第5話 介護会議

 病院からの帰りに入院に足りないものを買いに近くの大型スーパーに寄る。亜由美が病院から貰った「入院の手引」を見ながら買い物をしていく。

 泰治は亜由美と別れてケアマネージャーの和田に連絡を入れる。無事に入院したことや退院の後の事を相談した。

「では近く『介護会議』を開きましょう。そこでお母さまの状態を確認して対策を立てましょう」

 翌々日の午後に自宅に介護用品の業者共々来て貰うことになった。亜由美はその日は自分の母親の付添でやはり病院に行かなくてはならない

「ゴメンね、居なくて」

「大丈夫だよ」

 その日、自宅にケアマネージャーの和田と介護用品の会社の綿貫がやって来た

「ご無沙汰しています綿貫です」

「どうも」

 泰治は二人に上がって貰って椅子をすすめる

「でははじめましょうか」

 和田の言葉で介護会議が始まった。

「お母さまの状態ですが、実は今日の午前に病院に伺いまして、状態をチェックしまして先生や看護師の方から色々と伺いました。それでですが、病院ではリハビリをなさっていますが、ご自宅に帰られてもやはりリハビリをなさった方が良いと思います」

 和田は一昨日連絡を受けて早速病院に行ったのだった。

「そうですね。今行ってるデイサービスではリハビリはやってないので、出来れば変わるか変更出来れば良いと思うのですが」

 泰治が希望を述べると和田は

「そうですね。私もそれが良いと思います。回数ですが今回は介護ベッド等も必要になるのですが『要介護3』ですので週3回は通えると思います。すべて変えてしまいますか?」

 本来ならそれが良いのだろうが、和子は今まで通っていた所を気に入っている。

「出来れば今までのところを週1にしてリハビリのところを週2でどうでしょうか?」

 中途半端だがそれが良いとこの時は考えたのだ。和田はそれを聞いて

「ではそうしましょう。今までの所でも体操をして頂きますから大丈夫だと思います。リハビリのデイサービスですが、近くに最適なところがありますので連絡を入れてみます」

 そこは泰治も知っている施設だった。最初の時に選択の一つに入っていたのだが、あの時はリハビリは必要ないと思っていたので選考から外したのだ。

「どのような流れになりますか?」

 泰治の質問に和田は

「向こうの施設の方と面接をして頂きます、その後施設の見学をして希望日の調整という流れになると思います」

「面接を見学は母もですよね」

「そうですね。そうなります。それと平行して病院からデイサービスにお母さまの状態の資料を送って貰います。リハビリの具体的な状態とかありますからね。これは私がやりますので大丈夫です。綿貫さん介護用品ですが、どうなりますか?」

 指名された綿貫は

「まず、介護ベッドですね。それと家の中をどうするかですが」

 泰治は

「私としては家の中でも車椅子で移動出来させようと思っています」

「そうですか、では段差解消のステップを何箇所か設置しましょう。そうなると問題なのは玄関ですね」

 泰治の家の玄関の上がり口はかなり高い。それはこのあたたりは低地なので古くは洪水の被害が酷かったのだ。だからこのあたりの家は嵩上げしてる家が多い。泰治の家も玄関を入って上がるまで40センチあった。

「段差解消の装置は色々ありますが、この家の玄関に入るものとなると限られます。幾つか持って来ますので、それから決めましょう。ベッドは電動になります。それに介護用のマットですね。これはおもらしをしても洗えたり拭けたりするやつです。それとベッドの側に捕まる柵かポールが必要ですね。

「それは何の為ですか?」

 泰治の質問に綿貫は

「ベッドから立ち上がって、車椅子に移動したりする時に支えや捕まるものが必要になります」

 それを聞いて泰治はさすがこの道のプロだと感心してしまった。

「退院する前に一応設置してみましょう」

 その他色々な事を話してこの日の「介護会議」は終了した。

 病院へは亜由美が毎日のように通ってくれた。一日10分ほどしか面会出来ないが、和子に家の様子などを伝えていてくれた。それに入院している間に使う色々なものも買わなくてはならない。和子の場合だと紙おむつとかパッドとか色々とある。それは逐一看護師から言われるのでその度に揃えなくてはならない。

 亜由美によると和子は病院では真面目にリハビリに取り組んでいるらしい。それは和田も病院で何回か確認したが泰治には

「家に帰って来たらまず、やりませんからそれは覚悟していてください。特にお子さんが介護なさっていると甘えが出てしまってやらなくなりますから。だから状態が回復するのは正直難しいと思います。今よりも悪くならないようにする事が目的となります。それは正直覚悟していてください。それと無理はなさらないでくださいね。何かあれば相談にのります。ショートステイとかの選択も」ありますらかね」

 和田はそう言って泰治に無理をしないように言うのだった。

 やがて退院の数日前に介護用品が色々と運び込まれた。電動介護ベッド。これは電動でベッドの高さや背中の部分が起き上がることが出来るものだった。

 その上に乗るマットは青いカバーが掛けられて防水仕様となっていた。亜由美はこれに合うようにやはり防水の介護用のシーツを何枚か買ってきていた。それを敷くと

「うん、大きさは丁度良かったね」

 そう言って満足げな表情を浮かべた。

 段差解消のステップはゴム製で和子のベッドが置かれた今までテレビを見ていた部屋とトイレに向かう二箇所に置かれた。

 問題は玄関の装置だった。幾つか持って来てくれていたが、玄関に入るのは椅子状のもので本人が椅子に乗りそのままステップアップするものだった。これは亜由美が乗って試したが

「これは駄目よ。怖すぎるからお義母さんなら駄目だと思う」

 それを聞いて綿貫は

「困りましたね。後は電動で大掛かりな工事を伴のですが……」

 そう言って腕を組んだ。亜由美は

「今日持って来てくれているのは他にはどのようなものなのですか?」

 亜由美の質問に綿貫は

「空気で車椅子ごとアップするヤツですがこの下駄箱に当たるので入らないんですよ」

 そう言って困った表情を浮かべた。それを聞いて泰治は

「これ確か括り付けでは無いから動かせると思うよ」

 そう言って下駄箱を引くとあっけなく動いた。

「ああそうなのですね。動かしても大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

 泰治は綿貫に手伝って貰って玄関にあった下駄箱を台所にある勝手口に移動させた。そうして大きな黒い台が備わった装置を玄関に設置した

「ピッタリですね。何とか大丈夫そうですね」

 綿貫は亜由美と泰治にやり方を説明して実際に亜由美が実験台になって車椅子に座って泰治が上げ下げをしてみた。基本は装置の横のレバーで下げ、足踏み式のペダルで上昇するのだ。

「うん大丈夫そうね」

 こうして玄関の問題は解決した。後はベッドの横にポールを設置するだけだった。これは天井の梁と床や畳に突っぱり棒の用なポールを垂直に設置するのだ。ベッドから立ち上がる時に捕まるのだが、これは病院やリハビリのデイサービスで使っているのと基本同じものだと言うことだった。和子もこれなら慣れて使い易いだろうと言う考えだった。

 こうして和子を向かい入れる準備は整った。

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