第14話「束の間の平和 ④」
「ここが、保管庫?」
アサギは目の前に現れた物を見て、驚いたように声を漏らした。電子機器にカードを差し込み、レキは保管庫の扉を開けた。ロックを解除された扉は金属音を響かせ、微かな耳鳴りを生じさせる。
耳を塞いでいるアサギに対し、レキは平然としたまま扉が開くのを待っている。ユートはその背中を見つめつつ、開く扉へと視線を向ける。やがて開き切った扉を見届け、レキは振り返ってユートに言った。
「入って」
呟くように言われた言葉に頷き、ユートは薄暗い扉の向こうへ足を運ぶ。それに慌てて追うアサギに対し、レキは首を傾げて目を細める。
「アサギも来るの?」
「あたしが入ったらイケないわけ?」
「アサギって、ユートのストーカーみたいだね」
「あぁ!?あんたに言われたくないんだけど!!」
「大声出さないで。耳が痛い」
「あんたが出させてるんでしょうがっ!!」
保管庫の入口で口論をし始めるアサギとレキ。喧嘩するほど仲が良いという言葉があるくらいだ。本当は仲が良いのではないだろうか。口論をしているように見えて、実は愛情表現の一種なのではないだろうかと思えてしまう。
「レキは思ってる事を言っただけ。それに、ユートのストーカーをしてるのは事実」
「よし、分かった。あんたはあたしに喧嘩売ってんだでしょ?買ってあげるから外に出なさい!」
「これぐらいで怒るなんて、アサギもまだまだ子供」
「あたしの方が年上だぁ!!!」
ムキーッと声を荒げるアサギに対し、レキは呆れた様子で目を細めている。確かにアサギよりもレキの方が年下ではあるが、喧嘩の様子を見るにどちらが子供かは一目瞭然だろう。
そんな事を思いつつも、ユートは後頭部を掻きながら二人の口論に割り込んだ。
「いつまでやってんだよお前らは。くだらない時間を過ごす為に来た訳じゃねぇぞ?俺は」
「そうだよ、アサギ。ユートの言う通り。アサギは我慢が足らない」
レキの言葉に対し、アサギは「あんたが言うな!」と再び声を上げる。このままでは無限ループする可能性があると思い、ユートは溜息混じりにレキの襟を掴み上げて言った。
「お前も、アサギを煽るな。ずっと意味のない事を続ける気なら、二度とこの店には顔を出さねぇぞ」
「……それは困る」
無表情に見えるレキだが、感情の起伏という物はある。しゅんとしている空気に包まれている様子で、一応は反省はしているとユートは理解した。
「アサギも、いちいち過剰に反応し過ぎだ。毎度毎度良く飽きない事は褒めるが、正直言って時間の無駄だから止めておけ」
「むぅ……ユートが言うなら。(やっぱりレキに甘い気がする)」
ユートの言葉に多少の不満があるアサギだったが、素直にユートの言葉に従う事にしたのだろう。頬を膨らませて不貞腐れつつ、レキを一度睨んでから引き下がった。
未だにバチバチと火花が散っているが、これ以上の時間は浪費するのは面倒だと考えたのだろう。ユートはレキの襟から手を離し、保管庫の明かりを点けた。
――明かりが点いた瞬間、そこには数多の武器が飾られていた。
「相変わらず、凄い量だな」
「仕入れは完璧。日々在庫を絶やさないのが、レキのやり方」
ドヤ顔を浮かべながら、レキは自慢気にそう言った。
「ハンドガン、アサルトライフル、スナイパーライフル、ショットガン、マシンガン、ナイフ、エトセトラ……レキの店は、何でも揃えるのが売り」
「ホントいつも思うけど、これだけの量をどうやって揃えてるのさ?」
「それは企業秘密。味方であっても秘密」
「(このドヤ顔、腹立つ!一発だけでも殴りたいっ)」
拳を強く握り締めているが、手を出さないように我慢している。そんな様子が見て取れたユートは、指摘するのは面倒だなと思い放置する事にした。
適当に飾ってある銃を手に取り、重さや手に合っているかを確認していく。探しに来たのはハンドガンとナイフだったが、時と場合によっては別種の銃を持っておくのも悪くはない。
そう思い始めたユートの顔を覗き込み、レキは小首を傾げながら問い掛ける。
「欲しい武器はあった?」
「銃の新調と言っても、弾の補充が目的だったからな。今欲しいのはナイフだな」
「ナイフなら、これはどう?」
「これは?」
「飛び出しナイフにもなる優れ物。射出可能だから、刃こぼれしそうになっても取り替えが便利」
「射出可能のナイフか」
顎に手を添えながら、使い勝手を頭に浮かべるユート。そんなユートに対し、アサギはレキとは逆の方から顔を覗かせて言った。
「買っといても良いんじゃない?接近戦が得意なユートにピッタリだと思うけど」
「そうか?」
「うん。近距離で戦っても、中距離で戦ってもオッケー。っていう感じで、ユートなら上手く使えそうな気がする」
「……」
アサギの言葉を聞いて考え込んだユート。そんなユートを見つつ、レキはアサギの言葉に続けるように言った。
「同じ意見っていうのは不愉快だけど、アサギの言う通りだと思う。ユートなら、上手く使えると思う。それにかっこいい」
「一言余計」
「それはお互い様」
再び睨み合う二人に挟まれつつ、ユートを熟考しながらナイフを軽く手元で遊ばせる。重さも一般の包丁ぐらいの重さで、手に持った感覚に気持ち悪さは皆無。その感覚を確かめたユートは、やがて決心した様子で頷いて見せた。
「このナイフといつものナイフを貰おう。射出可能なナイフのストックは、四本ぐらい貰おうか」
「ん、分かった。他に欲しい物はない?」
「あぁ、とりあえずは大丈夫だ」
ユートが頷いたのを見て、取引を始めようとするレキ。その様子に首を傾げていたアサギは、頭に浮かんだ疑問を解消しようと声を掛けたのである。
「あれ?お金払わないの?」
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