第6話【エピローグ】
おふくろが、残業時間減らすのはいいけど全くなしには出来なくなったと言っていたので。
俺は幽霊部員をやめて普通の部員に昇格することにした。
別に絵を描きたいってわけじゃない。他にする事がないだけだ。
なんとなく身についちまった予習復習や宿題を美術室でやるか教室でやるかの違いくらいのものだろう。
それで、時間があったら筆を取ってみるのもいいかもしれないと思った程度である。
そんなことを考えながら教室に入ると、珍しく俺よりも早くロトが居た。
「よっ! おはよ! 今日は、ずいぶんと早いんだな」
「あぁ……」
「どうしたどうした! 勇者らしくないぜ!」
俺自身無理してるってのはわかってる。
でも、しばらくは無理してでもこのまま振る舞うつもりだ。
「琴歌にフラれちまった……」
「いいじゃねぇか! あんなに可愛い嫁さんがいるんだ! ぜいたくいってんじゃねぇよ!」
「ちがうんだよ! 俺が唯一あいつと別れるには琴歌と付き合うしかなかったんだよ!」
「なんだ、そりゃ」
「もしも琴歌を恋人に出来たら、羽音との婚約は解消してもいいって話になってたんだよ!」
「いやいやいや! 毎日弁当作ってもらっといてなに言ってんだよ! 良い嫁さんじゃねぇか!」
「お前は、あいつの本性をしらねぇからそんなことがいえんだよ!」
「なんだ、そりゃ?」
「だったら教えてやる! あいつの趣味の一端をな!」
「あぁ、言ってみろ」
「今、あいつが一番夢中になってるのは、毎日毎日俺に犯され続けながらも恋心に目覚めていくお前の話を日記と称して書き綴ってる事なんだよ!」
ゾッとした! 転校前のトラウマが頭の中を駆け巡る。
「てっ! テメー! まさかそっちの趣味があったのか⁉」
「ざけんな! 俺が好きなのは琴歌だって言ってんだろうが‼」
「ほっ、本当だろうな⁉」
「とにかくだ! 羽音は、男女の恋に全く興味がない! そういう趣向の持ち主なんだよ!」
「そうか…頑張れよ! 勇者様!」
「はぁ……もう、それ以外に道はねぇんだよなぁ……」
「おはよっ! ロトっ! ななちゃん!」
「な――⁉」
ロトは、びっくりして目を丸くしているが、俺はナチュラルに返した。
「おはよっ! 弓根さん。昨日ロトふったんだって?」
「あ、うん。やっぱり友達以上は無理かなって」
「そっか、だったらえんりょとかいらないな」
「ん? なにが?」
「俺と付き合ってよ!」
「え……?」
「だめ、かな?」
一瞬にして顔を真っ赤にした弓根さんは、
「――ムリ! 無理無理無理~~~~~~~‼」
と叫びながら教室を飛び出して行った。
「ば~か。告るんなら告るんでタイミングとか場所とかちったぁ考えろよな」
「ふんっ! さんざんタイミングだの場所だのこだわったあげくふられたヤツにだけは言われたくないね」
「ってめー! 言うじゃねぇか!」
「まっ、同じ女にフラれた者どうし仲良くしようぜ!」
「ちっ、そういうことにしといてやんよ」
バイトの件も今日中にバレるだろうけど。
たぶん誰にも何も聞かれないんだろうなぁ。
それでいい。きっと夢みたいなもんだったんだ。
この町に来て――今日まで生きてきて――。
スマホ無しでも生きられるってわかったし。
勝手ながら弓根さんにフラれたら解約しようと決めていた。
これで少しは金に余裕ができるだろうしムリなバイトもしなくていい。
例えば休みの日だけってのもありかもな。
考え方を変えてみるとスマホ維持するために意地になってバイトするって話もバカらしい気がしてきた。
そう――
スマホ無しでも人は生きて行けるのだから――
お終い
最後まで読んで下さった方。本当にありがとぅございますm(__)m
日々菜 夕
実態調査報告書ファイル№357 日々菜 夕 @nekoya2021
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