第2話「赤い瞳を持つ少年」

 ――地球外生命体。

 

 それは突如として、出現した。飛来した隕石と共に地球に降り、世界を、人々を襲い始めた。人々はこれを迎撃・応戦しようとしたが、隕石の落下にも耐えうる事が出来る特殊能力を持っていた。

 その能力は銃弾を弾き、まるで空間を歪めるようなフィールドで体を包んで防御する。それはゲームや漫画の世界で良く出てくる【バリア】と呼ばれる類の物で、爆撃にも耐える事が出来る程に頑丈な物だった。

 そしてその地球外生命体には、もう一つの能力が存在した。それはあらゆる電子機器をシャットアウトさせてしまう程の粒子をばら撒いていたのだ。連携が取れなくなった人々は次々に蹂躙じゅうりんされ、瞬く間に地球外生命体は各地に侵攻を開始し続ける。

 やがてその生命体には、【バグ】と名付けられた。見た目が昆虫のようにも見えた者が、二次元の存在と似ていると感じて名付けたのがキッカケである。その名は各地に広がり、今では世界共通の名として知られている。


 「はぁ、はぁ、はぁ!」

 『急げ!!シェルターはもうすぐだ!!』


 逃げ惑う人々の中、手を引かれて走り続ける一人の少年。息も絶え絶えとなりつつも、走る事を止める訳にはいかない状況となっていた。避難中にバグの侵攻を許してしまった結果、一面が火事で真っ赤に染まってしまった。

 呼吸困難という状況でも、走り続けなければ生きる事は出来ない。それは、少年も本能的に理解している様子だった。だが手を引いていた少年の父が足を止め、少年は目の前の光景を見て絶望をした。


 『シ、シェルターが』

 「そんな……どうしよう父さんっ、このまま俺達っ」

 

 ガラリ……。


 燃え盛る炎の中から、瓦礫を退かして姿を現したバグ。その口にはベッタリと塗られたように血液が付着しており、シェルターの中で何が起こったのかを理解させられた。

 恐怖を覚え、絶望に心が折れそうになった瞬間だった。少年の父が少年の手を離し、背後に居る少年と顔を見合わせた。


 「父さん?」

 『逃げろ。そこの瓦礫に隠れてなさい』

 「っ、な、何言ってるんだよっ!!父さんも一緒に逃げなきゃ」

 『このままじゃ、二人とも死ぬ!頼む優人ゆうと、お前だけでも生きてくれ』

 

 そう告げた父親は少年を瓦礫の方へと押し、襲い掛かってきたバグの行く手を阻んだ。肩を噛み付かれたが、念の為にと持っていた包丁を取り出してバグの体へ突き刺した。

 バグの悲鳴が響き、周囲に飛び散る紫の血液は瓦礫の中に隠れる少年に掛かった。少年は父親から目を離す事が出来ず、涙を流しながら手を伸ばそうとする。だが、父親から言われた言葉を思い出して手を抑える。

 瓦礫の隙間から見える少年の歪んだ表情を見つけた父親は、バグの一撃を喰らう直前に口を動かした。それは言葉は出ず、苦し紛れの一言。


 ――生・き・ろ。


 その言葉を最期、目の前で父親はバグに食い千切られた。恐怖と悲しみに包まれ、声も出せずに瓦礫の中で表情を歪ませる少年。やがてその悲しみは憎悪へと変わり、決意に満ちた眼差しでバグを睨み付けていた。


 「――――――!!(殺してやるっ。絶対に、この世界から、全部っ)」

 

 その決意を抱いた瞬間、少年の瞳は真っ赤に変わったのである。

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