笑う。

その笑顔が俺はどうも癖になりつつあるらしい。

最近常に、その笑顔を何度も見たくなる。

可愛いんだぞ、こいつの笑顔。

喧しい、500年以上童貞なんじゃ。童貞ムーヴくらい許せよ。



「・・・ね、ミツザネ。」

「なに。」

「今日、名前呼んでくれてない。」



あ、という顔をする。

俺は恐る恐る、ブリキのようにぎこちなく彼女の方を見ると・・・



ああなんとも、頬を膨らませて不満げだった。

・・・すまん、可愛いんだわそれ。

怖くないんだわ。


違うそうじゃない。

ちょっとめんどくさいことになった。



「バツとして、納得するまで私の名前を呼ぶこと!」



なんてことを言うのか、新手の羞恥プレイか??

でも応えなきゃどうなるか、なんて分かっている。



「わかったよ!」

「ふふーん。」



おまえじゃ私に勝てないのだぁ、という顔が腹立つ。

そして、俺は結局その要求に応えてしまうわけで────。



「■■■」

「・・・・・。」

「■■■ー」

「・・・。」

「■■■ちゃーん」

「ちゃん付けやめろぉ!なんか恥ずかしい!」



ほほー、と悪い笑みを浮かべる俺に彼女は慌てる。



「うるさいなぁ!恥ずかしいんだよバカ!」

「何も言ってないじゃん。」



そう言って顔を隠す彼女だったが。

・・・隙間から嬉しげに笑っていたのを俺は見逃さず、そして黙っておいた。

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