第3話「バグ、襲撃」

 ――アンダーグラウンド、東京地区。

 

 地球外生命体【バグ】に滅ぼされ、世界は大敗してしまった。この世は全て絶滅したかに見えるが、実はそうではないのが現実だ。世界を滅亡の危機に追い込まれたかに見えたが、それでも人類はまだ死んで居なかった。

 それがこの場所、アンダーグラウンドに暮らす者達の事である。人口は数百人程度という少なさではあるが、老若男女の人間が暮らすには十分な場所となっている。土と鉄に覆われた空間であっても、滅んでしまった文明に遠く及ばない暮らしをしていると言っても良いだろう。


 「……」


 滅ぼされた日本の地上は跡形もなく吹き飛ばされてしまったが、地下鉄道を基盤にした地下基地を人類は作り上げた。地下鉄が通っていた場所を一階層とし、そこから地層のように順に作られた各階層の街。

 地下シェルターは地下深く作られており、万が一の為に準備は整っている。他にも銃火器の製造や売買を行っているが、広く取引を行われている訳ではない。海を挟んでいる以上、海の下に道を作る事は不可能だった。

 広げようとしても、海へ潜んでいるかもしれないバグを警戒せざるを得ない。詳しくは無いが、水陸どちらでも生息出来るらしい。その生命体は何処まで侵攻してくるのかは不明だが、生きている内は常に警戒しておいた方が良いだろう。


 「どうしたの?ユート。怖い顔してるけど」

 「……何か用か?」

 「何かとは失礼ね。用が無いと話し掛けちゃいけないの?」


 そう言いながら腕を組み、口を尖らせて顔を逸らす彼女の名前はアサギ。黄色の瞳に、茶色の髪を揺らしている。少し生意気な口調と強気な性格が相俟あいまって、男女おとこおんななどと呼ばれているのを見た事がある。

 だが本人はそれを自覚しているのか、アサギは前にこう言った。


 『あたしの生き方に文句があるなら、それ相応の実力を見せなさいよ。あたしは逃げも隠れもしない。あたしに勝てないようじゃ、あたしに文句を言う資格は無いわ』


 そう言っていた場面を見た瞬間、彼女は強い存在だと印象を受けた。当然、このアンダーグラウンドで暮らす者達も認めざるを得ないだろう。そして浮いた存在となっていた所を見つけ、声を掛けたのが話すようになったキッカケである。


 「な、何よじっと見て。あたしの顔に何か付いてる?」

 「目と鼻と口が付いてるな」

 「そんな当たり前の事を聞いてるんじゃないわよ。ったくあんたって人は」

 「それで何か用か?」

 「用が無かったら話し掛けちゃいけないの?」

 「結局、用は無いんだな」

 「……あ、あるわよ」

 「じゃあ何の用なんだ。さっさと用件を言え」

 「むぅ……えっと、外の様子はどうだったのよ」

 

 何を聞いてくるのかと思えば、その程度の事か。勿体振る仕草をしているから、何か問題が起きたのかと思って身構える必要は無かったようだ。


 「そんな事を聞いて、お前はどうするつもりだ?まさかとは思うが、外へ出るつもりか?」

 「そんな怖い顔しないでよ。ユートは何を見て来たのかなぁって思っただけよ」

 「外の様子はいつも通りだった。気を抜く暇は無かったし、バグとも遭遇したからな。眠る暇がある程、警戒を解く事は出来なかったさ」

 「そ、遭遇したって……怪我とかしてない?大丈夫なの!?」

 「大丈夫だからここに居る。大した怪我はしてない」

 「で、でも……傷口にもしバグの血が付着したら、あんただって無事じゃ済まないでしょ!良いから見せて、何処を怪我したの」


 慌てた様子を見せたアサギは、勢い良く飛び掛かった。押し倒す勢いで身を乗り出したのを受け止めたが、それを構っている様子はどうやら無いようだった。


 『た、大変だ!!!ち、地上にバグがっ、バグが来やがったっ!!』

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