第3話
「お、おい。これってどういうことだ?」
恭が動揺を隠しきれない声で私に聞く。
「だよね。何もないね」
私が戸惑いながら頷くと恭は首を大きく横に振った。
「ちげぇよ。これだよ」
恭が指さした先は大きなガラス張りの窓の外だった。
思えばこの部屋一面に大きな窓がある。
私は恭の立っている位置に近づき、窓の外を見る。
いい眺め……ではなかった。
「な、え……?」
「ここは二十六階のはずだろ?一番最上階なんだぜ?なのに景色は一階と同じじゃないか」
そう、ここはこのマンションの二十六階だ。
なのに私が見ている景色は一階のように目に映るもの全てが低かった。
「どういうこと……?」
私は立っていられず、その場に座り込む。
恭は一旦窓から離れ、エレベーターの下の矢印が書いてあるボタンを押す。
でも……。
エレベーターは一向に動く気配を見せず、二十四階で止まったままだった。
きっと私たちが乗った後に誰かが使ったのだろう。
「やべぇな。これ」
恭も流石に焦ったような口調で言った。
「もう!だから来たくなかったのに!」
私は恐怖と不安で胸が押し潰されそうになる中、声を吐き出す。
「あ……。あそこにドアがあるぞ」
恭が私の非難の声から逃れるように話を逸らした。
そこには奥まった場所にぽつん、と申し訳程度に設置されているようなドアがあった。
「行ってみようぜ。もしかしたら外に出られるかもしれない」
恭がドアに向かって歩き出す。
私もなんとか足を懸命に動かして恭の後について行った。
恭がドアをゆっくりとした動作で開ける。
私は恭の背中の後ろから顔を少し覗かせてドアの向こうをおそるおそる見た。
ギギッと使い古されたような音と共にドアが半分開いた。
「開いた……」
恭はドアを思いっきり開けた。
すると私たちの目に飛び込んだ光景は現在、ではなかった。
そして私たちの見慣れた街でもなかった。
「ここ、どこ……?」
私は驚きを隠せず、恭に聞く。
けれど恭は首を力なく横に振るだけで何も答えなかった。
一番違和感を感じたのは目に映った光景が黒一色だったこと。
つまり、夜だったのだ。
私たちは午前中で学校が終わり、昼頃に帰ってきて昼食を食べ、そこから一時間も経っていないはずだった。
「なんで……?」
私は声を絞り出す。
それに目の前を走っている車も尋常ではなかった。
私や恭が使っているような車ではない、もっと変な形をしている車が前についているライトをつけて走行していた。
一見、使いやすそうに見える。
「俺たち、ヤバいところに来ちゃったかもな……」
恭がぽつり、と呟いた。
私は深妙な雰囲気を保つ恭に不安が募る。
「私たちどうなっちゃうの……?」
「分かんねーよ。俺だって」
最後の語尾を小さくして恭は遠くの方を見やる。
その寂しそうな横顔に私は少なからず、自分の失言を反省した。
恭だって不安なはずだ。
不安なのは私だけじゃない。
結構な時間、私たちはじっとその場に立っていた。
夜だからか歩道を歩いている人も少なく、辺りはひっそりとしていた。
車が夜道を走る音だけが響く。
すると横から突然声をかけられた。
中学になり、突然声変わりした恭ではない、女の人の声だった。
「あなたたち、大丈夫?どうしたの?」
二人で横を向くと心配そうな顔をした女性が立っていた。
仕事帰りなのか黒のスーツとスカートを履いている。
「えっと……」
口籠る私を恭がフォローしてくれた。
「俺たち、なんかこのマンション……あれ?」
恭がマンションを指さそうと後ろを向いた時、驚きの声を上げた。
「なんで……?」
恭の声に不思議に思って後ろを向くと私たちが住んでいたマンションは高いビルになっていた。
マンションの影も形もなく、大きなタワービルが高く真っ直ぐに空に向かって
私たちは口をぽかーん、と開けるしかなかった。
「どうしたの?」
女性が私たちの向いている方向を見ながら尋ねてきた。
「あの……、ここってマンションじゃ……?」
恭が震える声でそう言うと女性はああ、と頷きながら話してくれた。
「何年か前まではね、ここもマンションだったんだけど何故か住む人が居なくなってそれでビルに建て替えたのよ。随分前の話だけどね」
「え……」
女性は背後を見て少し焦ったような声を出した。
「やだ。警察がいるわ。あなたたち、まだ学生でしょう?補導されちゃうわ。詳しい話は後で聞くから、とりあえず私の家に行きましょう」
女性は優しい笑みを浮かべて先を歩いて行った。
「ついっていって大丈夫かな……?」
私が不安の色を滲ませた声で聞くと恭はため息混じりにこう言った。
「仕方ないだろ。他に行く宛もないんだぜ。このお姉さんを信じて行くしかないだろ」
恭は大きな
私も慌てて恭の後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます