第5話「VS小型バグ ②」

 『グギギ……ギギ』


 昆虫のような見た目をしている小型のバグ。マンホールからゆっくりと出たユートは、なるべく音を立てないように移動する。瓦礫の隙間からバグの様子を伺うが、まだバグはユートに気付いていない様子だった。

 だが気付いていないといっても、バグとの距離は数メートル。迂闊に飛び込もうとすれば、出て行った瞬間の音で気付かれる可能性もあるだろう。しかしユートは、深呼吸をしながら目を細めた。


 「すぅ……はぁ……」


 脳裏に浮かんだのは、過去の記憶。目の前で実の父親をバグに殺された記憶は、目を閉じれば昨日の事のように思い出すのだろう。そして微かに早くなっている鼓動を抑えながら、ユートはバグを見据えて目を見開いた。


 「――殺るっ」

 『ギギ』


 ユートが駆け出した瞬間、その足音と殺気に気が付いたバグ。赤く輝く双眸がユートの姿を捉え、バグは威嚇するように大口を開けて鳴こうとした。


 ――グシャッ!!


 その瞬間だった。鳴こうとしていた顎が飛び散り、紫色の血液が噴水のように溢れ出ていた。バグが何故そうなったのかは、ユートの遥か後方に答えがある。

 そこには対物ライフルを構え、目を細めているアサギの姿があった。ユートは少しだけ背後に居るアサギに顔を向け、口角を上げてサバイバルナイフを逆手に持ってバグとの距離を詰めた。

 そんな様子をライフルスコープから覗いたアサギは、ユート同様に口角を上げてスコープから顔を離した。


 「流石あたし、グッドタイミングだったみたいだね」


 ドヤ顔を浮かべながらそう言ったアサギは、ライフルを縦に持って肩に掛けて移動した。そんなアサギの行動に疑問を浮かべた視線を受け、アサギは何食わぬ表情を浮べたまま援護で出て来ていた者達に言った。


 「もう帰って平気だよ~。後は、ユートに任せておけば平気よ」


 ヒラヒラと手を振るアサギはマンホールを降りていく。他の者達は半信半疑の様子だったが、アサギの予感は半分当たっていた。だが、もう半分の懸念材料がアサギの頭の中から抜けていたのである。

 バグには、等しくがあるという事を――。


 「くそがっ!」

 『ギギィ、キシャァァァァァ!!!』

 「大人しく殺されてろよ、この虫野郎!!」


 バグの噛み付きを回避したユートは、バグの足元を滑りながら手榴弾のピンを抜いた。そして足元を抜けると同時に手榴弾を置き、背中を向けたまま駆け抜けた。

 バグは手榴弾の爆発に飲まれ、ユートの視界は爆風に包まれた。通常の生き物であれば、今ので木っ端微塵になるか火傷を負っているだろう。だがしかし、バグはこの程度では傷は負わなかった。


 「ちっ……共鳴される前にケリを付けなくちゃいけねぇってのに」


 そう愚痴を零しながら、ユートは周囲に自分以外の人間が居るかを確認していた。アサギは既に撤退しているようだが、ゲイルの姿が見えない。恐らくは、遠くから援護する機会を伺っているのだろう。

 そう思ったユートは、ハンドガンでバグを攻撃して刺激した。


 「そうだ。こっちへ来い!お前の相手は俺だっ」


 ユートはゲイルがいる場所から離れるように行動を移した。その様子を疑問に思ったゲイルは、双眼鏡で覗きつつも追おうとはしなかった。何故なら、アンダーグラウンドを出る前にゲイルはユートに言われているのだ。


 ――10分前。


 「ゲイルのおっさん」

 『なんだ坊主』

 「バックアップを頼んだが、それは最悪の場合で良い」

 『んあ?それじゃお前さんの援護はどうすんだ?まさかとは思うが、一人でバグを倒すつもりか?』

 「そこまで自惚れちゃいない。けど、一つだけ試したい事があるんだ。だから、手は出さないで欲しい」

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