第4話
女性は道中、色々な話をしてくれた。
特に私たちのことを深掘りせず、自分の名前や年齢、仕事のことなどを話していた。
因みにこの女性の名前は
あのビルから少し歩いた先に結菜さんの家はあった。
小ぶりな一軒家で、でも綺麗にお手入れされていることが外見から伝わってきた。
「月原」と書かれた表札を通り過ぎ、門を開けて玄関の鍵を開けた。
「汚いけどごめんね」
結菜さんは申し訳なさそうに謝りながらドアを開ける。
清潔そうな玄関が目に入り、奥にリビングや寝室などがあるらしかった。
「お邪魔します」
私たちは靴を脱いで結菜さんが案内してくれたリビングに足を踏み入れる。
蛍光灯がついた部屋は明るくて今が夜だということを忘れてしまいそうなくらいだった。
リビングには大きなソファセットや四人がけのテーブル、テレビなどが置かれていた。
どこを見渡しても汚い所はなかった。
私はテレビを見て少し不思議に思った。
私たちの家にあるテレビより薄い……。
薄いだけではなく、サイズも大きかった。
現にアメリカなどでこの薄さのテレビが開発されているらしいが、まだ日本までには出回っていなかった。
恭を見ると革張りのソファに座って広いオープンキッチンでお茶を入れている結菜さんと話していた。
「結菜さんはここ、一人暮らしなんすか?」
「ええ。そうよ。田舎の実家からだと仕事場に遠いから前に叔父さんが住んでいた一軒家をお借りしているの」
ティーセットをソファセットに持っていきながら結菜さんは話す。
結菜さんはソファに座ってテレビをつけた。
テレビをつけたのはいいが、もう一つ驚くことがあった。
結菜さんはバッグからスマホ(私たちが使っているものよりも一回り大きく、軽そうな)を取り出してそれでテレビの電源をつけたのだ。
私たちはテレビをリモコンでつけているので結菜さんの行動に驚かされた。
恭はそんなことは気にも留めない様子でテレビに見入っている。
でも、正確には恭の視線はテレビではなく、テレビの横に置いてある卓上カレンダーに行っていた。
「あの……。結菜さん。あのカレンダーおかしくないっすか?」
恭が躊躇いがちに結菜さんに問う。
「え……?」
結菜さんはテレビの音を小さくして立ち上がり、卓上カレンダーを手に戻ってきた。
「どこが?」
「え。だって今日は四月一日のはずなのに……。なんで五月なんすか?」
「ほんとだ……」
私も恭に言われて初めて気がついた。
カレンダーのページには五月、Mayと書かれてあった。
「四月?もうとっくに過ぎたわよ。今は五月二十八日金曜日」
結菜さんの顔は嘘をついているようには見えなかった。
でも、私たちの頭の中には沢山の疑問符が漂っていた。
おかしい……。なにかが引っかかる。
まるで未来にワープしてきたみたいな……。
私は突然大きな声を出して結菜さんに聞いていた。
「あのっ!今は何年ですかっ?」
恭も結菜さんも私の大声にびっくりして目を
「今は2035年よ」
「え……?」「は……?」
私たちの声が重なる。
「えっと……。冗談すか?」
恭が薄笑いを浮かべながら言う。
「冗談?冗談でこんなこと言わないでしょ。カレンダーだって2035年になってるじゃない」
結菜さんが手元に置いてあるカレンダーを見せながら言う。
確かにカレンダーの上側には2035と記されてあるが、私たちは納得がいかなかった。
いくはずもない。
「だって……。だって私たち、2020年に生きてるんですけど……。今は2020年ですよ……」
私が気弱そうな声を出すと結菜さんは真顔になりながら、深妙そうな顔つきで呟いた。
「つまり未来にワープしたのか……」
「え」
恭が小さく声を上げる。
「結構よくある話なのよ。あなたたちはあのビルが建つ前のマンションに住んでいたのよね?」
「あ、そうです」
恭が戸惑いながらも相槌を打つ。
「何年か前に壊されたマンションはね、なんか不思議な階があったらしくて……。うーん……。もう!こんなややこしいお話はおしまい!とにかくあなたたちは十五年後の未来に来ちゃったんだから元の時代に戻る方法を探さなきゃね」
結菜さんはもう殆ど飲み終わったカップをキッチンに持っていきながら、「お腹空いてるでしょ?私簡単なものなら作れるから作ってあげる」
と言い、キッチンで食器などを出す音をさせていた。
「未来……か」
恭がぽつり、と呟く。
「本当に未来なんだね……」
私は未だ信じられない気持ちで恭に言う。
私たちはお互い暫く黙ってテレビを見ていたが、結菜さんの「ご飯できたよー」と言う声に我に帰り、食卓に向かった。
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