第13話「束の間の平和 ③」

 「――レキの店で、逢引?」

 

 俺とアサギの間に割り込み、ぴたりとくっ付く小柄な少女。蒼い色に染められた髪の毛が目立ち、俺の片腕をがっちりとホールドしたまま眠そうな顔を見上げている。

 だがそれ以外に、俺の背中に当てられている物を無視する事は出来なかった。


 「レキ、毎回来る度に銃口を押し付けるのは止めてくれ。心臓に悪い」

 「ユートなら怒らないし、良いかなって思ってた」

 「本気じゃない事は分かるがな。止めてくれると助かるかな」

 「ん、分かった」


 納得するように頷いたレキは、俺の背中に押し付けていた銃口を離した。拘束から解放された事を安堵しつつ、未だに見上げられて向けられている視線を返す。


 「俺の顔に何か付いてるか?」

 「ううん、別に何も」

 「そうか?」

 「うん。……それで、ユートはレキの店で逢引?」

 「んな訳あるか。どうして武器屋で逢引をしなくちゃならないんだよ」

 「だって、アサギと一緒に居るから」

 「アサギは俺の買い物に付き添いに来ただけだ。別に他意は無いだろ、なぁアサギ……どうしたんだ?アサギ」


 静かにしていると思い、俺はレキの奥に流れたアサギの様子に首を傾げた。妙に大人しいと思っていた事もあって話題を振ったのだが、ムスッとした表情を浮かべてジトっとした目を向けられていた。

 一目で不機嫌だという事が理解出来るぐらい、何やら怒っているようだった。いや、不貞腐れていると言っても良いだろう。


 「べっつにぃ~、随分と仲良さそうだなぁって。腕とか組んでも拒否しないし」

 「嫉妬?」

 「あぁ?言っておくけどねぇレキ、今日はユートなんだから。邪魔しないでくれる?」

 「腕も組ませてもらえなかった人に言われても、説得力無いと思うけど」

 「うぐ、こ、これから組んでもらう予定だったし!」

 「そうなの?」


 何故そこで俺に振ってくる。変な口論に巻き込まないで欲しいのだが……。


 「腕を組む組まないって、そんなに大事な事なのか?」

 「「むっ」」


 俺がそう言った瞬間、アサギとレキに睨んだような視線を向けられた。何がそこまで大事なのか、俺には全然分からない。そんな事を思いつつ、俺はここに来た本題へと切り替える事にした。


 「で、レキ……新しい銃とナイフが欲しいんだが、今日はもう店仕舞いか?」

 「ううん、やってる。武器は全部倉庫で保管してるだけ」

 

 レキの言葉を疑うように、アサギはキョロキョロと周囲を見渡す。部屋には武器が並んでいる様子はなく、売り場という物が存在していない。その状態を見てアサギは、不機嫌のままレキに問い掛けた。


 「売り場が無いみたいだけど、モデルガンとか出してないの?」

 「アサギ、頭悪いの?」

 「はぁ?何であんたにそんな事を言われなきゃならないのよ!」


 アサギの言葉を聞いたレキが、呆れた目をしながら首を傾げる。レキに言われた事に不満があるアサギは、さらに不機嫌になって声を荒げた。

 

 「モデルガンでも改造すれば、殺傷兵器に変更するのは簡単。店番はレキしかいないから、盗まれるのも論外。本物の銃もモデルガンも、盗られるのはレキも困る」

 「倉庫は爆弾も耐えられる場所で保管されてるし、レキが持ってる鍵でしか開けられない。一人で経営してるレキにとっちゃ、売り物が一つでも盗まれるのは痛手だろうしな」

 「ん、だからレキの店は注文された銃の代金を貰って、早くてその日の内に倉庫から取りに行って取引するようにしてる。ユートから勧められたやり方、結構助かってる」

 

 俺とレキの言葉の間に居たアサギは、少し考えている様子で眉根を寄せていた。決して馬鹿ではないと思うのだが、何を考えているのだろうか。そう思っていると、アサギは浮かんだ疑問を投げてきた。


 「それってさ、あんたが倉庫に行く時に襲われたらどうしてるの?」

 「レキは、そんな柔じゃない。きっとアサギより強い」

 「へぇ、言うじゃない。試しても良いんだけど?」

 「今日こそ決着付けても良い。ユートが許可してくれるなら、本気で戦う」

 「どうしてそこでユートの許可が居るのよ!」

 「ユートは。ユートの許可が必要なのは当然」 

 「何が当然なの!?意味が分からないから!」


 そんな口論をしている最中、俺はレキが自然と腕から離れた。その瞬間を逃さずに二人から離れ、レキの店の近くにある違う道具屋まで移動する事にした。

 ここで無駄な時間を過ごしたくないのだが、二人の気が済むのを待つのに丁度良いだろう。


 『おや、若旦那じゃねぇか。こんな場所まで来るたぁ珍しいな』

 「武器を新調したくてな。レキの店まで来ただけだ」

 『で、レキの嬢ちゃんはどうした?』

 「いつも通りの奴だ」

 『ハッハ、男冥利に尽きるじゃねぇか。モテる男は辛いねぇ若旦那』

 「背中を叩くな。地味に痛ぇ。つーわけで、少しだけ暇を潰させてもらうぞ」

 『おう、ゆっくりして行きな』


 その言葉に甘える事にして、俺は道具屋の品物に目を落として口論が終わるのを待った。道具屋の親父さんも慣れているからか、俺が店に居座る事を嫌う様子は無い。

 それどころか、無駄話をして退屈凌ぎをさせてもらっていた。程なくしてアサギとレキが道具屋へ入って来て、俺の暇潰しに終わりを告げる事となった。

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