第13話
私が恭の布団を押し入れにねじ入れるのに一苦労しているとリビングから楽しそうな笑い声が重なって聞こえてきた。
私は急いで布団をしまうとリビングへ向かった。
リビングのドアを開けようとすると結菜さんが出てきて手で大きなバツのマークを作ってみせる。
「あの……」
「結月ちゃんのリビングの出入りを禁止していまーす」
「はい……?」
「とにかくだめなの。お姉さんの言うことは絶対!洗濯物でも干してもらおうかな」
なんだか使われている気がするが家に泊めてもらっているのだから当然と言えば当然だ。
仕方なく浴室に置いてある大きな洗濯機の蓋を開ける。
一枚のタオルを取り出すと少し湿ってはいたが
「そっか。2035年では乾燥機も洗濯機についてるのか」
2020年では乾燥機がついている洗濯機は珍しかったけど2035年では当たり前なんだな。
本当に色々なことが進化していて驚いてしまう。
2035年は割と近未来なのにここまでの発展は大きい。
日本の政治家がなんとかしたのか?いいや。2020年の政治家がぐうたらなのにたった十五年で聢とするわけがない。
そうやって自問自答しながら洗濯機から全ての洗濯物を取り出し、畳み終えた。
結菜さんから指定された場所にそれぞれの洗濯物をしまっていく。
「よし!」
全部しまい終えた頃に結菜さんが私の前に来て豪快に笑いながら言った。
「ご苦労さん!ということで、ピクニックに出発ー!」
片手に食事が入ったバスケットを持って結菜さんは玄関の方に歩き出す。
その後ろに恭がくっついていた。
私は自分の手鏡をリビングの机に置き忘れていたことに気がついたので結菜さんに聞いた。
「あの、結菜さん。リビングはもう入っていいんですか?」
結菜さんはああ、と思い出したように頷いた。
「入ってよぉし!」
私は急いで机の上に置かれていた小さな手鏡をジーンズのポケットに入れると玄関を出た。
時刻は既に午前十時を過ぎていた。
「ふほぉー!気持ちいぃー!」
結菜さんが伸びをしてそう言う。
「綺麗……」
私がそう呟くと結菜さんは満足そうに頷いた。
「でしょ?私の秘密基地!」
「秘密基地っすか!それ、いいっすね」
恭まで賛同していてなんだか小学生の会話に参加しているみたいだった。
結菜さんのとっておきの場所とは山頂だった。
そこまで高くはないが、街全体を見渡せるほどの高さではある。
山頂には大きな一本の木が生えていて春は桜、夏は瑞々しい緑の葉っぱ、秋は紅葉、冬は雪景色を楽しめるみたいだった。
実際私の背後にある木はたくさんの緑の葉を茂らせていた。
山頂には人影はなく、私たちだけみたいだった。
「はーい、広げるからどいてどいてー」
結菜さんが大きなピクニックシートを芝生の上に広げる。
「なんかでかいっすね」
恭がそう呟くと結菜さんはそうだよ、と言うふうに笑った。
「ピクニックだもん。大きくなきゃ」
白地に赤チェックの入ったシンプルなシートだった。
そこに三人で靴を脱いで座り、早速昼食を取ることにした。
結菜さんがバスケットを開けると恭と私の声が重なった。
「美味そうー」「美味しそうー」
「でしょ?」
結菜さんが目を輝かせながらそう言う。
取り皿を私たちの前に並べ、結菜さんは手を広げた。
「さぁ、自由に食べちゃって!」
大して高くない山ではあったが、意外と疲労が溜まっていたのか私たちは意気軒昂に次々と食べ物を口に運んでいった。
沢山の食べ物の中には私と結菜さんとの共同制作の『わんぱくサンド』もあった。
その中でも一際私の目を引いたサンドイッチがあった。
「これ……」
私がそれを手に取って一人呟くと結菜さんが微笑みながらこう言った。
「それね、恭くんが作ってくれたの。結月ちゃんはいちごが好きだからって。いちごサンド!」
「それ、言わなくていいって言ったじゃないですか!」
恭が慌てて結菜さんの口を塞ごうとするが、後の祭りになっていた。
「へぇ。恭が作ったんだ。それにしてもよく作る気になったね。恭はとにかく不器用なくせに」
「はぁ!?俺だってやる時にはやるよ!」
「はいはい。二人とも喧嘩しないの」
小学生のように言い合いをしている二人の間に結菜さんが割って入る。
「結月ちゃん、食べてみてあげなよ。せっかく作ってくれたんだし」
所々ホイップクリームが溢れていていちごも無造作に詰め込まれていて決して見栄えがいいとはお世辞にも言えなかった。
私が少し躊躇いながらもそれを口に運ぶ。
「美味しい……」
見栄えは良くなくても味は満点だった。
「恭もやればできるんじゃん」
私がサンドイッチを頬張りながら言うと結菜さんが大きく頷く。
「そりゃ、そうよぉ!なんたって恭くんの恋の魔……ふがふが」
結菜さんの口を恭が両手で塞いで苦笑いしている。
「二人とも何がしたいの……?」
私がそう苦笑混じりに呟いた言葉に結菜さんと恭が顔を見合わせて笑っていた。
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