第12話「束の間の平和 ②」

 無理矢理に買い物に付き合うと着いて来たアサギ。病み上がりという事で心配を向けられている事と拒否した後の事の面倒さを考えた結果、ユートはアサギの買い物も付き合うという事で妥協する事にした。

 互いに買う物があるのであれば、邪魔されないと考えたのだろう。しかし、ユートは後悔している最中であった。自分の買い物よりも先に、面倒な事を片付けようとした事が後悔の種となってしまった。


 「ねぇねぇユート、これとこれ!どっちが良いと思う?」

 「んー?右で良いんじゃねぇの」

 「じゃあじゃあ、これとこれだったらどっちが良い?」

 「それだと左じゃねーの」

 「……むぅ、ユート。適当に言うんじゃなくて、ちゃんと見て選んでよ!」

 「……どっちでも良いんじゃねぇの?地下なんだし、綺麗な服を着た所で汚れるだけだぞ」


 地上で生活する事が難しくなった世の中を考えれば、身の安全と侵略から抗う力を付ける以外が必要なのかと疑うところだろう。だというのにもかかわらず、アサギは衣服を掲げてユートに選択するように問い詰めている。

 その面倒さと心底どうでも良いというと思っているのだろう。ユートは溜息混じりに両手に持たれた衣服を睨み、楽しみつつ不満を向けるアサギと交互に見つめる。


 「はぁ……お前に似合うのはそっちじゃねぇか?茶髪だし」

 「髪の色で決めんなし。ちゃんとあたしに似合うかどうかで決めてよ」

 「いや、似合うんじゃねぇかって思って決めたんだが」

 「ふぅん、じゃこれにする。(本当は可愛いと思われるのが良かったんだけどなぁ)」


 呆れた表情を浮べつつ決めたユートに対し、決めてもらった嬉しさと適当だったのではないかという不満さを持つアサギ。だが衣服を選ばれた事が無かったアサギは、購入した袋を抱き締めるようにして店から出て来た。

 大事そうに抱える様子を見たユートは、後頭部を掻きながら肩を竦めて歩き出した。その隣に並んだアサギは、ニコリと笑みを浮かべて言った。


 「次はユートの買い物だね。銃とナイフだっけ?」

 「ああ」

 「……となると、行く店って限られるよね?どの店に行くの?」

 「レキの所だ」

 「うへぇ、レキぃ~?」

 「あからさまに嫌そうな顔すんなよ」


 アサギの口が「へ」の字になる。そんなに嫌なのかと思いつつ、ユートは面倒そうに言葉を続ける。どうせ同行するんだろう、と思いながら。


 「レキの店は武器の品揃えも豊富だし、レキ自身も戦闘要員だからな。こういう時に結構助かるんだよ」

 「ふぅん、なんかあたしよりも対応が違う気がする」

 「んな事ねぇよ、普通に思ってる事を言ってるだけだ」


 そんな言葉を交わしながら、ユートとアサギは足を運んだ。やがて辿り着いた店の前で足を止め、ユートはアサギに「お前も来るか?」という視線を送る。

 「もちろん」という視線で応えたアサギを見て、結局かと思いながらユートは店の中に足を踏み入れた。占い屋のように狭い入口を通ると、中には何も無い四角い部屋の薄暗い景色が視界を覆う。

 キョロキョロと見渡すアサギと違い、ユートは足を進ませて口を開いた。


 「レキー、俺だー。ユートだー、居るかー?」

 

 そう言った途端、ユートとアサギの間に割り込むようにして告げられた。


 「ドーン……レキの店で、逢引?」

 

 その言葉と同時に、カチャリと金属音が聞こえた事をユートは見逃さなかった。

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