第2話 爽大 日向 2

 11月になる。爽大は、私大の公募推薦を受験した。日向も受けると言った。終わったら、紅葉とか見たいな、ということになり電車で近くの紅葉スポットに向かう。

「俺、たぶんダメだわ」日向が言った。

「俺も全然手応えなし。あ、なんちゃら大がギリかな。けど倍率エグいからな。どっか1個でいいから引っかかってくんねーかな」

「俺ももっと受ければよかったな」心細そうに小さく呟いて、日向は爽大の手を繋いだ。

爽大は、戸惑いと喜びとでわけがわからない。

だけど、きっとこれは幸せの瞬間というやつだと、ぼんやりと考えていた。


「こうしてると、つきあってるみたいだね」

日向の言葉に爽大は答えられない。

だけど、このまま時がとまればいいのに。そう思った。


日向と紅葉を見ているときに、告げられた。

「彼女出来たんだ」

「そうなんだ」急に心臓が早鐘を打つ。

「うん。だけど、なんかいろいろ。受験生だしさ。向こうはもう指定校で大学決まってるんだって。連絡しろとかうるさくって」そうなんだ。全然知らなかった。

爽大が黙り込む。

「爽ちゃん、先輩とはどーして別れちゃったの」

どうしよう。イヤだって言っても? いや、早めに教えてもらってよかったじゃん。恥かかずに済んだ。


好きって伝えることもできないなんて。しょーがない。この関係壊したくなくてぐずぐずしてたのは自分だ。日向に彼女ができるなんて、容易く想像できたのに。

「なんかな」

「うん」

「キスが下手なんだって」嘘。先輩とはデート中にケンカになって、嫌になって逃げた。先輩に怒鳴られたっけ。学校でも教室まで来てしつこくて辟易した。こっちもなんかやらかしたかもしんないけど。だもんで手を無理矢理繋がれたくらいかな。

日向はププっと笑った。ちょっとは、堪えろっての。

「ちょっと練習させて」そう言って日向の頬に優しく触れる。

ん。自分でも言ってること意味不明。だけど、男だしいーかな、と。友だちなんだし、そう傷つかんだろ。ってこっちの勝手か。__だよな。

口付けようと身構えたのはいいが、こっちは169cm。日向は176cm。

もちろん、逃げられましたとも。


「なにする気?」日向にちょっと睨まれる。

「え。抱きしめてもイイ?」仕方ない。変更。

「ヤだよ。セクハラ」そんなにイヤ? 嫌いなムシを見る目で見ないでよ。こっちは、これでも勇気を振り絞ってんだよ。

「男同士はならないのー」心折れた。

「触ったら、騒ぐからね」おかしいぞ。フツーBL小説だとヤダとか言いながらなんかしらないうちに進んじゃうんだよ。ってこっちは初めてだっつーの。そんなテクあるわけねーだろ!

「そんなん言ってたら。ブーブー」くすん。ダメだって。ツライよー。そっちだけ楽しんでんじゃねーよ!!  フラれろ!  ぜってー幸せとか遠くから祈ったりしねーから!


佐々木 日向 高校三年生。男子。身長 176cm。BMI 標準。あっさり平凡な顔。小さな瞳。愛嬌があり爽やかなタイプ。サッカー部


 © 石川 直生 2020.

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