第一章"誰かの為に"─2
「
現在の仮想空間を破棄する。
「な─────!?」
あの英雄を見た直後、魔力を喰い始めた時に聞こえた無機質な声を、再び耳にした。
その瞬間、崩壊が始まる。
まるで陶芸家が失敗作を躊躇なく叩き壊すかのように。
あまりにもあっさりと、この地獄の仮想世界から俺は解放されていく。
確かにこの地獄から俺は抜け出せるのだろう。
だが、だからと言って────納得するはずがない。
何の抵抗も許されずに放り込まれ、しかし助けがあった瞬間投げ出される。
まだ何も分かってない、翻弄されるだけされていたんだ。
それでも、今の重力が向かう場所は
手を伸ばす、だが無情にもあの人は虚空に取り残されてゆく。
「待ってください、待って────レイゴルトさんッ!」
どうして仮想世界の中に俺の知らない時代の貴方がいる?そして何故、俺を助けた?何より自我があるんだ?
「答えてくれッ!」
伸ばした手の先が、闇を突き破る。
そして───────
「ひゃあああ!?」
ああ、そして─────
そし、て──────
・・・・・
何か、柔らかい感触。
耳をくすぐる慌てた悲鳴。
感触はともかく、声は間違えようもない。
ミーティアですよ、はい分かっております。
決して大きくはないが、いやでも二年前に間違って触ってしまった時より成長している・・・?
「く、くくく、くうが!?あの、そこは、その──────」
「・・・・・・・・・・・・。」
あ、はい。ごめんなさい。
なんかもう、マジですみません。
勘違いさせてすみません、何故かこうなるんです。
軽率にこうなっちゃうお馬鹿さんを許してください。
お願いします、腹を切らせて。
確かに君は可愛くて時々格好よくて最高の女性でありこんな俺はもったいないこの世のすべてに勝る宝物だと思ってるから実は前々から特別な贈り物を用意する貯金をしていたりするわけでして。
情けない男の甲斐性と言いますか最速で来年には籍を入れることを考えるとマイホームという夢もあるならもっと貯金が必要なわけで何処で過ごすとかまだ早いかもしれないが新しい家族を迎えるときの為にどうしよっかと考えたり────まあ、その前にだ。
ほら、後ろ見てくれよ。
「あー、あっはははは・・・・・。」
この雰囲気に気まずそうに曖昧に笑う
いつの間にいたんだ、どうしてここに、とか。
言える雰囲気じゃないよ。
何よりチラチラと恥ずかしげに、しかし嫌そうにしないミーティアからの視線も痛い。
俺がすっかり頭が回りまくってる間に身体が動かず今でも触ったままの自分がなにより恨めしい。
なんか呼吸するだけで、彼女からの匂いを余計に敏感に感じ取ってしまうばかりでもう、俺のような朴念仁の身でこれ以上、耐えられるはずがなく─────
「────ぐっない。」
ぷつん、と糸が切れたように俺は白目をむいて再び後ろに倒れた。
ああ、本当に、目が覚めたらこの
泣きたい。
・・・とまあ、
時間が経てば人間、冷静になるものである。
いつもの
それはそれで悲しいが、うん、今は忘れよう。
「心配かけさせちゃったな、ありがとう2人とも。」
ベッドから身体を起こして感謝を伝える。
不可抗力とはいえ、要らぬ世話をかけてしまった。
「にしても、三日も寝てたなんて・・・」
確かに体の節々に違和感がある。
少しくらい後で歩くべきかな。
「というか、物凄く怖かったからね!?
僕だけ置いていかれたし・・・」
「で、ミーティアは僕がバイトしてる林檎さんの店に尋ねてきたわけだよ。
僕たちはまた現場に来て、何故か戻っていた君を
再び涙目になるミーティアに代わり、途中からはレオが俺の意識が戻らない間のことを話してくれた。
となると─────
「俺たちが受けた調査の話はどうなるんだろう。」
「それなら、僕からホルストさん達に話したよ。あとは白辰の中心になってる人達が対処するって。仕事としては、完了ってことかな。」
そうだったんだ、と小さな声で言う。
謎が深まるばかりだからモヤモヤするが、もう手出しをする必要は無かったということだ。
とはいえ─────。
「俺が見た光景は伝えなくていいのかな。」
「確かに気になるね、僕にも聞かせてくれないかい?」
レオの質問に、モチロンと答える。
ミーティアも当然、食い入るように聞く体勢になる。
なので、ありのまま話した。
あの人工魔族に狙われたこと。
感情のない、かつての天候を操る白い異型に狙われたこと。
そして、帝国時代と思われるレイゴルトさんのお陰で助かったこと。
「・・・なんか、こう。運命に愛されてるよね、君は。」
「やめてくれよ、泣きたくなってくる。」
「僕が死にかけたら、まさかの次はクウガだもんなぁ・・・。」
「やめて!?」
それでも生きていくんです!
