解決編

「さて、みなさん。長々と拘束してすみませんでした。しかし私が来たからには今回の事件の犯人、すぐに明かしましょう」


容疑者たちがざわざわしはじめる。


「おい、姉ちゃん。あんた何もんだ?」


当然の疑問に答えたのは底田刑事だった。


「うちの顧問アドバイザーみてえなもんだ。もっと平たく言えば名探偵様だよ」


狐につままれたようなギャラリーを置き去りにして土屋さんは続ける。


「まあ、不安を解消するためにもさっくり犯人の名前を挙げてしまいましょう。佐久間さん。あなたが犯人ですね」


そうです、などと言うはずもなく佐久間氏はがなりたてた。


「だからよお。刑事さんには、なんっべんも言ったけどなあ。俺にはちゃあんとアリバイってやつがあるんだよ。それにこいつは密室殺人だろうが」


「家主であるあなたが犯人であれば実は鍵の問題はどうとでもなるので、アリバイが崩れた時点でこの事件は密室事件ではなくなるのですが、まあいいでしょう。あなたのアリバイが何の意味もなさなくなるトリックの証明と行きましょうか」


「なんだとお!」


「まず初めに、被害者を殺すにいたったナイフですが、これは時限式のトラップです。シャンデリアの中に隠されたナイフが上から落下して、被害者の胸に突き刺さったのです」


「わけのわからねえことを…!」


「シャンデリアの中に氷でナイフを固定しておく、氷の輝きがガラス飾りに、銀のナイフが金具に見えるためにシャンデリアの中にあるナイフに被害者は気づかなかった。シャンデリアに明かりが灯り時間が経つと氷が溶けてナイフが落ちる。あとは位置エネルギーによってナイフが胸に突き刺さり被害者はお陀仏というわけです」


「仮にトラップだとしてだ、どうやって儀式的な細工をするってんだ? トラップってことは俺はそこにいねえんだろ? どう飾り付けるってんだ」


「別に難しいことじゃありません。あなたは普段からヴィジュアル系ミュージシャンとして部屋を怪しげに飾っていた。とはいえ、それはミュージシャンの部屋としてみれば違和感はなかったはず。しかし、死体が机に載って鮮血を吹きだして倒れたことで非日常の大きな要素が加わった。そのため神へ供物をささげる祭壇のように見える先入観が働くようになったというだけのことです」


「しかし、そんなに都合よくナイフが胸に刺さるようにできるものかね?」


刑事が土屋さんに尋ねた。


「できますよ、氷はシャンデリアの中に目立たず隠せるトラップというだけでなく被害者をおびき寄せる餌の役割もあったのです」


「どういうことかね?」


「氷が溶ければ水として滴り落ちる。もし、刑事が頭の上から水滴を浴びたらどうします?」


「そりゃあ気になって上を見上げるだろう」


「人間、真上を見るためには自然と胸を天井に晒すことになります。しずくが落ちるほど溶けだしているのなら、眩しさに目がくらんでいる内に被害者の胸に突き刺さったことでしょうね」


「机の上に都合よく倒れこむかね?」


「そうなるように机自体が動かしてあったんですよ。本来の位置からね」


「俺、前にも何度かこの家に来てるけど机は動いてなんかいねえぞ」


「それも先入観です。では実際に隣の犯行現場に行って確かめてみましょう」


廊下へ進む土屋さんに、刑事が思いついたように聞く。


「よく考えたら部屋に入って一度もシャンデリアのナイフに気付かないのはおかしくないか?電源を入れた直後にさすがに気付くんじゃあないか?」


「ならそれも見てみましょう」


場所は隣の犯行現場へ、さっき出てくるときに明かりを消したので部屋は暗い。土屋さんはみんなを部屋に入れてから僕の傍にいた招待客の1人、さっき何度も来たと語っていた男に指示した。


「スイッチを入れてくれますか?」


「ここだよ」


そう言って彼が壁のスイッチを押すと明かりが灯った。


「今シャンデリアのナイフが見えた人はいますか?」


一番最後に入った僕が手を挙げると土屋さんにたしなめられた。


「やれやれ、鈴木君。きみはちょっとひねくれものすぎるね。直前に話題に上がっていたから君は入る前からシャンデリアを意識していたんだろう?そうでもなきゃ普通は気付いたりはしないよ。あなたは気づきましたか?」


先ほどの男が聞かれ、答える。


「いいや、スイッチのほうを向いてたからな」


「ふむ、ではあなたは?」


別の招待客へ尋ねると、


「眩しくて気づかなかったよ」


「その通り!」


声を張って土屋さんが言ったので皆が注目する。


「通常、部屋の明かりをつける時そもそもスイッチのほうを見て明かりをつける。あるいは照らされる机のほうに目が行くものです。

仮に目線がシャンデリアに向いても眩しくて気づくことができない。目が慣れたころにはシャンデリアを向く理由はないでしょう。あるとすれば先ほど刑事が示したように頭に水滴が落ちてきたときでしょうか」


おお、と感心したようなどよめきが聞こえる。

そして目が慣れた皆がシャンデリアを見るとそこにはナイフが固定されていた。実は推理ショーが始まる前に土屋さんに頼まれて僕が机に上ってシャンデリアに針金で取り付けておいたのだ。


「さらに、見てください。このカーペットの足の近くに床の色が違う場所があるでしょう。これは長い間置いてあった机の脚がどかされたので日焼けしてないカーペットが覗いた証拠です」


「確かにそこに座ったならちょうどナイフも刺さるし机に向かって倒れるだろう。しかし都合よくそこに座る理由があるか?」


招待客の一人が聞いたので土屋さんが答える。


「たとえば、あなたが先に着いて友人を待つなら待ち人が来た時に気付けるように窓に近い側へ座りますね? それも考えて机は置かれていたのです」


土屋さんがずいっと踏み出し指を突き出すと佐久間氏に言い放った。


「以上のトリックを用いてあなたが行った遠隔殺人トリック、それがこの事件の真相です」


 ドラマならガクッとその場に膝をつくところなんだろうが佐久間のやつは扉に向かって走ってきた。近くにいた僕が扉を閉めようとするがタックルを食らわされて僕はよろめいてしまった。やつが先に廊下へ出て後ろ手に扉を閉めた。慌てて僕は扉を開けて追うが廊下のどちらへいったのかわからない。残念ながら僕は佐久間をとらえ切れず逃がしてしまった。しかし、そこは警察組織も馬鹿じゃない。館の外ですぐに佐久間は捕まったらしい。こうして事件は幕を引いたのだった。

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