第4話「VS小型バグ ①」

 「……」

 『グギャァァァァァァッッ!!』


 バグは昆虫のような見た目をし、キョロキョロと周囲を見渡している。そんな様子を眺めつつ、マンホールを少し開けながらそれを睨みつつ、すぐに蓋を閉じて下に居る仲間達の下へ戻った。

 下に戻ると仲間達は銃火器を武装しており、既に机を囲んで待っていた。腰を下ろした老人も居れば、髭面の目付きの悪い中年と小型銃を持つ子供達がこちらへ視線を向ける。

 その表情は険しく、緊張している様子だった。


 『どうだったんだ?坊主。上に居る化け物は』

 「小型のバグだ。全長2~3メートルは越える。バグの中じゃ小さいが、他のバグとなんら変わらない化け物だ。油断すればこの場所だって壊滅する可能性もあるだろうな」

 『なら、なんとかするしかねぇな。お前ら、聞いたな?上に居るのは小さくても化け物は化け物だ。死にたくねぇ奴は、大人しく留守番か逃げる準備をしてろ』

 「おっさん、怖い顔してんぞ。無闇に子供を脅すような真似はすんな」


 髭面の中年のおっさん。名前はゲイル。元軍人であり、黒人の傭兵上がりの厳つい人物。銃火器の整備や戦闘を得意としているが、その見た目故に話す人間は多くない。

 本人にも自覚しているらしく、こういう場面になれば殺気立ってしまう事もあって表立っては行動しないようにしている。だが突然の事で動揺している大人や子供達は、その殺気立っているゲイルを見て生唾を飲み込んだ。


 『あぁ、すまねぇ。だが、死なせない為だ。これぐらいで根を上げられちゃ困る』

 「確かにそうだが……いや、今は上に居るバグをなんとかするのが先だ。このままやり過ごす事が出来ればそれを優先したいが、奴らは物音にも敏感だからな。迂闊に逃げようとすれば、背中を取られて強襲を受ける可能性もある」

 「なら、ここでとっとと倒す方が良いんじゃないの?ユート」

 

 俺とゲイルの会話に割り込んだのは、アサギだった。どう動くか悩んでいる手前、アサギの言っている事も一理ある。まだ一匹であれば倒せるかもしれないが、バグはバグ同士で共鳴する事が出来る。

 迂闊な行動を起こして仲間を呼ばれれば、この場で抑えるのは不可能に近いだろう。そしてその事は、ゲイルも理解しているようだった。


 『馬鹿言え、嬢ちゃん。小型のバグでも化け物は化け物だ。奴らには、仲間との連絡手段がある。仲間同士で共鳴でもされちまったら、俺達に押し切るのは不可能だ』

 「なら呼ばれる前に倒せば良いんじゃないの?あいつらだって万能じゃない。行動の一つや二つ、封じられれば倒すチャンスを作れるんじゃないの?ねぇユート」


 ユートなら出来るよね?と言葉を付け足し、最終的な決定を俺に押し付けて来た。元々決める予定ではあったが、こうも仲間達の視線を一度に受ければ俺だって言葉に迷う。

 それを分かっているのか、アサギは悪戯な笑みを浮かべている。文句の一つも言いたい所だが、憎たらしいと思いつつも言っている事は間違っていない。行動の一つでも封じれば、こっちにも勝ち目がある。


 「バグの動きを制御して叩くなら、囮が必要だろうな。その役目は誰がやる?言い出したお前がやるか?アサギ」

 「冗談。あたしがやったら、一発で失敗に終わると思うけど?」

 『自信満々に言う事じゃねぇだろ。だが同感だな。嬢ちゃんは戦えても、対人戦での経験しか無ぇ。バグ相手の戦闘は、お前の方が有利に運んでくれるだろうな』

 

 ゲイルがそう言うと、他の武装している奴らも頷いた。俺は溜息を吐きつつ、肩を竦めながら銃火器を手にした。そして弾を装填し、ナイフを手に取って告げた。


 「――分かった、俺が行く」

 『手伝うか?』

 「ゲイルのおっさんはアサギと一緒にバックアップを頼む。もし俺が失敗した場合、三人でバグを叩く。他の奴らは、万が一に備えろ。異論はあるか?」

 『無ぇな。お前は俺達の大将だ、黙って従うさ』


 ゲイルの言葉に同意を見せた仲間達の顔を見渡し、俺は口角を上げて目を細める。


 「じゃあ行くぞ、俺達はブラックハウンズ。――俺達こそが奴らを狩る側だ」

 

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