第3話 要介護3と入院
和子が「要介護2」に認定されて半年が過ぎ、「介護会議」が開かれた。議題は和子の介護の今後の方針なのだが、ケアマネージャの和田は
「お母さまですが、最近の様子を見ると、もう少し上の判定が出ると思うのですが、泰治さん如何なされますか?」
「認定が上がるとどうなりますか?」
泰治としては具体的にどう変わるのかが知りたかった。和田は
「そうですね。ます要介護3になりますと、デイサービスの使用料が若干上がります。それと出来ることが増えます。具体的には介護ベッドなどが借りられるようになりますし、その他の介護用品も借りられるようになります」
「介護ベッドですか?」
泰治が呟くと介護用品の会社の綿貫が
「電動で起き上がらせたり、ベッドの高さも変えられるモノですね。それがリース出来るようになります。それと今お使いの車椅子ももっと機能的に優れたものに変更も出来ます」
そう言ってパンフレットを泰治に見せてくれた。今後これが役に立つとはこの時は思わなかった。
「デイサービスの使用量が上がるとのことですが具体的にはどのぐらいですか?」
泰治はそのあたりもちゃんと把握しておきたかった。
「はい、一回の仕様が数十円ですね。100円は上がらないと思います。それとデイサービスでの訓練出来る項目も増えます。」
「それは?」
「例えば『口腔訓練』ですね。所謂、お口の訓練です。誤飲やその他を防止して更に脳への刺激を与えます」
「その費用はいくらぐらい掛かりますか?」
「一回五十円で、週1回です。それと毎月は出来ませんので隔月になります」
つまり月に二百円ということだ。それで誤飲防止になるならと思った
「ではお願いします」
介護会議では今後も和子の日常生活復帰を目指すことが確認されて終了した。
翌月の判定会で和子は要介護3になった。判定の見方もあるが要介護3になれば誰かの介添を伴わない限り日常生活を行えないと認知されたということで、一人では生きられないということなのだ。和田は泰治に
「辛くなったら施設という方法もあります。無理に頑張り過ぎて体を壊しては元も子もなくなります。最初にショートステイという考えもありますので頭の隅に置いておいてください」
和田は新しい介護保険証の確認をしながらそう言って泰治に無理をしないように忠告をした。
その後和子に半分冗談でショートステイのことを言ってみたら
「絶対に嫌」
とけんもほろろだった。妻の亜由美は
「友達のところなんか、温泉に行こうね。ってショートステイに連れて行くそうよ。たまには息抜きしないと駄目になるって言っていたよ」
そう言って友達や知り合いの情報を仕入れては泰治に教えるのだった。でもこの時までは和子はシルバーカーを押して自分でトイレにも行けたし、台所の冷蔵庫から好きな缶酎ハイを持って来て飲む事も出来た。食事も泰治が作ったものを用意しておけばレンジで温めて好きに食べていた。一応家のことは出来る範囲ではやっていたのだった。
歳が明けて泰治の仕事も忙しくなった。毎年1月や2月は新年会で忙しいのだが、今年は何時もなら暇になる3月も予約がかなり入っていた。
だがコロナウイルスで一変した。すべての予約がキャンセルになり3月以降全く仕事がなくなってしまったのだ。
色々な保証の申請をだして取り敢えずは凌げたが先が全く見えなくなっていた。そんな時に仕事から帰って和子の様子を見ようと一階に寄ってみると、和子が何やらうめき声を出している。
「どうしたの!」
呼びかけると
「ああ、泰治。起きられなくなっちゃった。立てないんだよ」
見ると和子はちゃぶ台に手をついて立ち上がろうとしているのだが、脚が立たず苦しんでいた。前のような状態になったのだと泰治は思い、取り合えす隣の部屋のベッドまで運ぼうとしたが、今度は重たくてとても無理だった。和子が全くのマグロ状態だったからだ。
後から思えばこの時に救急車でも呼んで救急病院にでも行けば良かったのだが泰治は前の時と同じように数日経てば戻るのではないかと思ったのだった。
取り敢えずその場所に布団を敷いて和子を寝かせることにした。最近和子は缶酎ハイを日に4本飲んでいた。それもアルコール濃度9%のものだった。
「調子に乗って飲ませ過ぎたな」
そう反省はしたが、重大なことなるとは思わなかった。
数日経過しても和子の状態はそのままだった。これは何処かに入院させなければならないと泰治は思い始めていた。ことの重大さにやっと気がついたのだった。
色々と手をつくして、亜由美の高校の同級生がやっている病院が見てくれることになった。しかし連れて行く方法がなかった。
救急ではないので救急車は頼めない。自分の家の車には乗せられない。和子は寝たきりなので、とても普通の乗用車には乗せられなかった。和田に相談すると
「仕方ないので介護タクシーを頼むしかありませんね。予約しましょうか?」
「お願いします」
和田翌日来てくれる介護タクシーの予約を取ってくれた。
「料金なのですが、ここから病院まで10000円です。これが基本料で今回はお母さまを運ぶ為に介護人が必要ですので他に6000円かかります。よろしいでしょうか?」
泰治としては宜しいも何もなかった。どうしても病院に連れて行かなくてはならないからだ。
「お願いします」
「判りました」
翌日予約した時刻に介護タクシーはやって来た。寝ている和子を毛布に包み、その外から大きな布を巻き、両方を肩からぶら下げるようにして持ち上げ家の外に停めてあるワゴン車に乗せたのだった。泰治も同乗し亜由美に後から車で来るように言ったのだった。
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