mc2020.12.5 狐人クウコと


 本日は晴天なり。

 今日、いつものようにお店を開店しようとしたら、驚きのイベントがあったので書いていく。


 それは朝八時過ぎ。外に出ると、店の前に人が倒れていた。

 ……いや、最初は人間だと思ったんだけど、赤いスカートの腰辺りから生えた黄金色の大きな尻尾、頭部から生えたフワフワのケモノ耳。恐らく獣人族の女性なのだろうと分かった。


 はて、店の前で行き倒れとは。

 声をかけてみると、どうやらキツネ種の少女だったようで、泥だらけの顔でこちらを見上げて「腹が減った」と一言呟くと、そのままバタリと倒れてしまった。


 うーん、放置なんて出来るわけもないし。彼女を背負って店内にご案内。奥の部屋に運びベッドに寝かせて、泥だらけの顔をタオルで顔を拭くと、黒く澄んだ大きな瞳が可愛らしい少女の顔が現れた。髪の毛も深い黒色に染まり、人形のように可愛らしかった。年齢は分からないけど、十代前半くらいかな。


 ……どうしてこんな場所に幼い女の子が?

 とにかく、腹が減ったと言っていたし、バタートースト二枚とオレンジジュースを用意すると、少女は匂いにつられたのか、あっという間に平らげて、満足そうな笑顔を見せてくれた。


 その後、落ち着いたタイミングで名前や、どうして店の前で倒れていたか尋ねると、彼女は自らをクウコと名乗った。


 あと、その喋り方にちょっと驚いた。

 結構大人びたというか、クウコと申す! なんて、自信満々に叫ぶものだから。

 ちなみに珍しい名前だなーと思ったけど、後から(この日誌を書きながら)調べたところ、彼女の名前は極東に位置するジパングという国に多い名前らしい。


 彼女は名前だけ名乗り、どうして倒れていたか説明してくれなかったけど『魔界都市ダークリング』に向かっている途中だったと言っていた。


 本当は気になって仕方なかったけど、何やら事情がありそうなので多くを聞くことはせず。

 ご飯も食べて元気になると、お礼を言って店から出て行こうとした―――が、慌ててクウコを呼び止めた。

 魔界まではそれなりの距離があるし、子供をそのまま見過ごすことなんて出来ないし……行き倒れをするような狐の少女だからね、心配も尽きないよ。


 それで、考えた結果。


 仕方ないので、今日は臨時店休にして、彼女を魔界まで送ることにしました。

 ダークリングに歩いていくのも遠いし、一旦人間界側の隣町まで連れていき、俺がいつもダークリングに行く馬車に一緒に乗車した。


 ……ところがどっこい、大問題が発生する。

 魔界へ通じる馬車道が大雨でガケ崩れが起きてしまい、修復するための錬金術師の到着が遅れているらしく、近くの町の宿で一泊する羽目になっちまった(もちろん宿泊代は運送会社持ち。ラッキー! )。


 宿泊するのは温泉付きのイイ感じな宿で、これを書いている現在は夜二十時過ぎ。宿の美味しい夕食を食べ終えて、温泉にも浸かり、これを書いている今この瞬間、クウコ同じ部屋のベッドでスヤスヤ寝息を立てている。

 温泉効果なのか、黄金の狐耳と尻尾は出会った時よりフワフワと柔らかそうに揺れてるし、ううむ少し触りたい(いや、変態的な意味じゃなくて)。


 あ、彼女がクウコがジパング出身? と調べて分かったところでもう一つ追記。その本には、彼女の着用している白と赤の変わった衣服が『巫女衣装』というらしい事も分かった。

 巫女とは、ジパングの神の社に従事する女性が着用するものらしいけど、狐族の少女が巫女衣装とは?

 こんな子供が魔界に向かっている理由も分からないし、謎が深まるばかりだ。


 ……とりあえず今日は俺も疲れたし寝ることにする。おやすみ。

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