BLACK HOUNDS~小さき戦士達の軌跡~

三城 谷

プロローグ

第1話「生き残った者達」

 ――世界は滅びた。


 その言葉を聞いた所で、一体誰が真実だと信じるだろうか。虚実か真実か、自分の目で見た物でしか嘘か本当かなど到底理解出来ない。荒唐無稽こうとうむけいな話というのは、いつの時代もそういう物だろう。

 でも、それでも「世界は滅びた」と断言するだろう。何故なら、それは目の前に広がる光景が有無を言わせない。大地は枯れ、人々は生きる事さえ難しいと言える程に酷い環境へと移り変わってしまった世界。

 そんな存在もゴミのように消し飛ばされて、まるでそこに何も無かったかのように消滅してしまっている。運良く隕石と衝撃で残ったとしても、それは既に廃墟となって人間の姿を見る事は出来ない。

 

 「……」


 すれ違う人間も、飛び交っていた自動車や信号の音も聞こえない。聞こえるのは風に揺られる砂の音と渇いた大地を踏む音のみ。何も無い。そう何も無いのだ。

 何かを失ってしまったような虚無感と大事な物を失ってしまった喪失感だけが、この世界に残った破片と言っても過言ではない。瓦礫に埋もれた草木でさえ、色を失ってしまっている。

 

 ――絶命ぜつめい世界。


 誰かがそう呼んだのか、争いの中で生まれた言葉だ。隕石から姿を現した地球外生命体との争いによって、人々は容赦なく叩き潰されてしまった。この世界に夢も希望も無くなり、いつしか人々は武力を行使する事を諦めた。


 「……ここも、ボロボロだな」


 呟いた言葉は虚空へと消え、砂埃が宙を舞っていく。枯れていた草が舞い散り、また命の輝きが一つこの世界から去ったのを見届ける。この何も無い世界の中で、生き続けなくてはならないのだろうか。

 そんな疑問だけが浮かぶ中で、心の何処かでいつかは、やがていつかはと考える自分も居る。そう考えながら、砂に埋もれた街の中で足を運び続ける。

 やがて辿り着いたのは、足元に埋もれてしまっている黒い物体。砂を払って姿を現したのは、焼き跡が微かに残っているマンホール。その蓋を二度石で叩き、マンホールの下に居る者へ合図を送る。

 その合図で察したのだろう。マンホールが開き、一人の少女がこちらを覗き込むように顔を出した。


 『どちら様ですか?』

 「俺だ、ユートだ。中に入れてもらえるか?」

 『……ん』


 短い返事をしてマンホールが完全に開かれ、「入っても良い」という意志を向けられる。下に下りた少女を追うように、マンホールの中に入ってハシゴを下りて行く。

 しばらく降りる中、目的地へと辿り着いた。そこには小さな町があり、蝋燭ろうそくの明かりが揺れる世界が広がっていた。そこは人々の……いや、未だに諦めていない者達が暮らす世界。


 『お、ユートの坊主じゃねぇか。今帰りか?』

 「あぁ。何も無かったか?」

 『あぁ問題は無い。強いて言うなら食糧が尽きそうなくれぇだが、まぁなんとかなるだろ。そっちはどうだったんだ?何か進展はあったのか?』

 「それを今から話す。皆を集めてくれ」

 『あいよ』


 中年太りの髭が目立つ男は、そう返事をして奥へと向かう。その背中を追い、共に奥へ進むと町は違う姿を現した。

 土と鉄で出来た町の名は、アンダーグラウンド。人々が生きれる最後の砦であり、未来を掴もうとする者達が暮らす世界。


 そして……


 『あ、ユート兄ちゃん!おかえり』

 『ユートが帰って来たの?』

 『お、帰って来たか』


 この世界の争いに巻き込まれ、そして生き残った人間達である。

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