なので今は抉らないで。
「とにかく、まとめよう。」
話を切り替えるべく、俺がそう言うと二人の顔が引き締まる。
巫山戯すぎないでいてくれるのは本当に助かる。
「多分、今回の事件は作為的に引き起こされたんだろう。
少なくとも、俺たちの知らない黒幕がいる。
仮想世界を作り出すようなヤツなんだろう、てことは分かるんだけど・・・。」
「かなり機械的だよね。聞いた言葉といい、行動といい。
で、実際クウガを追い詰めたはいいものの─────」
「想定外の助太刀が入ったことで、達成不可能と判断。粘ることも無く早々に現実に放り出したわけか・・・。」
恐らくは、帝国時代のレイゴルトさん。
あの天候を操る男と同様に、レイゴルトさんも俺の記憶から再現されたというならおかしな点がある。
俺は帝国時代のレイゴルトさんを知らない。
今となっては16年前の話なのだから。
俺やミーティアが産まれた年の話なんか覚えているはずがないのだ。
「・・・それに明確に自我があった。これも変だ。」
俺のこの一言に二人とも頷いた。
あの天候を操る男とレイゴルトさんの自我の違いがどのようにして起きたのか理解出来ない。
ただ、まぁ・・・
「あの人なら気合い一つで自我の有無を超えそうだよな・・・。」
「「やめて、否定出来ない。」」
俺の遠い目をしながら言った内容に、二人はそう真顔で言った。
いやほら、あの人だし・・・。
さて、話がズレてしまったから少し話を戻そう。
あの仮想世界に発生させた人工魔族についてだ。
「とりあえず、周囲の人とか、白辰の人とか、知ってる限り聞いていこう。
今はまだ、分からないことだらけだ。
ミーティア、レオ、依頼とは関係ないけど、協力してくれ。」
「任せろっ。置いてけぼりにされたぶん、頑張るよ。」
「ああ、勿論。」
俺たちは頷き、行動を開始する。
力強い仲間は、やはりいつだって心強かった。
【なるほど、社会的だ。人間として優れている。
であればいっそ─────】
無機質に独り語り、何か起こそうとする人工魔族。
だが、やはり、しかし。
目の前にかの英雄が妨害に入り、人工魔族は撤退を余儀なくされる。
【心底、邪魔だな────
人工魔族が消えた先を、英雄はただ見つめた。
此処は作り直された、戦火に飲まれた場所。
またしても、戦場を再現された場所にいた。
「俺には似合いの修羅道だな。」
再現される有象無象。
軍人時代の敵、或いは暴徒となった民。
現実ではないそれを、なにより現実にいる英雄を帰す為に、刃を振るう男に容赦や慈悲は欠片もなかった。
自分自身の愚かさを、決意を、業を、呪わしさを。
深く痛感したがため、手を抜くことなど有り得ない。
クウガ=スタールックに対して飲み込むはずだった次なる
倒壊寸前の建造物、焼ける歩道の破片。
交戦していた仮想の敵に、もはや生存者は皆無だった。
幾百の斬撃に断たれた今、幾千もいた襲撃者らは、数万に達する膨大な肉塊と骸の山に成り果てている。
そして死屍累々となった戦場に居たはずの襲撃者たちは、闘争の残り香ごと夢のように消滅していった。
残りは
再現された大虐殺の場に続き、第二派の
「15年か。世界に住まう人々、兵隊の進歩も、変わらないようで充分に変化はあったらしい。」
何者かによって再現されたレイゴルト。
レイゴルトはその再現をした存在の記憶を見る事が叶っている。
そこで見た人々と、何より自分自身の変化にも驚いた。
だがいい事ばかりとは限らない。
技術の進化という名目で、非人道的な行いをする者たちはいまなお蔓延っている。
更に、後に"鉤爪"と呼ばれた狂ってしまったかつての友の末路、その過程で産まれた犠牲者。
今の自分の知らない、存在した従妹。
どれもが己が関わった負の遺産であり、己自身に義憤の炎を燃え上がらせた。
事前に、どうして手を打たなかったのだ、と。
「少なくとも、今の俺が叶うならば。
その罪は俺が斬り捨てるべきだろう。」
その言葉に呼応するように、歓喜と共にこの場所に姿を現した男。
「ああ、ああ、やっぱりお前は何も変わらないんだな。我が麗しの
結論から言えば、それはクウガを白い渦に連れ込んだ男であり、帝国時代のレイゴルトを再現した原因となった男である。
名を─────
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