第一章"誰かの為に"─4
信じられない観察眼で、直撃する牙や爪のみを見抜き、無駄なくそれらを断ち切り前へ前へと突き進む。
あんな捌き方は、クウガやミーティアが融合して向かい合っても出来るかどうか。
更に、追加で上空から狩り薙ぐような岩の巨腕も十文字に切断された。
まさしく慣れているかのように。大質量を苦もなくねじ伏せて、間合いを詰めるべく疾駆する。
衝突する光の刀と、悪魔の爪。
力に技、経験に執念。あらゆる全てを戦闘力としてぶつけ合う。
破壊者たちは火花を散らす。
殺意と殺意でこの場が破裂しそうだ。
「氷か
もうそんなものは見切っているッ!」
七本帯刀していようが、腕はあくまで二本きり。
近接戦において無双の実力はあっても、中距離以上から圧倒的な魔法の量と質量によって戦士にとって明確な弱点を突かれたことなど、何度もあった。
そして、その度に真っ向から切り抜けてきたのが
積み重ねた戦闘経験の密度が違う、質が違う。
たとえ
「俺が今まで、何体の怪物と殺しあってきたと思う・・・!」
成人になる前からあらゆる悪を踏破してきて、そして今なおそれが続いている経験値だけは、どう足掻いても敵わない。
単騎であらゆる悪事を葬り去って駆け抜けた男の歴史と研鑽は、たとえ16年前だとしても強大だ。
そして再現された英雄は、まさしく
幾らでも強くなる
だから、それが悪魔には嬉しくてたまらない。
切り結びながら、破滅の光に刻まれながら、歓喜によって心臓が踊り狂う。
宇宙の心理を愛するように、己の宿敵へ頷く。
「知っているさ、そんなことォ!」
お前が無敵の勇者だなんて、世界が誇るべき
「誰もが皆、知れば分かるだろうさ!お前の光は素晴らしい!
みんなが失くしちゃいけないものだ。本気で生きろと教えてくれたあの日の背中を覚えている!」
「それを愚かと言うのだ、馬鹿め。」
冷ややかに敵手の狂喜を斬り捨てながら、レイゴルトは獲物を振るった。
会話になってない返答はまさしく暴走のお手本だ。
喜びのうちに絶頂している
憧れの英雄から放たれる憎悪と、殺意と、敵意。
それを福音であるかのように受け止めて、強欲にまみれた突撃を幾度も繰り返す。
その度に、悪魔へ刻まれる数多の裂傷。
悪魔の命を確実に削ぎ落としていく。
無論、それに応じて
光の亡者らしく、苦境を精神力で超えようとするが、しかし今回は相手が悪い。
なにせ相手は
同じことを、ごく当然のようにやってくる。
ならば必然、先をどう足掻いても行かれていく。
鼬ごっこのように見える終わらない闘争のはずが、これまで
「ンなもん承知の上だろうがァァ!!」
関係ないし、どうでもいい。
だって今、求めた夢が叶っているのだ。
奇跡は此処に、此処に在る────!
願い、求め、掴み取った奇跡の一瞬。
ならばそれで充分だ。
愚痴や不満で濁らせるのは無駄だ。
夢だ
何かの間違いでも、この大望が叶うならどんな地獄だって理想郷だ。
「そうさ、今こそ────その背に魔剣を突き立てよう。
他でもない俺の手でッ、
悪魔の咆哮で、彼の周囲の大地は魔力によって波打ち流動する。
その様を見て、呆れ、嘆息し。
同時に、殲滅の火を身震いするほど覇気にして。
「離れていろ。どうせ碌なことをやらん。」
再び現れてしまった
「行くぜぇええッ!!」
悪魔から発せられる殺意は臨界点を突破する。
その瞬間、レイゴルトがいる地は大穴になる。
大地を操作し、地下へ地下へ、地中の奥底に向けて、赤い
「これはッ・・・!」
もはや悪魔にとって無機物は個体ではなく、硬質な流体である。
演算や魔力や技術が許す限りは思うがまま、そしてその穴を塞ぐように、無機物で描いた爪のある腕で上から押し潰せば最早脱出は叶わない。
「俺の黄金よ、光の射さぬ奈落にて眠る宝になるがいいッ!」
たったいま、レイゴルトはそれを受けている。
奈落へ落ちてゆく上から巨腕による圧殺。
全てが本気だ、更に大地の破片だって刃になれば、更なる地獄になる。
誰がどう考えても明らかなオーバーキルのソレだが、決して、そう決して、何があってもその手を緩めるつもりはない。
そんな無礼は有り得ない。
いや、だってそうだろう?
「屈辱か?じゃあやれよ!今だろう、まさに!
遠慮はいらねぇ、いつもの窮地だろう?どんな事でも為せば成る。だからそう────お前は必ず駆け上がる!」
そう、この世の誰よりも信じている。
「英雄に、限界なんてないだろォオ!!」
だからこそ────
「そんな輩に、いったい何の意味がある。」
馬鹿げて狂った盲信を、英雄が認めるつもりは微塵もない。
「限界を壊してしまう破綻者に、何の価値があるという。」
男の盲信を否定した英雄は、内から赤い大地を斬り飛ばした。
片手に三本ずつ、計六本をその両手に。
奈落に迫る爪は、英雄の
更に六爪は再び鞘に収め、残る一刀で放つのは神速の居合。
悪魔の腹部は深く切り裂かれ、臓物を撒き散らす────はずだった。
「ご、ふッ────ヒヒッ
ああ、突破するよなァ────だったらァ!!」
自身が操る無機物の小さな刃を切り裂いた部分に飛ばして、無理やり縫い付ける。
血だけを撒き散らし、しかし臓腑は零れないままに、軽やかに戦闘を続行する。
その余りに馬鹿らしい暴力的な戦闘続行を、英雄は読んでいた。
自分を相手にしているようなものだ、自分ほどの馬鹿ならばやりかねない。
だからその後の猛攻も、いつものように英雄は対応する。
「つれない事を言うなよ、英雄譚の何が悪い!」
「民の笑顔がそこになければ、悪いに決まっているだろう。
例外は例外だ、基準にしていいはずがない。」
同じ破綻者なのだから、どんな怒涛でも迷わないし動じない。
当たれば死ぬなんて窮地も慣れたことだ。
怯む理由など何処にも無い。
「誰もが限界を超えて、現実を踏破できるように?阿呆か、貴様。」
遂に、悪魔の爪を切り裂いて、顔面に蹴りを叩き込む。
「我々のような狂人だらけの世界で、いったい誰が荒野に花を咲かせるのだ?
