第15話「束の間の平和 ⑤」

 金銭の取引をしているように見えなかったのが、アサギの脳裏に疑問を浮かばせたのだろう。その様子を見ていたレキは、小首を傾げながら目を細める。


 「アサギは何を言ってるの?」

 「いやいや、ユートはそれを買うんだよね?んで、レキはそれを売るんだよね?だったら、お金を取引とかあるんじゃないの?普通さ」

 「お金のやり取りをしてるのは、アンダーグラウンドでは極一部。ほとんどが等価交換だったり、物々交換で取引してる。取引条件によっては、お金のやり取りはあるけども……ユートとレキはそんなの必要としてない」


 そう言いながらレキは、ニヤリと笑みを浮かべてユートの腕へと絡み着いた。その瞬間、ハッとしたアサギはレキとは逆の方の腕を抱き締める。


 「何で抱き着く必要があんのよ!!どさくさに紛れてユートを誘惑すんな」

 「アサギは細かい。細かい事を言う人は嫌われるって、アサギは知らない。知らず知らずに嫌われて、そしてアサギは一人になるんだね。ふふ、可哀想」

 「喧嘩売ってるよね!?確実に喧嘩売ってるって事で良いんだよね!?」


 ユートの両腕を抱き締めたまま、口論をし始めるアサギとレキ。そんな二人の間に挟まれる状態で、ユートは溜息混じりに肩を竦めて二人に言うのであった。


 「いい加減にしろ。そんな口論するなら、勝負で決着を付けたらどうだ?」

 「「……!」」


 ユートの発言を聞いた途端、ピクッと反応を見せた二人はユートの腕から離れる。そして向かい合う形となり、互いに笑みを浮かべた状態で火花を散らし始める。


 「そうだね。この際ハッキリさせるのも悪くないかもね」

 「ん、ユートの許可が降りたのなら手加減する必要もない」

 「あたしに方が強いって事を分からせてあげるよ、レキ」

 「やる前から大口を叩かない方が良い。そういう人は大体負けるから」


 くだらない口論を聞くのが面倒になったユートの提案だったのだが、思ってたよりも大袈裟になりつつあるようだ。だが言い出した手前、ユートが止める訳にはいかないだろう。

 それに、当の二人はやる気満々なのだ。止める理由はあるにしろ、無碍にする方も面倒だという事は明白。ならば、早々にやらせて終わらせるのも悪くないだろう。そう考えたユートは場所を移すように提案した。


 ――移動する事、数分。


 大広場へ移動したユート達は、アンダーグラウンドの中心に移動した。これから何が行われるのか知らない住人達も集まり、完全にコロシアムのような見世物となってしまっている。

 だが、二人は既に目の前の相手にしか見向きする様子はない。


 「(この二人の実力は拮抗してるが、まぁなんとかなるだろ)」


 溜息混じりにそう思ったユートは、念の為にルールを設けようと口を開いた。


 「銃火器の使用は禁止。勝負方法は体術のみで、相手が降参と根を上げたら決着……で問題ないな?」

 「問題なし!」「ん、理解」

 「当然だが、殺傷能力のある攻撃も禁止だ。お前達は大事な戦力でもあるんだから、それも自覚するように」

 「大事……」「っ……うん」

 「はぁ。んじゃとりあえず……――始め」


 ユートの言葉と同時に地面を蹴った二人は、躊躇なく互いに距離を詰めたのである。

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