第4話 入院
病院に到着すると話が通っていたので、準備が整い次第診察となった。レントゲン等も撮影して三十分ほど待たされ診察の結果が出た。診察室には和子が横たわっていて、その側に座らされた。
「では診察の結果を述べます」
胸に「入来」と書かれたプレートを付けた医師は
「右股関節の変形ですね。年齢からいって手術は出来ないでしょう。それにウチではその手術はやっていません」
医師の告白に泰治は
「ではどうしても手術を望めばどうなりますか?」
「何処か出来る病院を紹介しますが、リハビリ等もかなり辛いので完治はしないと思います」
「ではこのままと?」
「そうですね。一週間から十日ほど入院して頂いて、その間にリハビリをやります。そうやって、これからの付き合い方を学んで頂きます。それが現実的だと思います。リハビリですがお母さまは片肺ですので厳しいリハビリは困難だと思われますので、何が出来るのか、あるいは、どうやったら日常生活に復帰出来るのかを探って行きたいと思います」
入来医師はそうって和子が元のようになるのは困難だと語った。
入院が決まり、後から来た亜由美と一緒に、準備をする。家に帰ると和子は病院から貰った「入院の手引」を見ながら
「必要な買い物は私がするから、取り敢えず入院保証金を降ろして来て」
亜由美がそう言って近所の大型スーパに車を走らせた。泰治は自転車で和子の預金がある銀行に向かった。そこある程度纏まった金額を降ろした。というのもこの病院の入院保証金がかなり高いと聞いていたからだ。
買い物から帰って来た亜由美と車で一緒に再び病院に向かう。
「ええと、タオル二枚、コップが二種類。お茶や薬を飲むのと歯を磨くやつね。それから着るものは病院のレンタルを頼むから良いとして……」
病院から貰った入院の手引の紙を見ながら、細々としたものを確認していた。
病院に到着すると泰治は事務室の「入院手続き」と書かれた所で保証金を払い手続きをした。保証金の金額は聞いていた額より安かったが他の病院よりは高額だった。
「退院なさる時に精算」致します」
十日ほどでは返金の方が多いかなと泰治は思った。病室の番号を聞いて病室に向かう。既に亜由美が和子と話をしていた
「ああ、こっち、こっち」
亜由美が手招きするのでその方向に向かうと、八人部屋の一番隅に和子のベッドがあった。
「テレビのカードも買ったわよ。見ると思うし、退院の時に残っていれば精算してくれるそうよ」
それを聞いて、確か昔自分が入院した病院は精算はしてくれなかったので同室の人にあげてしまったことを思い出した。
「そうか、とりあえず良かった」
「お義母さん、リハビリ頑張るんだよ! パパは毎日は来れないけど私が変わりに来るからね」
コロナが蔓延していたので面会は家族のみで一日十分のみと決められていた。病棟に入るにも消毒をしてマスク着用でなければ入れない。
「悪かったねえ。ありがとうね」
二人は必要なものをベッドの脇の棚に整理して、病室を後にした。今日は制限されないとは言え、時間が三十分は過ぎていたからだ。
「じゃまたね」
「じゃーね」
二人の言葉に和子は小さく手を振った。
帰りの車の中で亜由美は
「とりあえず、十日は安心出来るわね。パパもこの間は休めるわね」
亜由美は助手席に座ってそんなことを言った。確かにここ数日泰治はろくに眠っていなかった。体力的にもそろそろ限界が近づいていた。
「確かにな。でも今回は助かったよ」
「まさか野老くんが理事の一人とはね」
入院した病院の関係者に亜由美の高校の時の同級生が居て、その筋から頼んだからだった。通常なら外来を通さないと受付て貰えないからだ。寝たままの状態の和子を外来には連れて行けなし、ここの外来は、その様な患者を受け付ける事は想定していない。つまりストレッチャーが入らないのだ。ストレッチャーが入る外来の整形外科は全国でもそうはないだろう。だから最初に救急車で運んでしまえば簡単だったのだ。この点で泰治は見通しが甘かっ。和子の状態を前にも治ったから今回も治るだとうと甘く見てしまったのだ。今回はそれが裏目に出て、面倒臭い事態になってしまったのだ。
「お互いに何かあったら救急車を頼もうね」
亜由美が呟くように泰治に語りかけると泰治も
「そうだな。お互い何時来るか分からないからな」
泰治と亜由美は同じ年齢だから、今は良くても何時何が起きるか分からないという事を改めて思ったのだった。
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