他者を愛し、弱さを許し、絆を紡いでいくという?
子を慈しみ、優しさを次代へ伝える素晴らしさを語り継げるという?
────答えてみろ。」
顔面に蹴りを打たれていながらも、悪魔は無機物を操って剣の雨を振らせてくる。
「告白しよう、俺には無理だ。とても出来ることではない。」
それに対し、刀を持つ手に力を滾らせて。
「素晴らしいと、尊いと、感じているのに、このザマだ。
そんなことさえ、出来ないのだよ。我らのような大馬鹿者は。」
そして刀から放たれる絶滅光。
剣の雨はそのなぎ払いで消し炭となった。
「そうかもなァ!だから何だ?とにかく一回試そうぜ!
仮に問題が起きたなら、その都度修正すりゃいいさ。反省してやり直そうや、当たり前のことじゃねぇか!」
「だからこそ、貴様は死ねと言っている。」
嵐の攻防の中で、あまりに噛み合わない言葉が交差していく。
「一度の失敗で消え失せたものはどうする?失くしては取り戻せない輝きに、少しは遠慮してみせろ。」
「くはっ、クハハハ!おいおい、お前がそれを言っていいのか?それこそ、どのツラ下げてってやつじゃねぇか!」
決して交わらない主張と共に殺意の衝突で、彼らは限界を超えていく。
それはもう、御伽噺の英雄譚のような。
「そうだとも、ゆえに俺は塵屑なのだ。
悪の滅びを願う男が、まともであると思ったか?
馬鹿を言え、俺はこの世の誰よりも、"
そんな吐き捨てる憤怒さえ、自身の覇気の起爆剤。
心ひとつ、気合いひとつ。
繰り返し精神力を燃料に、輝き、英雄を高みへ押し上げていく。
一撃を重ねる毎に、何かを滅ぼすことだけが巧くなる。
「呪わしい」
なんて、歪な
心と身体を動かすのは、常に燃えるような
「まったくもって救われん・・・!」
連鎖的にこんな
己が不明と業の深さを、誰より自覚し、恥じている。
ああ、ならば────。
「ならばせめて、俺と同じ破綻者はあの世へ送っておくべきだろう。
来るがいい、
苦悶の嘆きを撒き散らしながら、地獄の底まで堕ちるがいいッ!」
「それでこそォオオ!!」
死刑宣告と同時に、悪魔からは再びあまりに巨大な
対し、レイゴルトは神速の居合を連撃で対応する。
お互い最早周りを見ることは叶わない、こんな、こんな闘争は。
巻き込まれる周りが何よりも、不幸になる。
だからこそ、いまこれを目にしているクウガは言葉に出来ない。
ただ、自覚をする。
力強い光だけが、誰かを笑顔に変えるものではない。
誰かと手を携えるその意味を、少年は突きつけられたような気がした。
それを置き去りに続いた闘争は、ようやく終わりを迎え始めた。
「────ぐぉ、ァ、はっ、ハハハッ!」
英雄による斬撃による傷は、より深いモノになってくる。
明確な優劣はいま、完全な形になって見えてきた。
破綻者の描く光と光、最後に決まるのは単純に強いか弱いかだ。
どんな理屈を捏ねていても、結局は心·技·体をより鍛え抜いていた英雄に軍配が上がっただけのこと。
結局はただの戦闘者でしかない
「・・・まだ、まだァァ!」
「いや、もう終わりだ。貴様の滅びは見えている。」
現実はあまりに無情だった。
挑戦者はあと一歩が絶対的に届かない。
どれだけ駆け上がっても、英雄はその上に必ず輝いている。
「ふ、くはっ」
その様があまりに、そうあまりに眩しかったものだから。
愚かな男の目を覚ました、あの日のままなものだから。
「すげえなぁ、本当に。」
ついに神速の連撃は四肢を切断し、断ち切られた
無様に地を転がって、血飛沫を撒き散らしていても胸の中では、これ以上ないほど穏やかで。
完全に敵わない事実以上に、喜びが勝る。
この男はやはり、無敵の勇者だったことに、溢れる感謝が止まらない。
会えてよかった、心底そう思う。
敗北は残念だが、全てを出し切った。
これが仮初の世界だとしても、追い求めた聖戦を果たせた。
ならば後の欲求は無粋だろう。
全力をぶつけ合って、その上で散るというならば悔いはなし。
そう納得して、己が末路を迎えるべく視線を見上げると・・・。
そこには夢に何度も描いた、並ぶ者なき英雄が威風堂々と立っていたものだから。
「ああ、そうさ・・・だから最期は───」
光の刀を振りかぶり、討つべき悪を見下ろす男からの慈悲はなく。
「────
さあ、来てくれと感涙しながら告げた瞬間、破滅の光輝が堕ちてきた。
放たれたのは、万象焼き尽くす天霆。
地獄に轟く断末魔────邪悪な魔性は露と散り、英雄譚が輝いた。
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