第12話
美代子さんの家から少し離れたところで立ち止まる。
先程の話が妙にしこりが残ってしょうがないのだ。
——「あの方、去年、過去からワープした子を預かっているって言い張ってるらしいのよね……」
結菜さんは私たち以外に過去からワープした人のことを知っている?
そうしたら以前に結菜さんが言っていたことにも納得がいく。
——「もし、名前を聞かれたら私の名字を名乗りなさい。私って人気者だからこの辺の人には名前が知れ渡ってるのよ」
あの時、結菜さんの人気者の理由が分からなかった。編集者で別にモデルや女優みたいな大して華やかな仕事をしているわけでもないし、結菜さんの人柄からしてそんな偉大な人だとも思わない。
では、何故結菜さんが人気者なのか。
美代子さんから聞いた話と結菜さんの言動を纏めると、一つの答えに辿り着く。
結菜さんは私たちの他に過去からワープした人を預かったことがあり、それを近所の人に言い回っているから変人という意味で人気者なのだ。
そういえば、ワープした直後にも意味深長なことを言っていたような……。
—— 「なぁんかややこしいね。結月ちゃん達のワープは特に」
あの時、おかしいな、とは思ったのだがすぐに忘れてしまっていた。
そこまで推理したところでポケットに入れてあるスマホが振動しているのに気がついた。
スマホの画面を見ると結菜さんからの電話であった。
後で確認したところ、あれは五回目のコールだった。
「もしもし」
「結月ちゃん!?よかったぁ。無事だったのね。今どこ?」
結菜さんが心の底から心配していたみたいで大きなため息と共に早口で捲し立てる。
「今ですか?えーっと……。沢山の木があります」
私がそんな珍回答をすると結菜さんは少し怒ったような口調で言った。
「もう!結月ちゃん!こんなに私が心配してるのにそんな変な回答しないで!全く……。多分家はもうすぐよ。早く帰ってきてね」
そこで一方的に電話は切られた。
「だって、分からないんだもん」
そう結菜さんから変な回答、と言われたことに対して一人で呟きながら道を歩く。
やがて大きな欅の木が見えた。
「もうすぐだっ」
全く重くない、いちごが入っているスーパーの袋をもう一回手で持ち直すと家を目指してひたすら歩いた。
玄関に着き、インターホンを鳴らす。
鳥の
2035年ではこんなインターホンの音が流行っているのか。
「はーい」
中からぱたぱた、とスリッパの音がし、ドアが開き、結菜さんが顔を出した。
突然、結菜さんは私を体ごときつく抱きしめた。
「よかった。本当によかった。すっごく心配してたんだよ?どこで道草食ってたの?」
結菜さんが必死な形相で私に向かって詰め寄ってくる。
「えっと、美代子……じゃなくてお婆ちゃんの手助けをしていました」
美代子さん、と言っても結菜さんには分からないだろうと思い、お婆ちゃんと言い直す。
「そう……。でも、手助けするにしたってちょっと遅くない?」
結菜さんは納得した様子を見せず、まだ私から聞き出そうとする。
「えっとですね……。お婆ちゃんの家に上がらせてもらってお茶をいただいてお話しして帰ってきました」
まるで任務報告みたいな感じになってしまった。
「家に……上がった?」
「はい」
私がなんでもなさそうな顔をしながら頷くと結菜さんが怒気を込めて私を叱責した。
「だめじゃない!知らない人の家に上がっちゃだめ!小さい頃にお母さんに教わったでしょ!?本当に心配したんだから」
私は一瞬怯んだが、すぐに表情を作り替え、肩を落としながら頭を下げる。
「すみませんでした。今度から気をつけます」
まるで教師に向かって言っているみたいで嫌になった。
「分かったならよろしい」
結菜さんも教師みたいな返答でますます嫌になる。
「恭くんも起きてるから。いちご、貸して。結月ちゃんは部屋の布団を押し入れに入れるの、やっておいてくれるかな?」
結菜さんはスーパーの袋を受け取りながらそう言う。
「あ、はい。料理の方は大丈夫ですか?」
私がそう尋ねると結菜さんは大きく頷いた。
「大丈夫ー!さあさあ、中に入って。暑いでしょ」
私は靴を脱ぎ、布団をたたみに私たちが寝ている部屋まで直進した。
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