第一章"誰かの為に"─9(終)


「決着、ですね。」

「ああ、そしてここまでだ。」


七色の恒星の果てを見届けた英雄は、自身の獲物を納めた。

最後の最後に奴が見せた満足そうな様子に不安が残るが・・・ともあれ、この場の危機は去ったのだろう。


それを証拠に、英雄の外殻からだは急速に輪郭を失いつつあった。

仮想世界の核を失うことによって、再現された者たちもまた、夢のように消えようとしている。


だがもう、俺はこの人と充分に語り合った。

想いも答えも伝わっている、だからこれ以上は無粋だと悟っている。


「ミーティア、だったな。彼を支えてやってくれ。見ての通り、優しい男だが、危うさもある。」

『勿論っ。僕もクウガを放すつもりはないですよ。』


会話は長く出来ないが、もうそれで充分だった。

そして最後に、俺たちふたりに向けて、夢に消える英雄は口を開く。


「俺が居た帝国をとは、とお前には頼めん。

ならば、ああ、そうだな。


────の笑顔を、よろしく頼む。」


「『はい。あなたも、またいつか。』」


未来の彼に繋がることさえないが、さようならと寂しく告げるのは俺は嫌だったから。

そう俺は返し、光の粒子になって、夢のように散っていった。


同時に、浮上していく意識。

夢の終わりは、俺たちにも含まれる。


そして、今回の出来事でそばに居てくれる誰かが居てくれる事実に、俺は泣きそうなくらいの幸せを噛み締めて────


「こんなに幸せで、いいのかな。」

『・・・馬鹿クウガ、なんてこと言うのさ馬鹿、ばーか。』


思わず呟いた言葉に、現実なら隣からつつかれてただろうなと思うような言動でミーティアは言う。


『クウガが幸せじゃないと、僕も幸せになれないだろ。

これからも放してやらないんだから、覚悟しててよ。』


不貞腐れたような声から、最後に聞こえる笑う声。

ああこれは、早く帰って笑顔が見たくなる。


俺が降参だ、と笑ったのを最後に、俺たちは現実へ帰投出来たのだった。








後日談あれから────。

結局俺たちが去った後、白辰に報告したころには、あの廃施設は跡形もなく爆破処理されていたせいで、情報の裏取りが出来なかったそうだ。

あの仮想世界に再現されたレイゴルトさんの事は、白辰への報告の際には伏せておいた。

うっかり何か口が滑って、英雄が生存している話に発展しては困るからだ。

かなりぼかして、全く知らない剣士が助けてくれたと。


どの道、白辰は情報の裏取りは出来ないわ、真の情報はないわで、かなりの骨折り損になったようだが、報酬はしっかり貰えた。


ただ、あれが人の記憶から現れた再現ならば、逆に言えば記憶に残るくらい元気にしていることが黒幕にはバレているということだ。


その事をピースさんに相談すると。


「恐らく向こう側も要らぬ世話は焼きたくないだろう。ならば大丈夫だよ、向こうもバラすにもバラせない。」


とのことだった。

安心は一応出来た。

といっても、向こう側の思考が正常ならば、という話だが。

恐らく、あの黒幕の様子を見る限りは大丈夫だろう。


ようやく肩の荷が降りた俺たちは、今回起きたを伝えたい人に伝えるべく、俺たちは走り出した。


解かれていない謎はまだある事を自覚し、次こそはと思いながら。








しかし、流星かれらは今回の舞台にはもう立てない。

何故なら、黒幕が相対すべき存在は他に居るのだから。

流星の価値と有用性を理解した黒幕は、もう流星たちに矛を交える気もない。

無駄なプライドに囚われ、再戦など愚の骨頂。

ありのままの事実を受け止めて、理想の絵図を築き上げていく。


新天地アースガルド創生の物語は間を空けて、しかし確実に訪れるだろう。










─────滄劉



とある海の近くにて、コメットは座り込んでいた。

何かあったとかじゃなくて、何か惹かれるように度々訪れる。

海にいる誰かと、陸にいる誰かが、簡単に触れ合える場所だ。


「ちゃんと休憩つってもなー・・・イグニスが仕事終わるまで時間かかるし、俺はどうしようかなぁ。」


そのコメットの呟きに呼応するように、誰かの足音が近づいてきた。


「先客がいたか。」


余りに堂々とした佇まいで、しかし敵意も悪意も感じない。フードを被り、顔はよく見えない。

だか、コメットは目の前の男を、ただの他人とは思えなかった。

だから、思わずに聞いてしまった。


「おまえ、誰だ・・・」

「俺か?俺は─────」










「そうだな・・・蒼空あおぞら 光実みつざねだ。」





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