第8話「監視する者」

 「……」

 

 血反吐を吐き、気絶したユートを見つめる少女。意識を失ったユートの前髪に触れ、少女は口角を上げて目を細めた。

 その背後へとやって来た気配に気付き、振り向く事なく少女は口を開いた。


 『事は上手く運んでおりますか?』

 「はい、滞りなく進んでおります」

 『ならば良いでしょう。この少年の回収を宜しくお願いします』

 「殺さなくて宜しいのですか?子供とはいえ、我々の一族を殺したのですよ?」

 『構いません。死んだのは無作為に殺そうと、少年を甘く見た結果に過ぎません。今はまだ、生かしておく価値があると私は判断しますよ。貴女はどうなのですか?』


 少女は倒れるユートから手を離し、立ち上がりながら振り返る。目の前にやって来たその者を見据え、少女は口角を上げて笑みを浮かべる。


 『人間でありながら、我等に味方する者よ。――アサギさん』

 「……あたしは、あたしのやり方で世界を変えたいと望んでいます。信じる者は救われるという言葉はありますが、あたしは存在するか分からない不確定要素の多い神を信じるつもりはありません」

 『アサギさん、貴女はもう少し言葉に気を付けた方が宜しいかと思いますよ。人間である貴女が、どんな過ごし方をしているのか興味はありません』

 「王女様の言葉選びも、なかなか辛辣しんらつかと思いますよ」


 アサギにそう言われた瞬間、目を見開いて少女は驚いた様子を見せた。だがすぐに顎に触れた少女は、ニコリと笑みを浮かべてアサギに視線を向けた。


 『確かに。これは私も考える余地がありそうですね。それではアサギさん、私は戻ります。そろそろ戻らないと五月蝿いですから』

 「そうでしょうね。では、あたしは引き続き彼の監視をすれば良いでしょうか?」

 『はい、宜しくお願いします。もし彼を失ったり、殺したりすれば……』


 そう言いながら少女は、アサギの横を通り過ぎる前に足を止めた。そして通り過ぎる直前、少女は笑みを浮かべたままアサギに言うのである。


 『――貴女を殺しますよ、アサギさん♪』


 そう告げて通り過ぎ、アサギが振り返る前に少女は姿を消した。そして倒れているユートを見つめるアサギだけが取り残され、消えた少女の方に振り返ってアサギは呟いた。

 

 「分かってますよ、王女様。あたしは彼の監視で、人間の敵なんだから」

 「……」

 「ごめんね、ユート。もう少しだけ眠っててね」


 アサギはそう呟き、倒れているユートと自分の口を重ねたのである。

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