第六章 光は闇を、闇は光を

第23話 昔話2


 魔導士は異世界人を嫌う。


 しかしある魔導士は、異世界人の技術をずっとずっと欲していた。


 

 積み重なる重責。

 代々受け継がれる大きな魔力。

 誰よりも大きな力は、自分自身のためには使う事が許されなかった。


 魔導士は孤独である。

 力を高め、効率的に使うためには、何度も限界を越える鍛錬をしなければならない。精神力の強さがすべてである。動じない心が求められる。


 比喩ではあるが、優れた魔導士は笑わない、とも言われる。


 感情の起伏は、力を不安定にする。一定の力をコントロールするには、感情は邪魔だ。



 かつて、愛した人がいた。

 彼女は小さな宿屋の娘で、本来なら接点のない身分の、片田舎の平民の少女。

 野の花を思わせる可憐な安らぎ。

 小川のせせらぎのきらめきの眩しさ。

 春の陽光のぬくもり。

 何もかも捨てて、この世界に浸っていたかった。

 しかし彼女の前では、感情を消すための心の氷が溶かされてしまう。


 異世界人の技術で魔法が不要になっていけば、自分はもう魔導士として生きていかなくてもいい。重責からも解放される。


 魔法さえなければと、魔法の世界にあって願う稀有な魔導士。


 何十年も、押し付けられた運命の力に、耐えるだけの日々。

 いつか約束された日が果たされる事だけを希望に生きる。



 魔導士は、魔法の世界にあって、誰も考えず、思いつく事もなかったありえない魔法を生み出した。



 術者の魔力の届く範囲の、すべての魔法を無効化する、分解の魔法。

 魔法を消し去る、それだけのための魔方陣。



 フレイアの「おとうさん」は、稀代の天才大魔導士。

 魔導士団の先代団長。

 ガイナフォリックス卿、その人であった。

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